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秘密は“信用貯金”。移住と独立の”ソワソワ期”を脱して築いた独自のキャリア【求人ステーション統括/葛谷美里】

フリーランス協会で働く人を紹介する「突撃!フリーランス協会の中の人」。

今回は、フリーランスに仕事を依頼したい企業向けの無料相談窓口「求人ステーション」の統括コーディネーターとして、フリーランスが専門性を発揮しながら安心して活躍できる土壌を広げるために日々奮闘している、葛谷美里をご紹介します。

「求人ステーション」の統括コーディネーターの葛谷 美里(かつたに・みさと)

大手人材会社で人事・営業・管理職を経験。アウトソーシングのコンサル営業時代には社内最高売上を記録。結婚を機に縁もゆかりもなかった福岡県へ移住し、第1子育休を活用してMBAに通い始め、修了。福岡地場企業の人事責任者を経て、2018年に独立。東京および九州全域の企業様に対し、経営者伴走型で採用支援や社員研修・組織作りを行っている。
フリーランス協会では、フリーランスの活躍の場を広げるべく、「求人ステーション」の統括コーディネーターとして企業のフリーランス活用を推進・支援している。

太陽のように明るく、「快活」の二文字が服を着て歩いているような葛谷。ほとばしるパッションで何事も豪快に推し進めてくれるようでいて、実はとっても気遣い屋さん。単にパワフルなだけでなく、お問い合わせをくださる企業や一緒に働くメンバー一人ひとりの心情に高性能アンテナを張り巡らせています。

研修講師の仕事もしているだけあって、とにかく声が大きくてマイク要らず(笑)。じっとしていられなすぎて、10年以上前から”育休中リスキリング”の実践者にもなっていた葛谷に、外部ライターが突撃インタビュー!


人事の伴走やオリジナル研修で、企業の成長をサポート

──この連載初のリアル取材です。海を眺める素敵な事務所ですね……! さて早速ですが、美里さんの今のお仕事を教えてください。

海を一望できる事務所にて。東京や九州など全国の人事・採用支援に取り組んでいる。

葛谷:主には中小企業の人事・採用まわりに伴走させていただきながら、人事担当者の育成に携わっています。中小企業は人事専任の方がいないことも多いので、私がアドバイザリーとして入り、担当者の相談にのりながら、人事・採用のノウハウをお伝えする形です。

一方、東京のオンライン医療サービスの会社では、私が実働する形で、採用や組織作りを担当しています。
さらに自社事業として、ヨガやマインドフルネスの要素を取り入れたオリジナルの企業研修も行っています。また、フリーランス協会事務局の仕事や今住んでいる福岡県福津市つながりでいただいた仕事も並行して行っています。

2019年10月 フリーランス協会でお手伝いした九州経済産業局事業では企業×フリーランスのマッチング合宿を地元の福津で開催。

──さすがプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の事務局メンバーだけあって、かなり“パラレル”でお仕事をされているんですね。それも、お住まいの福岡だけではなく、東京の会社もクライアントになっているとはすごいです。

葛谷:私は結婚を機に出身地の神奈川から福岡へ移住しているので、首都圏の人脈があることも、多拠点で働けている大きな理由かもしれません。
今は、月に1回、2~3泊程度で東京に行くことが多いです。オリジナル研修関連の仕事に加え、フリーランス協会事務局の関東在住メンバーに会ったりもしますね。

──多拠点に仕事を持つような生活に関心のある読者も多いと思いますが、美里さんは東京と福岡、どんなバランスで働いていますか?

お仕事の割合は、東京と九州各地、稼働時間と報酬面においても半々くらいです。皆さん今はリモートワークに慣れているので、コロナ禍前には想像もできなかったくらい、やりやすくなりました。あれ、今日どこの人と話してるんだっけ、東京と大阪と福岡と……みたいな(笑)。

モヤっとを抱えている社員の方々に向けた研修を自主企画

──ところで、先ほど自社事業として話されていた、ヨガやマインドフルネスを取り入れたオリジナル研修の中身が気になっています!

葛谷:一言でいうと「モヤっと解消、自律化プログラム」でしょうか(笑)。自分のことを振り返り、すべてを自分ごとにして考える習慣をつけ、主体的に取り組めるようにするプログラムです。

たとえば、「はぁ、なんか気乗りしないな、この仕事……」という会社員の方がいたとします。その方に、ヨガやマインドフルネスを通して心身にアプローチしながら、「自分はその仕事を、何のためにやるのか」「それは嫌なのか、やりたいのか」など、感じとる力を養ってもらうんです。

自分の価値観を知り、定期的にその変化をチェックしていくことが目的なので、1年に4回の年間プログラムとして行っています。

協会の合宿でも、チームビルディングスキルを発揮

──研修スキルを活かしてフリーランス協会の合宿でも企画運営に携わっているとか。2022年の5月は福岡で開催したそうですね。

葛谷:ええ。以前は3年間、東京で開催していましたが、メンバーは全国に点在しているので「遠征もいいね」となり、初の開催地が福岡になりました。翌日は、地元・福津市の魅力を満喫してもらうオプションプランも用意しちゃったりして(笑)。

──フリーランス協会の合宿では、どのようなプログラムを行うのですか?

葛谷:事務局メンバーは皆さん、極めて自律されている方々。ただその分、「ソロキャンパーの集まり」というか、昔は横串の弱いところもあったので。合宿を開催して、チームとして動いていくためのベクトル合わせと、相互理解のためのプログラムを行うようになりました。

──横串が弱いとはどういうことでしょう?

葛谷:チームで働くってすごく意義があることだと思うんです。ひとりではできない成長ができるから。ただチームがうまく機能するには、各人が「自分が何のためにこの団体に参加して、この団体で何を目指していくのか」腹落ちしている必要がある。

その理解を深めるために、ライフラインチャートや様々な診断ツールなどを使って毎回異なる角度から各人の価値観や想いを再認識したり、協会の目指すビジョンについて話し合ったり、そうした個人の価値観や得意分野と協会のミッションがどうリンクするかを考えてみたり。
毎回いろんなメンバーでコンテンツを練りながら、半年に1回の頻度で合宿開催を続けています。

育休活用のMBA取得で、「学生のとき独立しようと思っていたんだ」と思い出す

─美里さんはこれまで、どんなキャリアを歩んできたのでしょう?

葛谷:学生のとき、NPO活動を通して社会課題に向き合って働くことに興味を持って。サンフランシスコのNPOでインターンシップをしたのですが、進路に迷い、就職留年。その1年で国際NGO関連団体や国内NPOなど5~6団体で働く経験をしました。

結論、「私は今ここに入っても、力になれない」と痛感して。企業で修行して、いずれは自分で起業しよう!と思い、人材サービス会社のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社したんです。

結婚を機に福岡へ転勤してからは、当時開発中だった駅前の大型商業施設の開業準備室に飛び込みでアプローチし続けて。結果、数万人規模の採用案件につながったこともあり、「イカした仕事大賞」という全社表彰で、2年連続、ファイナリストになりました。

「イカで鯛を釣るようなイカした再現性ある仕事」を表彰して社内ナレッジにしていこう!という表彰制度なのですが、ファイナリストに選んでいただいたことで「やりきったな〜」と感じていたころ、妊娠が発覚。育休に入るとき、「ヤバい、ヒマになる」と思って、MBAの勉強を始めたんです。

──淡々と語られてますが、2年連続、ファイナリストとはすごいことですよね……!しかも、育休でヒマになるからMBAの勉強とは。

MBAで学んだ仲間と共に。

葛谷:ねぇ、今考えるとおかしいなと思うんですけど(笑)。出産前は朝から夜中まで働くのがルーティンになっていたから、ヒマになることに謎の危機感があったんですよね……。でもそこで経営を学ぶ中、ふと「そういえば私、学生のとき独立しようと思ってたんだ」と思い出して。

私、自分が営業のとき心身に疲れを感じていた経験から、「心身の健康」に興味があったんです。でも、どうアプローチしたらよいかわからず先生に相談したら、ヨガとピラティスのスタジオを展開する会社をご紹介いただき、転職して採用や新規事業まわりを担当しました。

同じ頃、流行り始めていたマインドフルネスという考え方に触れ、「これ、営業のときに必要だった!」と感じたんです。
マインドフルネスの要素を、企業の人材育成研修に入れたい」。そんな思いを、いろんなヨガインストラクターに話しましたが、なかなか理解はしてもらえず、「じゃあ自分でやろう」とヨガインストラクターを取得。オリジナル研修を提供するために独立しました。

自分がこれまで築いてきた信頼関係に、勝るものはなかった

──東京から地方へ移住後、独立してキャリアを築いてきた美里さん。移住や独立を考えている方々に、伝えたいことはありますか?

葛谷:「それまで築いてきたものを大切にしたほうがいい」ですかね。私、独立してから1年ぐらい、ソワソワしてたんですよ。

──ソワソワしていた?

葛谷:独立当初って、答えがない中にぽん、と飛び込む感覚というか、本当にこれでいいのか不安でした。その解決策になればと思い、いろんな業界の著名人にアポイントをとり、会いに行っていたんです。

大学教授、本の著者、業界内での著名人……。振り返ると、著名な方々と仲良くなれば先が広がるのでは?という、打算的な気持ちもあったと思います。人にどう見られるかを気にして、自分らしい話もできなくて。

結果、気づいたのは、「自分がこれまで築いてきた信頼関係に、勝るものはなかった」でした。「この世界観作りたいよね」と共感できたのは、昔の職場つながりの人や、大学院の仲間だった。

それに気づいて、自分もそこに時間を使うようになってからは、仕事も地域活動も、共感できる方が向こうから声をかけてくださるようになってきました。

「旗を立てねば!」と力んで右往左往していたときは、「今」に集中できていなかった。まさにマインドフルネスの話ですね。目の前の依頼や「今」に集中するようになって、すべてが好転してきた感覚があります。

フリーランス協会で、神戸市と一緒に金融機関や経営支援機関向けフリーランス活用推進ダイアログを開催。

「SNS発信」よりも、目の前の仕事に集中

──独立後、積極的にSNS発信などもしていましたか?

葛谷:「発信しなきゃ」の強迫観念って、”フリーランスあるある”のひとつだと思うんですよ。自分が何者かを伝えなきゃ、誰にも存在に気づいてもらえず、認めてもらえない!という恐怖感。私も独立当初はいろんな人に会い、それをSNSで発信して……。それが先ほど言ったソワソワ期です。

でもそれより、目の前の仕事の内容をいかにちゃんとやるかが大事だなと思えてから、むしろ仕事が広がっていきました。だからSNSは、そこでぶっつり途切れているんです。最近はまた“記録”として投稿していますけど。

大事なのは「目的が何か」見失わないこと。昔の自分は、発信自体が目的になってしまっていたと思います。その後は、「求めていただく依頼内容に、最大のパフォーマンスをお戻しする」が目的になったから。すると仕事の質も上がり、信頼関係が生まれ、その先でお仕事も広がっていくんですよね。

人の紹介や飛び込みで築いた、移住先での「仕事のご縁」

──先日も隣町の宗像市で女性活躍推進イベントを企画運営されていましたが、地域のお仕事はどうやってご縁を築いてきたのでしょう?

葛谷:宗像市のイベントは、フリーランス協会つながりのご縁がきっかけですね。初年度は講師として登壇させていただき、2年目の今年は、事業全体のコーディネートを手伝うことになりました。

──さらに地元の福津市でもいろいろな方とのご縁があるとのこと。そちらはどんなふうに広げていったのでしょう?

葛谷:元副市長を介して出会ったり、飛び込みでご縁をつくったりしてきました。

元副市長は、福岡県で女性活躍推進関連の活動も行う、アクティブで素敵な女性。最初は私が元副市長のことを知りたくて、周りをうろうろしていたんです(笑)。

そのときはご縁がなかったけれど、その後、私の活動が形になってきた頃に、副市長から「ちょっとこの人と会ってみない?」と世界を飛び回って仕事をしている移住の先輩を紹介してくれました。こうした刺激的な人たちとの出会いは、私のエネルギー源になっていますね。

令和元年度 福津市の女性活躍推進のモデルケースとして推奨された。

──飛び込みは、どのように行っているのでしょう?

葛谷:海辺のスタジオで、SUPNESS(サップネス)というフィットネスプログラムを作っている女性と出会ったのは飛び込みでした。その海辺のスタジオがあまりに素敵なので、ヨガのインストラクターをとった瞬間、そこでレッスンさせてもらえないかと電話したんです。

「どこに住んでいるの?」と聞かれて地元の名前を言ったら、「じゃあいらっしゃい!」と声をかけていただけて。その後ヨガレッスンを続ける中で、SUPNESSの営業・広報もお手伝いするようになりました。“このまちから一緒に新しいものを作り出していくわくわく感”をご一緒させてもらっています。

人材不足や経営課題に悩む企業に、フリーランス活用を後押し

──フリーランス協会と出会ったきっかけは?

葛谷:独立した頃、1社目の後輩と、人材サービス会社Waris代表の河さん(フリーランス協会事務局メンバー)がそれぞれ、「美里さんに紹介したい人がいる」と言ってくれていて。それがまりさん(フリーランス協会代表の平田)だったんです。

ある日、河さんから「明日まりさんが福岡に来てるから会いませんか」と言われて、まりさん、河さん、岩永さん(フリーランス協会事務局メンバー)と私の4人で会いました。

「働き方」の話だからすごく波長が合って。「協会が目指すこと、よくわかります」と言っていたら、まりさんが、「よかった〜、じゃあ福岡でもイベントやりましょう! 美里さんもサブリーダーで……」と日程調整が始まって(笑)。1か月後には、福岡でイベントを開催しました。

──すごいスピード感(笑)。今は「求人ステーション」の統括をされているとのこと。どんな内容なのでしょう?

葛谷:「求人ステーション」は、人材不足や未知の経営課題に悩む企業からフリーランスのプロ人材、副業人材の活用に関するお問い合わせを受ける、無料の相談窓口です。

協会にお問い合わせいただき、課題や業務内容、ご予算感などのご意向を伺って。「そのジャンルに強い仲介事業者さんならこういうところがありますよ」とご紹介するケースもありますし、案件の特性によっては「社長がご自身のSNSで募集したほうが早いかもしれませんね」とアドバイスするケースもあります。

──相談を受ける中で、印象的だったことはありますか?

先日、ある地方の会社さんから、「親の会社を2代目で引き継いだ。会社を存続させていくためにも新規事業をつくりたいが、アイデアがない。藁にもすがる思いで連絡した」というお問い合わせをいただきました。

過去の事例から「新規事業開発」についてはフリーランスで活躍している方がいらっしゃるという話をご説明したうえで、現状はリモートで関わることを希望される方もいるので、会社の立地は関係ないとお伝えすると、とても安心されていらっしゃいました。

また、「どのぐらいの予算を準備すればいいか分からない」と悩んでいらっしゃったので、その場合は、仲介事業者へ相談しながら決めていく形で構わないこと、仲介事業者の方々はプロとして相談に乗ってくれるので安心してよいこともお伝えしました。

私の役割は、会社さんが、仲介事業者へ連絡する時に「背中を押す存在」だったり、「やり取りで困った時に寄り添う存在」だと思っています。ですから、ご相談の最後に「地方でも、こんなに支援してもらえるんですね」と言っていただけたのは、嬉しかったですね。

後日、その会社さんとマッチングしたフリーランスの方々が新規プロジェクトに取り組んでいる話をインタビューさせていただけて‥…。実際にご縁が生まれたことに感動しちゃいました。

──特に地方では、そうした相談をできる場が少ないのかもしれないですね。

葛谷:そもそもフリーランス活用の発想がないから、社員をとろうと思うと「地元にそんな人いる?」って発想から入るじゃないですか。でも、「副業人材を含むフリーランス可」となった途端に市場が逆転して、急に人を選べるようになるんですよ。

地方企業こそ、雇用形態にとらわれないチームづくりを

葛谷:雇用と業務委託で違う部分はあるので経営者の思考転換は必要ですが、その思考転換で急激に世界が広がるので、雇用形態にこだわらないでほしいと思います。私も社員採用に伴走するなか、 “フリーランス人材に視野を広げたらもっとマッチする人いるのにな”と思うことはよくありますね。

──フリーランス協会の中で、美里さんが今後やっていきたいことは?

葛谷:いち地方在住者として、私も地場企業のお困りごとはよくわかります。思考転換は大変かもしれませんが、雇用形態の多様性を受け入れたチームを作る会社が増えると、ますます力を発揮する地場企業は多いと思うんです。今後は経営者の方々にご理解いただく活動も力を入れ、ぜひその世界観をつくっていきたいですね!

【 私の道しるべ 】 「信用貯金」

目の前のことに真摯に取り組み、信用貯金を貯める。一番大切にしていることです。福岡で独立したとき、お仕事のご縁をくれたのも、昔働いていた会社の上司や同僚、後輩たちでした。それは当時、目の前の仕事から逃げず、一生懸命取り組む中で築いてきた信頼関係があってこそだったと思います。

新しく出会う方々とも、目の前の仕事に集中することでいい成果につながるし、その結果、信用が貯まっていく。その信用貯金のおかげで、次のお仕事が広がる。蓄積された信用は、どこかでまた自分に戻ってくると体感しています。

ちなみに信用貯金は、息子も頑張って貯めています。大嘘をつかれたとき、「信用を失うのは簡単だけど、それを取り戻すには百倍のパワーがかかるんだよ」と話したら「今、僕の信用貯金はいくつ?」と気にするようになって。塾の課題を書いているシートの下に、信用貯金数も記載中です(笑)。


多忙な中、快くお話を聞かせてくださり、お時間を割いて福津周辺の案内までしてくださった美里さん。「今」を大切にするお話を伺って、その言葉と行動がぴたり、重なったように感じました。

独立当初の気持ちやSNS発信の話は、共感しながら読んだ読者の方も多いのでは……。私も地方に拠点を置くいちフリーランスとして、迷い悩むときにはいただいたお話を反芻したい、と思いました!

ライター:渡邉雅子
PR会社勤務、フィジー留学を経て豪州ワーホリ中にライターに。帰国後ITベンチャー等々を経て、2014年に独立。2016年より福岡在住。現在は糸島界隈を拠点にフリーライターとして活動。企業案件から日常エッセイまで。海辺と絵本、おいしい野菜が好き。twitterは@masako_tea
Web: https://masakowatanabe.themedia.jp/

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