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身に覚えがありすぎて、もはやホラー!?フリーランスとしての生き様を考えさせられるタイ映画2本

オーバーワークを自覚する人への1本…『フリーランス』

好きなことを、好きなだけしていられる仕事で生きていきたくて、フリーランスという働き方を選んだ。だからこそ、スケジュールが多少(“相当”の時も)キツくても、魅力的な依頼をいただくと「ちょっと頑張ればいける」と引き受けてしまう。睡眠欲より、「あの仕事、やりたかったな」と後悔したくない気持ちが勝る。そんな働き方を続けている結果、睡眠不足と酷使で真っ赤に血走った目で今これを書いています。

良くないと分かっているけれど、体力のあるうちは、なかなか止められないオーバーワーク。「ホント、このままではマズいですよ」と大いにダメ出ししてくれた作品が、今回紹介するタイ映画『フリーランス』(2015)です

主人公は、グラフィック・デザイナーのユン。下請けのフリーランスを人とも思わないクライアントからの無茶な要求に徹夜で応え、来た依頼は断りません。スケジュール表は常にいっぱい。四六時中、画像修正の手を止めず、何日も徹夜で働き続けられることが自慢です。そんな仕事漬けの生活がたたって、気づけば全身にナゾの発疹が……。痒みで集中力が落ちることを恐れたユンは(理由!)皮膚科を受診します。

激混みの待合室では、時間が気になってずっとイライラ。やっと自分の順番が来て診察室に入ると、そこにいたのは若くて美しい研修医のイムでした。

親身になって生活習慣の改善をアドバイスしてくれるイムにときめくユン。イムは“宿題”として、夜9時までに寝ること、毎日運動すること等々、生活のすべてを仕事に捧げているユンにはかなりハードルの高い注文をします。ユンは彼女のために、言いつけを守ろうと努力しますが……。

「この仕事を断ると次はないかも」「一度ヘマすると終わり」――そんなフリーランスゆえの焦り、健康被害などなど、身に覚えありのエピソードがずらり。

「仕事をしている時間が一番楽しい」というユン。その気持ちもよく分かります。私も友達からの飲みの誘いより、仕事の依頼の電話のほうが嬉しいタイプ。でも、それが本当に本当の気持ちなのだろうか? どこか麻痺していやしないか? ユンの通話履歴は、仕事のパートナーだけ。彼が失いかけたものを突きつけられた時、背筋がちょっと寒くなりました。

人を物のように扱う取引先って必要? 命と引き換えにしてまで働いて得られるものは? 好きな仕事をしてきたのに、埋められない穴は何? やがて自分と向き合い、取捨選択していくユン。働き方を見つめ直すきっかけを作ってくれる作品です。

映画の目利きが選りすぐった世界各地の多様な映画を配信する「JAIHO」で2022年2月24日まで配信中。配信期間が短いですが、2週間のお試し期間もあるので、気になった方はぜひチェックを。

「理想の自宅オフィス計画」で見えてきたのは…?『ハッピー・オールド・イヤー』

BLドラマから火が付き、日本でも熱狂的なファンを増やしているタイのエンターテインメント。『フリーランス』を撮ったタイ映画界の俊英ナワポン・タムロンラタナリット監督による作品をもう1本、ご紹介します。

日本では2020年に公開され、現在Netflixで配信中の『ハッピー・オールド・イヤー』(2019)です。

フリーランスに限らず、在宅ワークをする人が増えた昨今、改めて理想の仕事場について考え、断捨離を決意した人も多いのではないでしょうか?

『ハッピー~』は、スウェーデンでライフスタイルを学び、ミニマムな暮らしを実践しようとするデザイナーのジーンが、実家を改築して理想のオフィスを作ろうと断捨離を進める物語です。リフォームまでの期限は約1か月。それまでに家中に溢れかえる物を片づけなければいけないのに、兄はジーンが目指すミニマムな暮らしが理解できず、母は思い出が残る家をリフォームすることに大反対。さあ、どうする?

ジーンが部屋を片づけていくと、友人たちから借りたままにしている物がザックザク出てきます。それを返却して回るうちに、自分が切り捨ててきたものや、心に留めていなかった人の善意、人の心の痛みに気づいていきます。

本当は繊細で優しい人なのに、自分の心の傷をクールな仮面で覆っているようなところがあるジーン。自分がすっきりするように、グレーな部分を全部白で塗ろうとする身勝手さがあります。そうした言動はたいてい無自覚なもので、非常に身につまされました。

乱れた部屋は心を映す鏡だとよく言われます。断捨離は自分の内面に向き合い、大事なものを取捨選択するプロセス。要らないものは全部捨てて、理想を極められればいいけれど、グレーの部分をグレーのまま、抱えて生きていくことも人生の彩りなのかもしれません。

我を貫く強さも大切ですが、仕事の先には必ず人がいる。それゆえにままならない部分もまた豊かさを生むことを、気づかせてくれる2本です。

『ハッピー・オールド・イヤー』
2022年3月21日(月・祝)より、シネ・ヌーヴォにて開催の
PFFプレゼンツ ナワポン・タムロンラタナリット監督特集」内にて上映
(『フリーランス』も同特集内にて上映)
配給:ザジフィルムズ、マクザム
(c) 2019 GDH 559 Co., Ltd.

新田理恵
ライター・編集・字幕翻訳者(中国語)
大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員を経てフリーに。映画、ドラマ、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆している。
Twitter:@NittaRIE
Blog:https://www.nittarie.com/

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