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町工場・商店街の新たな挑戦。副業人材のバックアップで11件の新規事業を創出して、自走する街へ/ONE X・大田区

フリーランス・パラレルワーカーが参画することで、チーム一丸で大きな成果を上げたプロジェクトにスポットを当て、フリーランスと組織の理想的な関係構築のあり方や共創意義を賞賛する「フリーランスパートナーシップアワード2023」。
 
本記事は、1次審査を通過したファイナリスト5組のうち、大田区の事例をご紹介します。
 
国内有数の産業集積拠点である、東京都大田区。商店街数も都内23区で最多を誇ります。しかし時代の波に翻弄され、現在は閉鎖、閉店する工場や店舗が後を絶ちません。そこで区は、大企業に所属する若手社会人らが立ち上げたONE Xとタッグを組み、2021年度より「大田区SDGs副業」を始動しました。ゴールは地域が自走し、「稼ぐ力」をつけること。

大田区産業経済部長の大木康宏さん、産業調整担当課長の荒井大悟さん、産業振興担当係長の工代ゆかりさん、と、ONE X共同代表理事の太谷成秀さんと濱本隆太さんにお話を伺いました。 

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大田区をなんとかしたい!手を挙げた450名の副業人材


――大田区が副業人材を活用するようになった背景について教えてください。

大木:大田区は中小事業者が多いことで知られます。工場数は1983年のピーク時から半減したとはいえ、4000事業所超。商店街も約140と、東京都23区で最多です。

ただ操業環境は年々厳しさを増すばかり。加えて近年はサプライチェーンの再構築や脱炭素の取り組みが求められるなど、産業構造に大きな変化が起きています。これまで行政の支援は補助金の助成が主体だったのですが、それだけでは一時的な解決にしかならない。我々としては、中小事業者のみなさんに「稼ぐ力」をつけ、自走してほしいという思いがありました。行政はあくまでみなさんを支える伴走者であるべきです。

大田区は羽田空港や機器メーカーなど大手企業の本社を擁する一方、商店街に町工場、銭湯の町としても知られる。庶民感覚あふれる、工業と商業のバランスに長けた町。

とはいえ我々のサポートでは質、量ともに限界があります。もっと専門的な知見、経験をもつ方々に支援いただけたら、ということで2021年度に「大田区SDGs副業」をスタートしました。町工場や商店街が大田区内外の副業人材と協業し、さまざまなプロジェクトに挑戦することで持続可能な街づくりをめざす試みです。そこで区のパートナー役となる委託事業者を、公募型プロポーザル方式で募集しました。

――委託事業者に選定された一般社団法人ONE X(ワン・エックス)とは、どんな団体なのでしょうか。

太谷:我々は、副業者と共に行政などの事業を伴走支援する会社です。「すべての⼈がコトを興せる社会」をスローガンに、共創により個人や地域の価値を引き出していきます。これまで副業人材のマッチング事業を通し、兵庫県や岐阜県、長野県の地域企業などをサポートしてきました。

立ち上げの発端は、大手企業の若手社員を中心とした有志団体、ONE JAPAN(ワン・ジャパン)にあります。私はNTT東日本、濱本はパナソニックの社員としてONE JAPANの運営事務局を務めていて、より社会にインパクトのある活動をしようと始めたのがONE Xです。現在は2人とも会社を退職し、ONE Xの活動に専念しています。
 
濱本:私は大田区に住んでいて、新型コロナ禍以来、町の景色がみるみる変わっていくのを目の当たりにしていました。商店街のお店が潰れたり、町工場がマンションに変わったりするたびに、「この地域、このままで大丈夫かな」と不安を抱いたことを覚えています。

左から、大田区役所の荒井大悟さん、大木康宏さん、工代ゆかりさん、ONE Xの濱本隆太さん。

ふだんから課題を見つけると、すぐ周囲にピッチプレゼンテーションを繰り返して状況整理や企画のブラッシュアップをしていて、大田区のこともピッチをさせていただきました。何度も繰り返すうち、商店街や地域のみなさんから「パッションさん」と呼ばれるようになるくらいで(笑)。やがて地域のご縁が生まれ、今回のプロポーザルにエントリーさせていただく運びとなりました。

太谷:ONE Xが担った役割は、大きく「町工場や商店街に出向き、それぞれの課題を切り出す」「副業人材と事業者をマッチングする」「プロジェクトを伴走支援する」の3つです。ただし、プロジェクトがうまく回り始めたら補助輪を外し、自走できるようにしなければなりません。成功事例を生み出し、モデル化して、新たなプロジェクトを進められる仕組みをつくるところまでが我々の仕事、ということです。

大田区SDGs副業の紹介図。

――副業人材の具体的な募集要項について教えてください。

太谷:プロジェクト期間は3~4カ月、1プロジェクトにつき募集した副業人材は2~3人です。謝礼は業務内容を問わず、基本的に一律月3万円が区の事業予算から支払われます。

我々が事業立ち上げ当初からパートナーとして共に推進している副業・兼業人材と地方企業のマッチングサイト『ふるさと兼業』などで公募したところ、エントリー数はなんと延べ450名に達しました。それからスクリーニングするにあたり、我々は大田区への貢献意欲、地域課題解決への熱量に注目しました。書類選考、面接を経て、最終的に採用したのは約30名の方々です。半数以上は大田区出身、あるいは現在、区内在住など、何かしら区とゆかりがある人々でした。

有償化できる資産は街中に眠っていた


――具体的にどのようなプロジェクトを展開しているのでしょう。

太谷:商店街で取り組んだものの一つに「フラッグ広告事業化プロジェクト」があります。商店街の中には、資金繰りがかなり厳しく、街路灯の維持管理ができず、電気代が賄えないからと撤去を検討しているところもありました。かといって、商店街の明るさが損なわれては客足が減り、ますます売り上げが落ちてしまう。「商店会費を値上げしては」という案もありましたが、そもそも閉店が相次いで会員数も減っていますので、解決にはつながりません。

そこでプロジェクトチームは、舞台となった蒲田東口商店街を実際に歩いて、アーケードの天井から吊り下げられているフラッグに注目しました。もともと商店街が自費で掲示していたものですが、視察して回るうち、「広告スペースとして有償で提供しては」というアイデアが飛び出してきたのです。

このときのメンバーとしてかかわってくれた3名の副業人材は、大手ビール会社の広告部門副部長、デザイナー、街頭広告に詳しい営業人材と、それぞれ異なるスキルセットの持ち主です。彼らが広告事業の企画を立て、販促物を作成して商談を進めてくれたおかげで、複数の大手スポンサーを獲得し、売上を得ることができました。利益は商店街の設備メンテナンスや新規プロジェクトの資金に回しています。「稼ぐ力」を生み出し、自走できるようになった好事例といえるでしょう。

蒲田東口商店街には、大手ケーブルテレビ会社の広告入りのアーケードフラッグが連なる。ローカル番組も放送しており、区民にはおなじみのテレビ局である。

――町工場ではどんなプロジェクトを進めましたか?

濱本:まさに今、事業化しようとしている実証実験プロジェクトに「SmaFAQ(スマ・ファク)」があります。もともと区内の町工場は大手企業の下請け業者として、ものづくりにフォーカスしてきました。卓越した技術力をもちながらも、マーケティングや営業は不得手という企業がほとんど。なかなか新規顧客開拓ができないまま、大手の業績不振に振り回され続けてきました。

SmaFAQは、「新規顧客ともっとうまくコミュニケーションできないか」という彼らの悩みに応え、誕生したコンサルティングサービスです。申込みフォームやヒアリングシートを通して、新規顧客の相談に有償で回答し、顧客の信頼度を高めることでスムーズに受注へとつなげます。区内の町工場全体の営業力を加速する、プラットフォームともいえますね。
 
荒井:SmaFAQが生まれた背景には、町工場が抱えるジレンマがありました。大田区の製造業者の多くは、量産前の試作開発を得意としています。ただし受注契約の前には、まず顧客とのやりとりを重ねなければなりません。「強度を高めるには」「コストを下げるための素材は」など顧客の疑問を解消して、初めて設計図を引き、要件を定義できるからです。

一方で、プロダクトデザインにかかわる重要なノウハウを無償で提供していいのか、という議論もありました。「海外との価格競争が激化するこの時代、“職人の知恵”こそが大田区製造業のブランド、稼ぐ力となるのでは」との着眼が、今回の実証実験につながりました。

町工場の見学とヒアリングを行うプロジェクトメンバーたち。

濱本:開発にかかわってくれた副業人材は、大企業のUXデザイナーやタンザニア在住の起業家、新潟県佐渡市役所への出向者など、顔ぶれもさまざまです。第2期からはもう1名デザイナーが加わり、延べ4名の活躍で事業化を推し進めています。

すでにSmaFAQやオンラインイベントなどを介して、町工場×ベンチャーのコラボレーションが実現した事例もあります。人工心臓装置などの試作品設計・製作を手掛ける安久工機と、ベンチャー企業のVanwavesが手を組み、サウナ用電気ストーブ「IESAUNA IRORI」の共同開発に至りました。

ワンチームを意識させ、乗り越えたすれ違い


――プロジェクトに参加してくれる事業者はすぐ集まりましたか?

太谷:率直に言って、非常に苦労しました(笑)。最初は「副業人材のサポート? 必要ないよ」、「何なの副業って」といった対応がほとんどで、壁は厚いなと感じました。

みなさんの理解を得るため、ひたすら泥臭いアプローチを繰り返しました。他県での成功事例をひっさげて町工場や商店街を回って、話を聞いてもらいました。幸い、商店街連合会の事務局長さんをはじめキーマンのみなさんがバックアップしてくださったことを機に、手を挙げる事業者さんが出てきたときは胸をなでおろしましたね。

――プロジェクトの遂行中、行き詰まったことは?

工代:特にスケジュールについては、両者の間にギャップが生まれがちでした。副業人材のみなさんは、ふだんのお仕事と同じようにスピード感をもってプロジェクトを進めようとしてくださいました。一方、地域の事業者さんは、慣れないことや初めてのことが多く、業務に追われ、ミーティングの急な予定変更が相次ぐこともありました。

太谷:大きなトラブルには至らなかったのですが、話がうまく噛み合わない場面はしばしばありました。描いていたはずのゴールが見えなくなって、事業者側も副業人材側もどこに向かっているかわからないということも。そんなときは個別に1on1を実施して、それぞれのWillを聞き出し、一つひとつズレを解消していきました。

チームワークを実感できる機会もできるだけ設けるようにしました。たとえば、キックオフミーティングはチームメンバー全員がリアル参加するのがルール。最初にお互い顔を合わせ、信頼関係を築いておけば、多少の行き違いがあっても乗り越えられます。

商店街を歩き回り、商店会の理事長の説明に耳を傾けるプロジェクトメンバーたち。

また、ミーティングには区の職員や我々が必ず同席し、伴走支援を心がけました。特に区の職員が入ることは副業人材に取り組みの本気度が伝わり、みなさんのやる気につながったと感じます。

――現在3期目を迎えた「大田区SDGs副業」ですが、成果はいかがでしょう。

太谷:初年度は3件、次年度は8件、これまでに合計11件の新規事業創出に成功しています。いずれも副業人材のサポートなしに地域が自力でビジネスを回し、利益を出せるようになったケースばかりです。

工代:今回のプロジェクトでは3カ年計画を組んだのですが、初年度は中小企業のみなさんの参加を促すだけで精一杯だろうと踏んでいました。2件の事業化は想定を上回る成果でしたね。あらかじめこちらで課題を設定するのでなく、事業者のリアルな悩みを聞き、課題の切り出しから着手したことが、成功の要因だと思います。

――参加事業者からはどのような反響がありますか?

太谷:公式LINEアカウントを活用する、デジタルマーケティング支援プロジェクトに参加した店舗さんは、「最初は二の足を踏んだ」と打ち明けてくれました。「お客さまも自分も高齢だし、今さらLINEなんて」と戸惑っていたそうです。ところが実際にやってみたら、たくさんのお客さまが友だち登録をしてくれたうえ、期間中に売上がいつもの1.5~2倍になったというお店もありました。

「気軽に相談に乗ってくれる相手がいてくれてありがたかった」、「上からではなく、自分たちと同じ目線で寄り添ってもらい、挑戦する勇気が生まれた」という声も上がっています。副業人材の存在は、スキル面だけでなくマインド面でも支えになったようです。

濱本:副業人材の中にも参加をきっかけに独立する人が出てきています。バックグラウンドの異なる仲間の知見やスキルから、本業では得られない刺激を受けているのではないでしょうか。町工場でも若い事業承継者が集まり、自分たちで新しい会社を興そうという動きが起きてきました。

大田区SDGs副業では、区内事業者とイノベーター人材のネットワーキングも支援。副業人材の主導で、HiCity(羽田イノベーションシティ)でのイベントが開催された。

――今後はどんなチャレンジを考えていますか?

太谷:大田区SDGs副業のしくみは、他の自治体でも展開可能です。外部人材を活用することに抵抗感のある地域はまだまだ多いと思いますが、ハードルを下げ、人材の流動性を高めることが我々の使命。副業を通してワクワクしながら働ける人を、日本中に増やしていきたいです。

大木:大田区は2023年度のSDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業として、内閣府からダブル選定されました。区内事業所の持続的な発展に向けた取り組みすべてが、SDGsにつながると信じています。そのためにも、専門性の高い副業人材をどんどん活用していただきたいですね。自分たちがよさを実感しなければお勧めできませんから、まずは我々、産業経済部で副業人材を登用しようともくろんでいるところです。

――大田区とONE Xのみなさん、副業人材の「なんとかしたい」という熱い思いが、地元事業者の心を動かし、町の活力へとつながる取り組みにつながったのですね。副業人材の知見を活かし自走支援を図るしかけは、多くの課題に直面する地域にも参考になりそうです。本日は素敵なお話をありがとうございました。

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フリーランスパートナーシップアワードとは
フリーランスパートナーシップアワードは、フリーランス(プロ人材、副業人材など)と企業が良いパートナーシップを築き、チーム一丸となって成果を出したプロジェクトに光を当て、讃えることで、企業がフリーランスをチームに迎え入れることの意義や成果を広く発信するものです。
書類審査による予選を勝ち抜いたファイナリスト5組の中から、Web投票により大賞が選ばれます。また、本選でのプレゼンテーションを踏まえた特別審査員賞も選出されます。

フリーランスが活躍できる土壌の広がりを応援するため、貴方が最も素敵だと感じたプロジェクトに是非ご投票をお願いします!

▽その他のファイナリスト一覧

・発売2カ月で年間予測を達成 フリーランスエンジニアとのタッグで13年ぶりの新商品開発/ゴトー電機株式会社
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