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Q.独立しようか迷っているのですが、失業手当はもらえないですよね?

「そんな手続きがあったの?」「もっと早く知っていれば!」とならないために

こんにちは。社労士の山口あす香です。
昨年開業し、現在は社労士とともにキャリアコンサルタントとして、労務相談やキャリアカウンセリングを中心に行っています。企業での総務部門歴が長く、ライフイベントの変化に伴う転職や色々な働き方を経験しました。
私自身が悩み、壁にぶつかりながら感じたのは「仕事時間が充実すれば人生はより豊かになる」ということ。転機に立っている方のお役に立ち、働きやすい環境作りのお手伝いをしたいというのが私の想いです。

この連載ではフリーランスやパラレルワーカーになりたい、と思っている会社員からよく聞かれる疑問にお答えします。今までは会社がしてくれていた手続きも、会社を辞めると自分で調べなくてはいけません。
「そんな手続きがあったの?」「もっと早く知っていれば!」とならないために皆さんのお役に立てると嬉しいです。

Q.独立しようか迷っているのですが、失業手当はもらえないですよね?

→完全にフリーランス!と決めておらず、もし迷っているなら、失業手当をもらう選択肢もある。そして、自営で行くと報告すれば就職手当がもらえる可能性も!

「会社を辞めて独立しよう」と決めた人にとって、今後の生活費への不安は少なからずあるもの。実際、「もし失業保険がもらえるならもらいたい」という相談は、私のもとにも良くあります。
結論から言うと、「完全に独立してフリーランスになる!」と決めておらず、まだ迷っているのであれば、失業手当をもらえる可能性があります。

雇用保険って、そもそもどんな保険か知っていますか?

ところで、失業手当はどこから支払われているか分かりますか?
失業手当は通称で、正式には「雇用保険の基本手当」と言います。雇用保険とは、会社員なら必ず加入している保険で、雇用主(会社)側と雇用者側(会社員)が、保険料を折半して支払っています。
会社側は、雇用者を雇用保険に加入させる義務がありますが、すべての雇用者を加入させないといけないわけではありません。労働時間の条件があり、1週間の所定労働時間が20時間以上で、なおかつ、31日以上雇用関係が維持されている場合に限ります。つまり、正社員ではなくても、雇用保険加入対象者になりうるのです。

ちなみに、フリーランスは雇用保険には加入できません。なぜなら、雇用保険は「雇用されている人」を守るための制度であり、「雇用されない働き方」を選んだフリーランスは、自分が事業主なので「雇用」の対象ではないためです。
※ここでいうフリーランスとは、自営業、個人事業主問わず、「雇用されない働き方」を選んだ人たちのことを言います。

迷っているなら、失業手当をもらえる選択肢もあるとは?

さて、先ほどの質問に戻ります。
会社を辞めて、独立しようか迷っている場合、失業保険をもらえる選択肢もあるという話をしました。

その理由を説明します。
失業手当の目的は、失業した方が安定した生活を送りつつ、1日も早く就職ができることです。ですので、大前提として、現在失業状態にある人であり、今後、働く意思がある人が対象です。働く意思の証明となるのが、公的な職業案内所であるハローワークに登録し、求職の申し込みをすることです。
また、一定の期間、雇用保険に加入していた実績も求められます。具体的に会社を辞めるまでの2年間のうち12か月以上、雇用保険に加入していれば対象になります。

ただし、もし自己都合ではなく、「倒産・解雇、労働契約の更新がされない」などのやむを得ない理由だった場合は、「2年間のうち12か月以上」が「1年間のうち通算6か月以上」に緩和されます。

(補足)「失業状態にある人」について
雇用保険制度では、「失業状態」とは、以下の状態を指しています。
☑積極的に就職しようとする意思があること
☑いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること
☑積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと
ですから、たとえば、妊娠中だったり、出産したばかりだったり、育児中で預け先がなかったり、病気やケガがあり、すぐに就職できない人は、失業状態にはなりません(働ける状態になるまで、失業手当の受給を保留状態にしておいたり、受給期間の延長手続きをする方法もあります。今すぐには働けなくても延長の条件に当てはまるかを、厚生労働省の案内(厚生労働省Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当))で確認しておくとよいでしょう。
また、そもそも就職するつもりがなかったり、家事や学業に専念していたり、会社の役員に就任していたりする場合もNGです(報酬をもらわない活動の場合は、その限りではありませんので、管轄のハローワークで確認するといいでしょう)。
上記の通り、失業手当をもらうための要件には、細かい決まりもあります。雇用保険への加入期間(被保険者期間)の計算も非常に複雑ですので、自己判断せずに専門家に相談すると良いでしょう。

「就職(雇用)+フリーランス」であれば、失業手当と就職祝い金をもらえる場合も!

前述の通り、失業手当はあくまで再就職する人のための制度ですので、はじめから就職(雇用)するつもりがなく、完全にフリーランス、自営のみでやっていきます!という場合には失業手当は支給されませんし、万が一、申告していたら不正にあたります。

ただ、今は働き方も多様になり「就職(雇用)」か「フリーランス・自営」かの二択だけではなく、「就職(雇用)+フリーランス」など、さまざまな選択肢があります。つまり、場合によっては、雇用に当てはまることもあるのです。

それは、雇用主と結んだ所定労働時間が20時間以上の場合で、なおかつ、31日以上雇用関係が維持されている場合です(※31日以上というのは、フルタイム契約というわけではなく、1ヶ月以上の雇用契約を結んでいるか否か、という意味です)。前述の通り、企業は雇用保険に加入させなければなりません。ですから、週3日は業務委託などで会社に勤務しつつ、週2日はフリーランスとして活動するパターンの人は該当します。
もし、会社を辞めたばかりで、安定のために「就職(雇用)+フリーランス」のパラレルワーカーから始めようと考えていて、月に20時間以上の会社と雇用契約を結ぶことが前提であれば、そのパラレルワーク先を見つけるまで、失業手当を受給する資格があるのです。
加えて、もしパラレルワーク先が見つかれば就職祝い金を受け取ることもできます(※一定の条件があります)。

パラレルワークを目指していたが、結局フリーランス一本にすると決めたら?

さて、ここで問題です。「就職(雇用)+フリーランス」のパラレルワーカーを目指していたものの、あまり条件に合う就職先がなかったので、フリーランスとして完全に独立すると決めた場合、どうなるでしょうか?
当然ながら失業手当の受給資格は失いますので、報告する義務があります。
しかし、就職が決まった時に受け取れる、「再就職手当」と言われる就職祝い金を受け取れる可能性は残っています。事業を開始(準備)した場合でも、要件を満たせば「再就職」とみなされることがあるからです。

とはいえ、就職祝い金を受け取るには、失業手当を受け取れる期間が3分の1以上残っていることが前提です。また、申請の際に開業届や契約書など、開業したことを示す客観的資料の提出を求められることがありますので、フリーランスに専念しようと検討を始めた段階で早めにハローワークに相談するようにしましょう。

気をつけなければならないのは、失業期間に開業の準備を始めているとみなされる場合です。たとえば、こんな行動はNGです。
・会社を設立するための準備を行った(定款の認証、出資金の払い込み、登記等)
・事務所の賃貸借契約を締結した
・事業を開始するのに必要な備品を準備した
・フランチャイズ契約を締結した

これらの行動を起こす前に、ハローワークに相談するようにしましょう。

失業手当の受給中にアルバイトはアリorナシ?

最後に、失業手当の受給資格以外によく聞かれる質問にお答えしましょう。
「失業手当の受給中にアルバイトはアリorナシ?」という質問です。
前述の「現在失業状態にある、働く意思がある、一定の期間、雇用保険に加入していた」の条件をクリアしたうえで、1週間に週20時間以上の求職活動をしている場合に限り、20時間未満のパート・アルバイトをすることは認められています。とはいえ、離職票の提出と求職の申込みを行った日(受給資格決定日)から通算して7日間は、失業手当の手続き上、「失業」の状態である必要があるため、この期間にアルバイトなどは行えません。
※受給できるかどうかはさまざまな条件があるため、パートやアルバイトなどをしたい場合は、事前に管轄のハローワークに相談をするようにしましょう。

いざ、ハローワークの手続きへ

さて、最後に退職後にどのようにハローワークの手続きをするのか説明しましょう。
まず、退職後に会社から離職票を受け取ります。その後、自身の住所地を管轄するハローワークに行き、求職の申し込みをします。

厚生労働省 全国ハローワークの所在案内
https://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html

手続きに必要なものなど、細かい決まりについては、以下のサイトを参照するとよいでしょう。

ハローワークインターネットサービス 基本手当について
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html

少しでも失業手当にまつわる疑問は解消されたら嬉しいです。次回は「会社を辞めると、健康診断が受けられなくなるのでしょうか?」の疑問にお答えします!

(寄稿)山口 あす香
プレインスタイル代表/社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント
/健康経営エキスパートアドバイザー/フリーランス&パラレルキャリア支援アドバイザー
大学卒業後、金融機関に入社。その後、ライフスタイルの変化に応じて正社員や派遣社員、パートタイム社員など様々な形態での働き方を経験する。ユーザー系IT企業では、管理、総務部門に8年間所属。現在は社会保険労務士、キャリアコンサルタントとして活動しながら一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会のジョブ創出プロジェクトに従事。「健やかに自分らしく働く」人を増やしたいとの想いで活動中。


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