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プロ人材の猛アタックでリベンジ実現! 歴史的醸造メーカーのリブランディングプロジェクト/山二造酢株式会社

フリーランス・パラレルワーカーが参画することで、チーム一丸で大きな成果を上げたプロジェクトにスポットを当て、フリーランスと組織の理想的な関係構築のあり方や共創意義を賞賛する「フリーランスパートナーシップアワード2023」。

本記事は、1次審査を通過したファイナリスト5組のうち、山二造酢株式会社の事例をご紹介します。

三重県でお酢を製造販売する山二造酢は、明治20年創業の老舗企業です。本プロジェクトでは、東京在住の副業人材7名がチームを組み、首都圏での販売拡大を見据えて同社の飲む酢シリーズを「伊勢のクラフト酢」としてリブランディングしました。2023年5月に発売された伊勢のクラフト酢は、現在も販路を拡大中です。

中には出産を控えたメンバーを含むうえ、フルリモートで進められたプロジェクトがうまくいった要因はどこにあるのでしょうか。山二造酢5代目で代表取締役の岩橋邦晃さんと、会社経営者でプロジェクト統括リーダーの木下亮さん、元アパレル店長で現在1歳児を育児中の石田彩華さんの3名にお話を伺いました。

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「御社の商品はもっと評価されるべき!」社長にリブランディングを提案


――岩橋社長と木下さんは、どのように知り合ったのですか。

岩橋:今回のプロジェクトの前に、新商品の販路開拓を副業・兼業の皆さんにお願いしたのが始まりです。当社は“いいもの”をつくるのは得意ですが、売るのは下手くそ。困っていたところ、知り合いから兼業マッチングサイトの『ふるさと兼業』を教えてもらい、販売戦略の立案やECサイトの活用のできるプロ人材を募集しました。木下さんは、そのときのメンバーのひとりです。

木下:私は新卒でイオンモールに入社し、店舗の運営や中国での店舗立ち上げに携わってきました。中国にも赴任経験があり、その縁で中国の会社に転職する予定だったのですが、ちょうど世界中がコロナパニックに陥り、立ち消えになってしまったのです。

それでフリーランスとして、これまでの経験を地域活性や販売促進に活かせないかと思っていたところ、山二造酢のプロジェクトを見つけました。三重県はイオンモール時代の最初の配属先です。新人だった僕を育ててくれたゆかりの地であり、興味を持ちました。

岩橋:第1期のプロジェクトでは1名を選ぶつもりで3名と面談しましたが、誰も落とすことができず、結局3名とも採用しました。

それぞれ得意分野が異なる優秀なプロの皆さんで、「この3人が合わさるとすごいプロジェクトになるのでは」と思いましたし、そんな皆さんにご協力いただけることに大きな期待がありましたね。

――第1期の新商品の販路拡大プロジェクトでは、どのようなことをしたのでしょうか。

木下:既存の販路をベースに、ECサイトでの売上拡大に力を入れました。山二造酢ではほとんど手をつけていなかったプレスリリースも打ちましたね。

写真左よりプロジェクト統括リーダーの木下亮さん、山二造酢の岩橋邦晃社長、プロジェクトメンバーの石田彩華さんはお子さんと一緒に。

岩橋:その結果、複数のメディアに新商品を取り上げていただくことができ、ECサイトの売上は前年の5倍になりました。自分ひとりでは中途半端になってしまうところを、お任せできたおかげで大きな成果を上げることができました。

――副業・兼業の方にお仕事をお願いすることに抵抗や不安はなかったですか?

岩橋:全く知らない人に商品を販売する手伝いをしてもらうわけですから、不安はありました。それまで業務委託の方に仕事をお願いしたこともありませんでしたから。ただ、何でもまずはやってみたいタイプではあるので、「とりあえず1回やってみよう」と。軽い気持ちで試せるのは副業・兼業の良さだと思いますね。

実際に始めてみたら、皆さんとミーティングを重ねる中で不安はどんどんなくなっていきました。そこはやっぱり人柄ですよね。いい方に巡り合えたなと思います。

木下:このプロジェクトは2021年9月に終了しましたが、私の中では心残りだったんです。はじめのうちは次回のミーティングまでにやることを整理し、前のめりで取り組めていたものの、途中からアクションが曖昧になったり、ミーティングの頻度も徐々に減ったりしていきました。それで活動自体も、自然消滅してしまったところがあったんです。

けれども私自身はプロジェクトが終わってからも、山二造酢は商品にこだわった素晴らしい企業なのに、生活者にうまく伝わっていない気がして「もったいない」と感じて続けていたのです。

――商品の価値が伝わらない理由は、どこにあると思ったのでしょう。

木下:たとえば山二造酢では、果実酢や黒酢と果汁を合わせた「飲む酢」を販売しています。ベースとなるになるお酢は「静置発酵法」と呼ばれる伝統的な製法を用いていて、酸味の角がとれたまろやかな味わいです。また明治20年から続く伝統や、伊勢神宮にも奉納しているといった他にはない魅力があります。しかし従来のボトルデザインでは山二造酢のよさが伝わりにくいのではないか、逆にこれらのメッセージがうまく表現できれば、買ってみたいという人も増えるのではないかと思いました。

リブランディング前の「飲む酢」のボトルデザイン。

そこで、以前からの知り合いで、後のプロジェクトメンバーでもあるスタイリストの田中さんに意見を聞いてみたところ、「山二造酢だったらこういうデザインがいいんじゃない?」という回答が本当に的確で。

「これならいけるかもしれない」と思い、約3カ月ぶりに岩橋社長に電話をし、直接提案をしました。

岩橋:電話をいただいたことに驚きはしましたが、非常に将来性のある素敵なお話だったので、とてもうれしかったですね。

木下:前回のプロジェクトが中途半端に終わってしまっていたこともあり、受け入れてくださった岩橋社長の懐の深さに感謝しています。

各自が専門性を超えて細部にまでこだわった


――今回のプロジェクトの目的を「首都圏に向けたリブランディング」とした理由は何ですか?

木下:岩橋社長への電話の後、これまでの仕事のつながりから「この人だ!」と思う人を直接スカウトしてメンバーを集めました。リブランディングですから、デザインに加え、コピーライティングやECサイトに詳しいクリエイターに声をかけたところ、“地方”、“伝統のある企業”、“リブランディング”というキーワードに高い関心を持ってくれて、みなさん快諾してくれました。

 そして外せなかったのが、“売ること”に対して強い意識を持てるメンバーです。それが、今日の取材にも参加している石田さんでした。彼女は大手アパレルブランドで店長を務めていた経験があり、全国で表彰されたこともある実績の持ち主です。

 リブランディングのねらいは、こだわりを持った商品づくりをしている山二造酢の魅力を広めることにあります。そのためECで、全国に販売できればと思っていました。とはいえリアル販売を考えると、やはり首都圏は外せません。人口の多い東京で話題になれば、地方都市への展開やECへの流入、すなわち売り上げの拡大につながるからです。ですから首都圏在住の人たちが手にしたくなる、買いたくなるビジュアルをめざすことにしました。

 そのうえで、メンバー全員の間で共通目標を持つことも大切です。そこで「首都圏に向けた飲む酢のラベルデザインの変更」と、「ECサイトの開設」を当初のゴールとしました。

――プロジェクトは現在も進行中ですが、現段階の成果について教えてください。

木下:2023年5月に、新ブランド「伊勢のクラフト酢」を立ち上げました。

ボトルデザインは30~40代の主婦が「キッチンに置きたくなるデザイン」をテーマに、山二造酢の伝統感を基調に作成しています。また「じっくり発酵、ゆっくり熟成」という、製造へのこだわりをコピーで表現しました。

商品は専用のECサイトのほか、百貨店の次世代モデル店舗や大手ホテルの和食レストランなどで販売、提供されています。夏には浦和の蔦屋書店でポップアップを出店する機会をいただき、迫力ある売り場づくりができました。発売から5カ月が経過し、今は月に最大で30万円ほどの売上を上げています。9月からは三重県のアンテナショップでの取り扱いもスタートしましたし、蔦屋書店全店での冬の催事に向けて交渉中です。

「伊勢のクラフト酢」のフレーバーは、生姜×ゆず、ライチやマスカットなど全14種と豊富だ。「お客様に“選ぶ楽しさ”も届けたい」(木下氏)

また、イオンモール津南で「ぼくわたしだけの飲むお酢」という飲む酢をつくる親子向けイベントを行ったり、マレーシアの伊勢丹KLCCの販売催事に出店したりもしています。

――プロジェクトで苦労したことはありますか?

木下:想定より時間がかかりましたね。リブランディング自体は4カ月ほどで終わると思っていましたが、実際は9カ月かかりました。

というのも、全員が専門分野以上の範囲の仕事をしたんです。たとえば、パッケージなどビジュアルデザインを担当した田中さんの本業はスタイリストであり、商品開発やコピーライティングの経験はありません。

その分、回り道もありましたが、東京はプロ人材の母数が多い分、専門性が狭くなりやすいという課題を全員が持っていたからこそ、メンバー全員が自分の領域を広げたいという意思を持ち、自主性に満ちた雰囲気で進められました。

また、「チャレンジした人に『いいね』と言える活動にする」ことをプロジェクトの基本ルールとしていたのもよかったと思います。

岩橋:皆さんそれぞれで細部にこだわりがあり、なかなか進まなかったところもありました。しかしプロの目から見て、どうしても譲れないことがあるのでしょう。時間がかかることを、マイナスには捉えていませんでした。

最終的にはすごくいいものができて、とてもうれしく思っています。皆さんの力がうまく発揮できたのではないでしょうか。

――石田さんは木下さんから声をかけられた時点で、お腹の中にはお子さんがいらっしゃったと聞いています。

石田:「妊娠中だけど大丈夫かな?」とは思いましたが、木下さんが大丈夫と言ってくれたので、その言葉を信じようと(笑)。人数も多いので、自分のできることをやろうと思っていました。

基本はリモートで、直接メンバーと会うことはほとんどなかったですけど、木下さんは隔週のミーティングの合間もこまめに連絡をとってくれていましたし、うまくチームをまとめてくださっていたなと思います。

木下:プロジェクトは当初から女性メンバーを中心に進行することを目指していて、実際にメンバー同士で必要に応じて個別ミーティングをするなど、うまく進めてくれていました。私が入っていない会議も多くあり、本当に自主的に活動してくれていたし、発信も積極的でした。

たとえばプロジェクトが始まって間もなく、「山二造酢の商品の味を知りたい」と発案があり、試飲会を行いました。私は予定が合わず参加できなかったのですが、3人の女性メンバーが企画して、当日は盛り上がったようです。

岩橋:お酢は調味料ですし、飲む酢は女性から人気の商品です。だからこそ女性の視点は不可欠であり、子育て中の石田さんの意見を商品に生かせたのは助かりました。

飲み物で割るほか、ヨーグルトに混ぜるなど「伊勢のクラフト酢のある食卓」を包括的に提案している。

僕にも子どもが2人いますが、子育てで日々大変な中、当社のことを考えてくださり、限られた時間を使って働いてもらえるのはありがたいことです。そういう働き方ができる環境が整うことは、個人と企業の双方にとって非常によいことだと思っています。

石田:ミーティング中に子どもが映りこむこともあるし、店舗チェックや展示会に子どもを連れて行くことも。「ベビーカーで行ってもいいですか?」と聞くと、岩橋さんは「もちろん! 新しい働き方ですからね!」と笑いながら受け入れてくれています。

打ち合わせ先でも「今、おいくつなの?」、「いい子にしているね」などと声をかけてもらえることが多くて、安心して仕事に臨めています。お取引先も含め、みなさん子育てを経験されているからか、快く受け入れていただけることがほとんどで、あたたかい気持ちになります。

妊娠した時点では出勤が必要な仕事が多くて、子どもが生まれたら「しばらくは専業主婦を続けるんだろうな」と想像していました。今も働ける時間は限られてしまいますが、自分な得意なところで力を発揮し、さらに経験のないことにチャレンジできている状況に、驚きと嬉しさを感じています。こうした働き方が広まれば、私と同じような境遇にある人たちも、もっと社会で活躍できると確信しています。

よい商品と懐の広い社長が、前のめりにさせた


――初対面同士のフルリモートチームで、それぞれが有機的につながり、意見を言い合える関係性を築くのは難易度が高いと思います。それができたのはなぜだと思いますか?

木下:本当にいいことをしている会社だからだと思います。メンバーがみんな、本当に山二造酢のすべてに魅了されたんです。

「伊勢神宮にも奉納しているほどの会社なのに、私たちがこんなにやりたいままにやっていいの?」と、メンバーから言われたこともありました。現地を見学した際も、ひたむきに無添加にこだわり、ていねいにお酢づくりに取り組む姿に惹かれた半面、「愚直というか、不器用! なんとかしたい!」と大半のメンバーが感じたと思います。

山二造酢の外観。中では人の手を惜しまず、一般的な醸造酢の2~3倍の時間をかけて熟成された酢がつくられている。

石田:社長の人柄も大きいと思います。こちらの提案に対して、基本的に「やりましょう」と優しく受け入れてくださる安心感と居心地の良さがあり、「社長のために頑張ろう」という気持ちに自然となっていきました。

特に私の場合はプロジェクトの途中で出産し、子育てで制約も多い中、社長にはいろいろご配慮いただき、とても仕事がしやすかったことに感謝しています。

木下:今回のプロジェクトが前進した要因の一つが、社長の人柄にあるのは間違いないと思います。岩橋社長だからこそできたことも多く、同じやり方が他の会社でも通用するかはわかりません。

社長はこれまで1000種類以上の商品開発にチャレンジしてきた経験があり、あらゆることに知見があるんです。相談に対して、「それはコストが合わないから難しいと思う」「そこは過去にやったけどダメだった」など、すぐに答えてくださる。

私たちが必要な情報のほとんどを社長から得られたこともまた、プロジェクトがうまくいった要因のひとつです。

――なぜ岩橋社長は、外部の副業・兼業メンバーの意見を寛容に受け入れられたのでしょうか。

岩橋:オンラインで皆さんからいろいろな説明を聞く中で、うちの会社や商品のことをものすごく考えてくれているのが伝わってきました。

僕としては、それだけで皆さんとの距離を近くに感じましたし、「この人なら信じて任せられる」という気持ちにさせてくれたのが大きいと思います。

それに、皆さんがいろいろ提案してくれるのは純粋に嬉しいんです。

当社の従業員のほとんどは製造の仕事をしているので、なかなか商品開発や販売について提案してくれることはありません。これまでは全て自分で考えてやってきたので、皆さんが一生懸命になってくださって本当にありがたいです。

――最後に、今後の展望について教えてください。

木下:まずは月の売上を、100万円台に乗せたいと思っています。そこを達成したら、次はアベレージで100万円を超えたい。

「少しでも多くの人にお酢を身近に感じてほしい」という、岩橋社長のやりたいことを健全な形で達成するための第一歩が、伊勢のクラフト酢とお客さまの接点を増やし、購入いただくことだと考えています。

そういう意味で、売上にこだわりながら、山二造酢に貢献したいですね。

「伊勢のクラフト酢」の陳列のようす。蔦屋書店をはじめ、ライフスタイル提案型のセレクトショップで採用されている。

石田:私は、誰かへのプレゼントや自分へのご褒美を選ぶ時に、伊勢のクラフト酢を選んでもらうことを目指したいです。そのためにも、お客さまによい商品だと認識していただくことが目標です。

今はギフトボックスのデザインやSNSの発信などを任せていただいていますが、もともとアパレル販売員として働いていたので、試飲会や売り場づくりなどを通じて、購入していただくための動きもしていきたいですね。

岩橋:こんなふうに当社のことを考えてくださって、本当に幸せですね。

僕らからすると、自分たちの商品は普通の商品です。だからアピールも控えめになってしまうのですが、皆さんから「すごい」とたくさん褒めていただいたことで、改めて自分たちの価値に気付くことができました。

照れくさかったですけど、「僕が思っているよりもいい商品なのかも」と思えました。

また、ほとんどのメンバーが東京から三重県の当社まで来てくださり、社員とコミュニケーションを取ってくれました。社員にとって刺激になったでしょうし、僕もまた、社員が商品についていろいろなことを考えてくれているのを知るきっかけになりました。

今後も皆さんのお力を借りながら、完成した商品をさらに拡販したいですね。いろいろな方に手に取っていただけるように、もっともっと広げていきたいと思います。

――生活感度の高い外部人材によるリブランディングで、商品のポテンシャルを引き出すことができました。その源泉には、関わる人を夢中にさせる魅力があったのですね。本日は素敵なお話をありがとうございました。

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書類審査による予選を勝ち抜いたファイナリスト5組の中から、Web投票により大賞が選ばれます。また、本選でのプレゼンテーションを踏まえた特別審査員賞も選出されます。

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・発売2カ月で年間予測を達成 フリーランスエンジニアとのタッグで13年ぶりの新商品開発/ゴトー電機株式会社
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https://note.com/frepara/n/ndf2964bbf1d1

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https://note.com/frepara/n/n875970c40dba

・町工場・商店街の新たな挑戦。副業人材のバックアップで11件の新規事業を創出して、自走する街へ/ONE X・大田区
https://note.com/frepara/n/n6a1edf5e09ac


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