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手つかずだったECサイトにフリーランス広報チームで息を吹き込み、個人消費を開拓〜太美工芸株式会社

フリーランスとフリーランスを活用する企業のさらなる成長や活躍を目指し、今年も開催される「フリーランスパートナーシップアワード2022」。

本記事は、活用企業部門1次審査を通過したファイナリスト、太美工芸株式会社の事例をご紹介します。

太美工芸は、昭和52年に創業した特殊印刷専業の印刷会社です。これまで受注下請けのビジネスモデルでしたが、コロナ禍をきっかけにECサイト経由のBtoC販売に本腰を入れ始めました。フリーランスの広報チームを組成して、プレスリリース配信やSNS運用、消費者の声を聞くオンライン座談会などを実施し、EC売上を順調に伸長させています。

そこで今回は、代表取締役社長の野田哲也さんにお話を伺いました。

最後に、投票フォームもありますので、取り組みへの共感や参考になった場合は投票をお願いします。

コロナ禍で起死回生を狙った商品を出品するも反応なし

—— まずは御社の事業内容を教えてください。

「人を助ける印刷屋さん」をコンセプトに、愛知県名古屋市で特殊印刷を専門とした事業を展開している会社です。スクリーン印刷の中でも、屋外での耐候性を必要とする業務用途のステッカー製作を得意としています。例えば、電車のドアに貼ってある「危険」「あぶない!」といったステッカーに代表されるように、年単位で表示しなければならないステッカーの印刷を多く扱っています。

—— 今回、フリーランス人材を活用したのはどんな背景があったのでしょうか?

弊社は社員14名の会社で、そのほとんどがスクリーン印刷の製造部の技術専門職です。ものづくりや特殊印刷技術には自信がありますが、事業開発や販路開拓は代表の私と、もう一人の社員で細々と行っていました。

代表取締役社長の野田さん(後列最右)と社員の皆さん

販路開拓といっても、基本的には業務用途のステッカーですから、BtoBです。問合せを受けたお客様に対し、弊社の印刷の専門性の高さや価格優位性を伝えれば、仕事を獲得できていました。一応7〜8年前に、Amazonや楽天などのECサイトでBtoC向けの販売事業に挑戦しましたが、当時は気まぐれな片手間感覚で、「売れればラッキー」くらいに考えていました。

しかし、コロナをきっかけに、ECサイトの運営に本腰を入れる必要性に迫られました。

2020年の3月頃から受注に異変が起き始め、4月の緊急事態宣言で決定的に仕事が激減したのです。世の中のあらゆる企業活動が停滞したためか、その後、9月ごろまでは仕事がほとんどない状態でした。

そんな時代の流れを受けて、新たな販路の開拓をしていかないと生き残れないという危機感が生まれました。

—— 現状を打破するために、自ら新しい販路開拓に乗り出すことが必要だったのですね。

しかし、いざECサイトに注力しようと思っても、経験もない、人材もいないので、うまくいきませんでした。

コロナ禍で在宅勤務の人が増えた影響で、宅配の形も変わり、「置き配」を選択するケースが増えましたよね。そこで、「置き配OKです」「置き配NGです」「インターホンを鳴らさないでください」のようなプレートを作ったらどうだろうと考えて、ECサイトに出品してみたのです。私たちは良い商品だと思っていたのですが、全然反応がなく……。

—— アイディアとしては良かったけれど、インターネットの情報の渦の中で見つけてもらうのは難しかったんですね。

そうなんです。ただ、同じころに売り出したソーシャルディスタンスについて注意喚起するフロアステッカーと手洗い啓発のドアノブプレートを中部経済新聞に取り上げてもらったところ、その記事を見たNPO法人G−netさんから連絡をいただきました。「プロボノ人材の活用制度があるので、応募してみませんか?」と提案いただき、採択されたことが大きな転機になりました。

これはトヨタ自動車の人材育成プログラムの一貫で、社員の方にプロボノとして入っていただける制度だったのですが、弊社がまさか派遣先に採択されるとは思っていなかったので、私たち自身が驚きました。そしてこの出会いが、後のフリーランス活用につながりました。

地元のプロボノ人材活用を経て、フルリモートのフリーランス広報チームを組成

—— プロボノ人材とは、具体的にはどのような取り組みをしたのでしょうか?

「1年後に月商の1割をECサイトから作りたい。そのために、考えられることはすべてやってください」とお願いしました。

具体的に何をしてほしいと指定したわけではありませんが、プロボノ人材の方々は、、飛び込み営業、チラシ配り、製品アンケート調査など、多岐に渡る業務を主体的に行ってくださって、大変助かりました。

また、プロボノ人材が懸命に業務に取り組む姿勢を間近で見た社員たちも、「この人たちがこんなに自社のために頑張ってくれているのだから、自分たちも頑張らなければ」と火が付いたのも、とても良かったです。特に若手社員には刺激が大きかったと思います。

スクリーン印刷の特殊技術を持つ若手社員の皆さん

—— 外部人材の活用に手応えを感じたのですね。

そうですね。しかし、プロボノ人材の皆さんの気持ちを考えると、3か月間の取り組みを通じて達成感をうまく醸成できなかったことは、私の反省点でした。

当時は、せっかくの機会なので、社員も巻き込みながら一緒に進めようとしていたのですが、私たちが社内業務で忙しくなると、プロボノ人材への情報共有や宿題に応えることがうまくできず、思うようなペースで進まない事態が度々発生してしまい、プロボノ人材の方たちのやりがいや満足度に影響してしまったと思います。

——そのご経験を経て、フリーランス人材とはどのような取り組みをされたのでしょうか?

プロボノ人材の方に入っていただいた3カ月のおかげで、EC事業が立ち上がり始めていたので、目標としていた1年間の残り9カ月で、EC売上による月商1割を目指そうと思いました。ちょうど中部経済産業局が、副業・兼業人材活用の推進事業を行っていることも知り、G-netのサービス「ふるさと兼業」を活用して、ECサイトの広報メンバーを募集しました。

というのも、これまでの弊社の主力業務であった業務用ステッカー製作は、受注、印刷、納品というシンプルな工程しかありませんでした。しかし、BtoCのビジネスでは、これまで弊社でやってこなかった広報・PRが課題だと痛感したのです。

プロボノ人材の力を最大限に引き出せなかった反省を踏まえ、今回はフリーランスだけで広報チームを作ることにしました。これは私たちの忙しさに影響されることなく、仕事を進める工夫の1つです。

—— どのようなバックグラウンドの方を採用されたのでしょうか?

要件として一番重視したのは、長く付き合える人です。一時的な売上を作るのではなく、長期的に稼ぐ力のある新規事業を一緒に考え、共に知識を高めていきたいという願いがあったからです。そのため、必ずしも完成されたプロフェッショナルではなくても、お互いにレベルアップができるような人材が良いなと考えていました。もちろん、立ち上げフェーズなので、はじめから高い報酬をお支払することができないという現実的な事情もありましたが。

結果として、30代〜40代の3名と契約しました。お一人は新潟で独立してバックオフィス業務を担っている女性、残りの2名は共に神奈川在住の副業人材で、飛行機の技術者の男性と、IT企業勤務の男性です。皆さんずっとフルリモートでサポートしてもらっています。

—— 具体的にはどのような取り組みをされたのですか。

やりたいことは、大きく3つありました。プレスリリースの配信、SNS(Twitter)の運用、そして、ユーザーの意見を反映したECサイトや商品の細かなアップデートです。

そこで、飛行機技術者の男性に広報チーム全体のリーダーをお願いし、新潟の女性がプレスリリース、IT企業の兼業男性がSNS運用という役割分担をお願いしました。

また、プレスリリース配信をするには、まずニュースネタを作る必要があるということで、普段接点を持ちにくい一般消費者とのオンライン座談会「あーだこーだの会」を企画してもらいました。

—— それは興味深い企画ですね。どんなイベントだったのでしょう。

参加者の皆さんから弊社製品に対する「あーだ、こーだ」といったご意見を、社長の私がただただ聞かせていただくというシンプルなイベントです(笑)。私は当日ログインしただけで、イベントの企画や告知、参加者への案内、オンライン環境のセッティング、当日の司会進行や参加者フォローまで、すべて広報チームの3名が対応してくれたので、とても助かりました。私たち社内のメンバーだけでは、こういった会をしたいというアイデアを思い付いたとしても、マンパワーやスキル不足で開催まで踏み切れなかったと思うので。

結果として、目標通りプレスリリースが配信できたことはもちろん、座談会を通して、自社ECサイトや商品についての率直な意見を顧客から直接聞けたのは貴重な経験でした。

オンライン座談会の様子

3か月ごとに細かく目標設定をしながらも、互いに無理しないバランスを

—— 長く付き合える人を希望したとのことですが、長期的なお付き合いに際して工夫していることがあればお知らせください。

やはり、関わってくださる皆さんにも、達成感を得てもらいたいという想いがあります。そのため、3カ月ごとに区切って目標・課題設定をしています。フェーズ毎に達成すべき業務を細かく区切り、段階的に目標を達成していけるよう工夫しています。

その一方で、無理強いはさせないということも意識しています。あくまで副業の範疇で、1人月2万円(税抜)という決して高くない報酬で関わっていただいているので、お互い気持ちよく関われる温度感で業務を進めることは大切だと思います。

これまでは広報業務ができるのは社内で私ともう1名の社員だけだったのが、3名もの方に頭脳を貸していただけるのはとても貴重なことです。極端な言い方をすると、会議に参加してもらっているだけで非常に助かるので。弊社を選んで関わっていただいていることに感謝し、私たち自身も高望みしすぎないことで、良い関係性が続いていると思っています。

あとは、コミュニケーションの工夫でしょうか。関係構築のためにもコミュニケーションを絶やさないことが重要だと思うので、毎週1回1時間は、オンラインで定例会議を設定しています。

また、実際に名古屋に来ていただき工場見学や一緒にお食事したり、私が東京の展示会に出向いた際にはお声がけしてお会いするなど、オフラインでも出来る限り会えるチャンスを作ってきたことも良かったと思います。

普段はリモートのやり取りだが、直接会うとさらにチーム力が深まる

—— どれも人材の力を最大限に引き出すために、大切なポイントですね。今回の取り組みを通じて、どういった企業にフリーランス活用をおすすめできると思いましたか?

新たなことにチャレンジしている企業・経営者にとって、非常に魅力的だと思います。

例えば、自社で人材を雇用するとなると、週に40時間分の仕事を確保する必要がありますよね。しかし、今回の弊社のような新規事業への挑戦では、それだけで40時間分の仕事を創出するのはハードルがかなり高い。かといって、社内の人材は既存業務で忙しく、新しい領域の知見もないため、結果としてゼロイチに着手しにくい状況があります。フリーランスの方であれば、「1週間で2時間だけ手伝ってください」といった依頼の仕方が可能です。

その点、業者に「外注」する形もあると思いますが、外注先の状況はブラックボックスなので、「なぜうまくいったのか」「なぜうまくいかなかったのか」と本当の原因も分からないですし、社内に知見が溜まっていかないという問題があると感じます。そういった意味でも、フリーランスやプロボノ人材の皆さんに入ってきてもらって、近い距離で取り組むことで、確実に社内の力は強くなっていくと思っています。遠回りかもしれませんし、失敗もあるかもしれませんが、そこの回り道も含めて、すべて共有できるのは良いことだと思っています。

—— 最後に、今後の展望があれば教えてください。

広報チームの3名については、当初に長期的なお付き合いをと考えていた通り、今でも継続して活躍してもらっています。また、2022年4月からは、ずっと着手できていなかった社内の人材教育やチームビルディングについても、別のフリーランスの方と共に取り組んでいます。フリーランスの力を借りることで、やりたくてもやれていなかった社内の新たな取り組みをスピード感を持って推進できるようになったのは、コロナ禍を経たことで起こった経営戦略の変化であり、成果だと思っています。

—— フリーランス人材とっての達成感を意識にして、エンゲージメントをうまく高めながら、良いチームを構築されている好事例でした。本日は素敵なお話をありがとうございました。

◆ ◆ ◆

この取り組みへの共感や参考になった場合は、「フリーランスパートナーシップアワード2022」ファイナリストへの投票もお願いします。

フリーランスパートナーシップアワードとは

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会主催。エントリーは、「活用企業部門」と「エージェント/コーディネーター部門(個人)」に分かれています。10月14日(金)~11月1日(火)のWeb投票期間を経て、アワード受賞者が決まります。

活用企業部門:雇用形態や勤務場所にとらわれずに多様な人材をチームの一員として招き入れることで事業成長に導いた企業

エージェント/コーディネーター部門(個人):フリーランスのチカラが最大限に活かせる環境を見出しマッチングを支援した企業と、その担当者

▽活用企業部門 ファイナリスト一覧

・Social Bridge株式会社
   https://note.com/frepara/n/n9c47cd01a460

・株式会社林田産業
   https://note.com/frepara/n/ne512d669c7d7

▽エージェント部門(個人) ファイナリスト一覧

・川嶌陽子さん(エッセンス株式会社) 
   https://note.com/frepara/n/nb1b54392bb49

・鈴木太陽さん(株式会社サーキュレーション)
   https://note.com/frepara/n/n50e57417fb98

・南部 晶洋さん(株式会社コーナー)
   https://note.com/frepara/n/nd4d586fc965b


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