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イライラやカッとなる感情はコントロールできる? フリーランスが知りたいアンガーマネジメント

人はカッとなったとき、吐き出すかor我慢するか

突然ですが、仕事相手についカッとなったことはありますか?

その時、あなたは怒りにまかせて、言わなくていいことまで口にしましたか?
もしくは、ぐっとこらえて怒りの感情を飲み込みましたか?

一般的に人は怒りに対して、次のような行動を取ることが多いと言われています。
①怒りをそのまま相手にぶつける
②ぐっとこらえて我慢する

フリーランスの場合、クライアントと良好な関係を築くのは、今後の業務において重要です。なるべくなら①の「怒りをそのまま相手にぶつける」行動を回避したい人が多いと思います。
では、②の「ぐっとこらえて我慢する」の行動を取るのが正解なのでしょうか。
一見、悪いことは起こらないように見えますが、心理の専門家である私は、「我慢」のマイナス面に着目しています。
一度だけの我慢であれば問題ありませんが、もしその我慢が長く続いてしまうと、「人間関係がおっくう、面倒くさい」と思うようになってしまう可能性があるからです。
自分ばかりが我慢して疲れてしまうのは自然な反応です。しかし、人づきあいまで面倒に感じてしまうのであれば、その行動も回避したほうが良いと思います。
さらに最悪なケースは、怒りをぐっとこらえて我慢しているつもりでも、漏れ出てしまっていることです。
かくいう私自身は「思ったことがそのまま顔に出てしまう」典型例でした。だだ漏れ状態だったため、いつもより口数が少ないな、機嫌が悪いのかな、と相手に気を使わせてしまっていたこともあったようです。

「また一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるかどうかは、フリーランスの生命線と言っても過言でありません。できたら営業せずとも、継続的に仕事が回ってくるようになりたいですよね。
また、怒りを我慢して押さえ込むことのデメリットとして、心疾患系の病気のリスクを高めるリスクがあることもわかっています。
つまり、怒りの感情をマネジメントできれば、仕事においても、自分の健康においても良いことづくめだと言えるでしょう。

イライラは、ダメな感情ではありません!

ここまで書いてみて、怒りって、なんてムズカシイ感情なんだろう、と思います。
怒りを感じたときの対処法に悩む人の多くは、「イライラしやすい自分が嫌」と自己嫌悪に陥るそうです。
私は、大学院に在籍していた5年間、「怒り」をテーマに研究をしました。そんな私にとっても、怒りはやっぱりムズカシイ感情です。でも、それと同時に、研究したからこそ、「怒りはスバラシイ!」と伝えることができます。

怒りのどんなところがスバラシイかというと、これまで紹介した不安落ち込みと同じように、感情の方程式にそのヒントがあります。
怒りは、「大事なもの×傷つけられた=大事なものを守るためのエネルギー」という方程式で表される感情です。
最近、怒りを感じた場面をいくつか思い出してもらうと、そうかそうかと納得してもらえると思います。

・仕事をするうえで大事にしている価値観を否定されたとき。
・時間をかけて取り組んだ仕事を、たった一言で白紙に戻されたとき。

このように、怒りを感じるのは、自分が大事にしているものを傷つけられた瞬間なのです。
裏を返せば、怒りは、自分の大事なものに気づくチャンスとも言えます。
怒りを感じることができるのは、大事なものがある証なのです。とても素敵なことだとも思いませんか?

「自分は仕事をするうえで、ここにこだわりがあるんだな」
「今回は初めての経験であれこれ悩んだけど、苦戦してようやく仕上げた大事な仕事だもの」

こんなふうに、「だから腹が立つんだ!」と納得できると、それだけでも少しスッキリするのではないでしょうか。

カッとなるのは、大事なものを守るエネルギー

怒りを感じたとき、皆さんの身体はどう変化しますか?
カッとなる、なんて言葉があるように、心拍数が速くなって血がめぐったり、肩にぐっと力が入って緊張状態になると思います。
これも、怒りの方程式に立ち戻ってみると、理由が分かります。
大事なものを守る行動をとれるように、エネルギーが湧くのです。
ただ、このエネルギーこそが、怒りがムズカシイと思われる原因でもあります。
このみなぎったエネルギーを相手にそのままぶつけてしまうと問題になるからです。

小さい頃、怒りを外に出したとき、「癇癪(かんしゃく)を起こさないの!」、「大きな声を出さないで!」と叱られるというのは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
たしかに、怒りは表現方法のムズカシイ感情なのですが、「怒りを感じる」ことと「怒りを表現する」ことは別物です。

けれど、こうした幼いころの経験から、「怒ってはダメ」と怒りを感じることそのものがいけないことだ、いうメッセージとして受け止めてしまっていることも多くあります。
大事なものが傷つけられたら、怒りが湧きおこる。
それ自体は、とても健やかなこと。
なのに、なかったことにしたり、抑え込まなければいけない。
こんなことをしているうちに、私たちは、怒りとのつきあい方がとっても不器用になってしまっているのです。

「怒り」とつきあうための道具は「言葉」

怒りを感じるのはOK!として、ただ、その怒りをそのままぶつけてしまうことは、フリーランスとして避けたいものですよね。かといって、前述のように我慢は身体にも悪いですし、それがきっかけで人間関係が億劫になるのも避けたい。

では、どうすればいいかと言うと、怒りの感情の方程式に戻り、「大事なものを守る」ための行動につなげられればいいのです。

人間が森で暮らしていた大昔は、相手に殴りかかって、自分の大事なもの(家族や仲間)を守ることが理にかなっていたかもしれません。でも、今の時代、殴りかかるのは得策ではありません。
では、どうやって大事なものを守るのか。それは、「言葉」です。

攻撃的ではなく、けれど、我慢するのでもなく、「関係をつくる」ように怒りを伝えられる「DESC法」という4ステップでセリフを組み立てるのがおすすめです。
DESCはそれぞれのステップの頭文字をとっています(図)。

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連絡もなく遅刻してきた相手に「DESC法」で伝えてみよう!

では、事例を使って、セリフを組み立ててみましょう。
打ち合わせに相手が連絡なしで遅刻してきた、という事例です。

打ち合わせの時間になっても相手がミーティングに現れない。
連絡もなく、こちらから連絡しても応答なし。
やきもきしながら30分過ごしたのち、相手が何食わぬ顔で現れました。

それでは、セリフを見ていきましょう(図)。

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1、まず、「Describe」では、客観的な状況から始めます。
ここを「いつも遅刻じゃないですか!」という具合に、主観的に始めると、どうなるでしょう。
恐らく相手からは言い訳のオンパレード。
ますます腹が立ってしまいます。
けれど、相手も「そうだ」と言える客観的な状況から話を始めると、「たしかにそうだった」と、相手が話を聞く姿勢になってくれます。

2、「Explain」では自分の考えや気持ちを伝えますが、ここも、「あなたはルーズすぎます!」なんてYouメッセージで始めてしまうと、言い争いや言い訳モードのスイッチを入れてしまいます。
Iメッセージから始めれば、「あなたはそんなことを考えていなかった、感じていなかったはずだ!」なんて否定されることもないので、話を先に進めることができます。

3、「Suggest」では、具体的かつ相手が実現可能な提案をしていきます。
ありがちなのが「次からはちゃんとしてください!」なのですが、「ちゃんとする」には10人いれば10人の「ちゃんとする」の程度があるので、あなたと相手の「ちゃんとする」がぴったり同じであるはずはなく、「やっぱりちゃんとしれくれなかった!」と次のトラブルのもとになります。

4、「Choose」は先ほどお伝えしたように、「NO」と言われることもある、と心づもりさえできていれば、セリフとしては伝えなくても大丈夫です。

こんなふうに、怒りを爆発させて攻撃的に伝えるのでもなく、我慢するのでもなく、「大事なものを守る」ために伝えられると、自分の気持ちもスッキリします。
相手を尊重したうえで、自分の気持ちを伝えられる「DESC法」を習得すれば、そのつど、話し合って、譲ったり譲られたり、お互いに落としどころを見つけながら一緒に仕事をしていくことができるでしょう。いずれ、信頼できるかけがえのない仕事相手になることだってあるかもしれません。

私は、怒りは「関係を壊す」感情ではなく、「関係をつくる」感情だと思っています。その意味でも、怒りは本当にスバラシイ!!!
皆さんも、ぜひ怒りを味方につけて、仕事も仕事仲間も手に入れてくださいね!

寄稿:関屋 裕希(YUKI SEKIYA)
心理学博士、臨床心理士、公認心理師
東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員。
早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて特任研究員として勤務。2015年より現プロフィール。
専門は、産業精神保健(職場のメンタルヘルス)であり、業種や企業規模を問わず、ストレスチェック制度や復職支援制度などのメンタルヘルス対策・制度の設計、職場県境改善・組織活性化ワークショップ、経営層・管理職・従業員それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行う。これまでの講演・研修・コンサルティングの実績は10,000名以上。
近年は、心理学の知見を活かして、理念浸透や組織変革時のインナーコミュニケーションのデザイン・設計にも携わる。現場で活用しやすい提案でありながら、エビデンス(科学的根拠)に基づいたアプローチを取り入れている点が特徴。臨床心理士として、精神科クリニック、小中高の教育領域での個人カウンセリング経験があり、現在も、企業内健康管理室にて個人カウンセリングを担当する経験から、組織的視点と個別的視点の両方をもちあわせている。心理療法としては、マインドフルネスを含む認知行動療法、エモーション・フォーカスト・セラピー(感情焦点化中心療法)をオリエンテーションとする。

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