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SDGsを軸に、かつて3Kと呼ばれた事業を大胆にリブランディング。社員の士気が向上し、新卒採用にも成功 〜株式会社林田産業

フリーランスと、フリーランスを活用する企業のさらなる成長や活躍を目指し、今年も開催される「フリーランスパートナーシップアワード2022」。

本記事は、活用企業部門1次審査を通過したファイナリスト、株式会社林田産業の事例をご紹介します。

4名のプロ人材の活用を通じて、自社事業の本質的な価値を再定義し、SDGs経営へシフト。社内外への社会貢献事業のイメージ発信が成功し、従業員がやりがいを持って働ける環境づくりや採用活動にも大きな成果を得ています。

その背景には、プロ人材が会社からの要望をただ聞くだけではなく、事業の本質に迫る提案や協力体制があったといいます。今回は、株式会社林田産業担当部長の持田さんにお話を伺いました。

最後に、投票フォームもありますので、取り組みへの共感や参考になった場合は投票をお願いします。

自社だけでは進まなかった業務効率化と新規事業

家庭ごみ収集の様子

—— まずは御社の事業内容を教えてください。

一般廃棄物収集運搬や下水道処理施設の維持管理などを行っております。特に廃棄物の中でも木くずリサイクル事業と生ごみ堆肥化事業に力を入れております。一般廃棄物というのは、基本的には、し尿汲み取りと、一般家庭から出るゴミのことで、対象エリアは福岡県北部の福津市です。また、木くずの処分などの産業廃棄物は、福岡県全域で行っています。

—— 今回、副業・兼業人材を4人も活用されたとのことですが、最初のきっかけは何だったのでしょうか。

当社の社長が、お付き合いしていた銀行の担当者に、社内をペーパーレス化して業務効率化したいという話をしたんですね。取引先である行政が紙文化ということもあり、日々のやりとりやバックオフィスも含めて、毎日の業務で大量の紙を使っていたんです。

そうしたら、その銀行の方が、サーキュレーションさんに相談してみては、と薦めてくださって。経営課題に応じていろんなフリーランスのプロフェッショナルを紹介してくれるということで、社長が興味を持ったみたいです。

—— フリーランスのような、社外の人材の活用に不安や抵抗感はなかったですか。

社長はもともと、社内でできないことは社外の力を借りようという考え方の人なので、そういう抵抗感は全くなかったですね。それまでも、会社としてペーパーレスを推進しようとは言っていたものの、実際のお客様とのやりとりの中で必要に迫られてない背景があったので、自主的に進める雰囲気はありませんでした。社内だけでは進まないので、むしろ外部の力が必要だったんです。

そこで、サーキュレーションさんから、中小企業向けの業務改善やIT戦略立案をフリーで多数手がけていらっしゃる芹田さんを推薦していただき、全社的な業務効率化を見据えて、業務の洗い出しをしてもらうところからプロジェクトをスタートしました。

それからもう一つ、社長が様々、挑戦してきた新規事業開発について、「何か結果を出したい」という思いがありました。当社の主力事業である「し尿汲み取り」の事業縮小が今後の懸念材料で、数年前からチームを作って新たな事業アイディアを練ろうとしていました。しかし、社員は目の前の従来業務で忙しく、なかなか良いアイディアも出ずという状況が続いていました。

それについても、テクノロジー領域を中心に年間約30社の新規事業開発を支援している実績があり、マーケティングにも精通している新規事業開発のプロフェッショナルの津島さんを推薦いただき、新たな新規事業開発プロジェクトを立ち上げました。

適材適所でさまざまなプロフェッショナルの支援を得た

本当に大事なのは、新規事業ではなかった

—— 具体的にはどのようにプロジェクトに取り組んだのでしょうか?

まず、業務効率化のプロジェクトでは、芹田氏から業務の棚卸しが必要だと言われ、日常業務の流れやタスクなどを把握してもらいました。すると、毎月の労務管理で膨大な量の紙を使用している現実があり、これはすぐにでも無くせそうだということになりました。
労務管理、勤怠管理と給料計算を全部システム化し、社内コミュニケーションも紙からチャットツールに移行したところ、年間6,000枚超の用紙削減、年間130時間超の労働時間削減を達成できたのです。FAXも必要最低限しか使わなくなりました。

——素晴らしいですね。紙による管理からシステムによる管理への移行は、社員への理解浸透にも時間がかかりそうですが、どれくらいの期間で移行できたのでしょうか?

約1年間で移行できました。

パソコンをまったく扱ったことのない社員がほとんどでしたので、社員がついてこられるのか気を使っていただきながら、細かく段階を追って、インフラ整備を行いました。

芹田さんは、当社と似たような規模の中小企業の支援経験が豊富なので、どういったポイントで社員がつまづきやすいかとか、どのようにステップを踏むべきかといった具体的なアドバイスがもらえて良かったです。

—— 新規事業開発の方はどのようなプロジェクトでしたか?

こちらも、1年ほどかけて進めました。社長の意向は「経営理念から外れなければ、どんな形態の事業を実施してもいい」「とにかく1つでも、小さくてもいいから、立ち上がってくれればいい」というスタンスだったので、それまで社内で挙がっていたやりたいことは一旦おいて、本当に0ベースからアイディアを出していく感じでした。

津島さんが社長との壁打ちや、プロジェクトメンバーの社員のファシリテーションをするような形で進めてもらったのですが、アイデアの出し方なども新鮮で面白かったです。

社外の人との協業は従業員にとっても未知の体験だった

徐々にアイディアを絞り込んでいき、具体的なビジネススキームも出来上がり、このまま実行できそうだというところまでいったのですが、その段階で、津島さんから一旦立ち止まることを提案されました。

社長は思い立ったらすぐ行動するタイプなので、「まずはやってみなければわからない」と動こうとしましたが、津島さんから「いつでも実行できるのだから、もう一段階考えてからにしましょう」とアドバイスをいただき、一緒に優先順位を整理した結果、最終的に実施しない方向になりました。

津島さんにリードしてもらいながら、社会における私たちの存在意義だったり、何が提供できるのか、何が強みなのかを絞り込んでいく中で、我々がやっている既存業務は社会貢献事業であり、さらに現在、世間的なホットなワードでもあるSDGsそのものに関わる事業だと気づけたのです。

社長としても「大切なのは、SDGsやサステナビリティという今のホットトピックと親和性が高い、既存事業だ」と、取り組んでいきたい方向性が明確になりました。後には「資源の利活用を行う事業集団」に名実ともに転換するため、有機質肥料製造企業のM&Aも行いました。

——社長のオーダーは「新規事業開発」だったけれど、充分議論に尽くした上で整理すると、本当に大事なのは新規事業ではなかったと気づいたのですね。

そうなんです。実は、二代目である社長は、幼少時代に家業について友人たちから心無い言葉を浴びせられた経験もあり、いわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」と呼ばれる廃棄物処理の職業に、ややコンプレックスがあったそうです。

ですが、津島さんとの対話を重ねる中で、「廃棄の仕事こそSDGsそのもので、なくてはならない仕事だ」と心から思えるようになり、社員にも本当に素晴らしい仕事をしていることを理解して欲しいと感じるようになったようです。

社長は自らの原体験から、従業員全員に「いま注目を浴びているSDGs事業を俺たちがやってるんだ」と理解してもらいたい。社員がゴミ収集やし尿汲み取りをしながら住民の皆さまとコミュニケーションを図る中で、SDGsについて自分の言葉で話せるようになってほしい。そうすれば従業員満足にも繋がるんじゃないか?と考えたんです。

そこで次は、SDGs経営に関する社内への理解・浸透プロジェクトを始めました。

こちらのプロジェクトは、サーキュレーションの社員でありながら、自らプロ人材としてSDGs、サステナビリティ推進のアドバイザリーを行っている信澤さんにお願いしました。

日常会話で「SDGs」が飛び交う職場へ

—— SDGs経営の社内向け理解と浸透というのは、具体的にどのように進めていったのでしょうか?

まずは幹部社員に対して、SDGsに関する研修を行いました。その中で信澤さんが、当社の事業にどのような社会的な提供価値があるのか、SDGsで定められている17のゴールに沿って一つひとつ言語化し整理してくれたことが、SDGsを自分ごと化して理解するのにすごく役立ちました。

SDGs研修はオンラインで実施した

そして、幹部も巻き込んで従業員への教育プロセスを整理し、従業員にもSDGsの研修を広げていった中で、現場の従業員からも、いろいろなアイデアや想いがどんどん出てきたのは嬉しかったですね。そのおかげで環境配慮みたいな意識が社員に芽生えて、従業員全員がSDGsに取り組む姿勢を持つようになったと言えます。

今では、従業員たちの間でも、「今の、ちゃんとSDGsできてたかな?」というような言葉が、日常会話の中で自然に行き交うようになっているんですよ。プロジェクトは3ヶ月くらいの短期集中でしたが、濃厚な内容となりました。

—— 日常会話に浸透しているのはすごいですね。SDGs経営を実装していくことで、どんな成果がありましたか? 

自分たちの事業でどのようにSDGs経営を実装していくか、社内で議論して言語化したものを、対外的にも発信していこうと、サステナビリティサイトを制作しました。これは、広告代理店のクリエイティブ・ディレクターを経て独立された平塚さんにお願いしました。

そうしてSDGsを軸とした発信力を高めた結果、福岡県からSDGsへの取り組みが評価され、補助事業に採択されたのは大きな成果でした。

また、福津市からSDGsイベントの企画立案が舞い込むようになったり、市の広報誌に取り上げられたり、ゴミ収集の際に地域の人から声をかけていただけるようになったのも、嬉しい成果だと思います。

地域の小学生向けにSDGsの取り組みを説明することも

それから、当社として初めて、採用活動に挑戦しました。

——これまで採用活動はされていなかったということですか?

基本的に親兄弟、親戚や友達などの縁故採用で成り立っているケースが多いんです。急に人が足りなくなった時に補充のためにハローワークに掲載したことはあったのですが、採用計画に基づいて人材を募集するような採用活動はやったことがありませんでした。

しかし、社会的に意義のある事業だと自信を持てたことで、新規採用にも挑戦しようということになり、高校新卒の採用イベントに出展しました。

ここでも平塚さんに素晴らしい採用ツールやポスターなどを作っていただいて、「SDGsの会社」といった形で参加したところ、ブースで話を聞いてくれた生徒さんが、「ぜひ会社見学したい」ということで興味を持ってくださり、面接を経て、無事に採用が決まりました。長い会社の歴史に新しい風が吹いた瞬間で、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。

高校生向けの新卒採用イベントに初出展

従業員の仕事の向き合い方にも大きな変化

—— 自分たちの事業の社会的意義に気付き、SDGsを軸にリブランディングを行ったことで新しい世界が拡がって、本当に素晴らしいですね。今後の展望を聞かせていただけますか?

これまでは行政の「委託先」という認識が自分たちの中で強かったのですが、SDGs宣言をしてからは、パートナーとしての関係性に切り替わった感覚があります。今は地域密着型で提供している私たちの社会的価値を、今後は他の市町村でも展開していけたらと考えています。もちろん、自社だけでは難しいので、これからも適材適所でさまざまなプロ人材の力を借りながら実施していければなと思います。

—— 持田さんご自身や社員の皆さんも、この2年間、外部の人材と一緒にお仕事をするようになって変わったことは何かありましたか?

私たちの業界のことを、社長はわかりやすく「井の中の蛙」と言っています。そもそもあまり開かれた業界ではないからですね。私たちの会社を取り巻く環境だったり、社内の風土だったりとか、多分ほとんどの方が接したことが無いんじゃないかなと思います。

ただ、これまで一緒にお仕事してきたプロ人材の方は、ものすごくよく理解していただいて。外部ならではの視点でいろんな意見をくれて、私たちが普段から当たり前にやっていることを、「実はすごいことですよ」と言ってくださったりとか。

プロジェクトに関わってきたメンバーもこの1年、2年で、大きく成長しております。しかも、ただ受け身でやらされている環境ではないんです。社外からの刺激を受けながら、従業員が自主的に参加し、宿題が出ても、それぞれ協力し合いながら進めている風景が見られるのは、ものすごく大きな進歩です。

これまで社内のメンバーだけで何か新しいことを進めようとしても、次第に通常業務に追われてしまって有耶無耶になっていました。しかし、プロ人材に外部から関わってもらうことで、「月に1回、このミーティングまでにタスクを完了しよう」という緊張感が芽生え、いつも新鮮な気持ちで取り組めるんですよね。これはプロ人材を活用する一番のメリットだと、個人的には思っています。

プロ人材とのプロジェクトを通じ、従業員にも大きな変化が生まれた

最後に、御社の事例を見て、フリーランスの活用に興味を持たれた企業に向けてメッセージをお願いします。

一番最初に、社内にはどんな人たちがいて、どんな会社なんだよという雰囲気を、ありのままに伝え、会社の人となりを知ってもらうのが大事だと思います。

正直申し上げると、もともと社内には、新規事業や業務効率化など新しいことに対し、モチベーション高く積極的に取り組む人間はほとんどいませんでした。しかし、フリーランスの人たちは、これまでいろいろな他社企業を見てきて、どんな課題がありがちかということをよく知っているので、恥ずかしがる必要はないんです。

社内の雰囲気をさらけだし、共有することで、向こうも私たちと接するアプローチの仕方を考えられるので、仕事のやりやすさやスピード感がかなり違ってくると思います。

また、目先の利益を追いがちな私たち中小企業にとっては、少し目線を上げて、将来に向けて自社の強みを最大限に活かせる道を共に拓いてくれる存在が必要です。芹田さんは、最初は業務効率化をミッションとして支援をお願いしましたが、今ではあらゆる経営課題において、社長が相談できるパートナーのような存在になっています。

それに、ここまでの2年間、4名のプロ人材はもちろん、最初に相談に乗ってくれた地銀の担当者やサーキュレーションの担当者にも、折に触れてサポートいただきました。

自社の課題はなるべく社外に漏らさないというのではなく、どんどん自己開示していくことで、助けてくれる人や解決策が出てくるので、臆せずさらけ出すことが大切かなと思います。

—— 自己開示することでサポートが得られる、おっしゃる通りですね。適材適所で多様なフリーランスの力を借りて、抜本的なリブランディングを実現した素晴らしい事例でした。本日は素敵なお話をありがとうございました。

◆ ◆ ◆

この取り組みへの共感や参考になった場合は、「フリーランスパートナーシップアワード2022」ファイナリストへの投票もお願いします。

フリーランスパートナーシップアワードとは

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会主催。エントリーは、「活用企業部門」と「エージェント/コーディネーター部門(個人)」に分かれています。10月14日(金)~11月1日(火)のWeb投票期間を経て、アワード受賞者が決まります。

活用企業部門:雇用形態や勤務場所にとらわれずに多様な人材をチームの一員として招き入れることで事業成長に導いた企業

エージェント/コーディネーター部門(個人):フリーランスのチカラが最大限に活かせる環境を見出しマッチングを支援した企業と、その担当者

▽活用企業部門 ファイナリスト一覧

・Social Bridge株式会社
   https://note.com/frepara/n/n9c47cd01a460

・太美工芸株式会社
   https://note.com/frepara/n/n1bed014e19ff


▽エージェント部門(個人) ファイナリスト一覧

・川嶌陽子さん(エッセンス株式会社) 
   https://note.com/frepara/n/nb1b54392bb49

・鈴木太陽さん(株式会社サーキュレーション)
   https://note.com/frepara/n/n50e57417fb98

・南部 晶洋さん(株式会社コーナー)
   https://note.com/frepara/n/nd4d586fc965b



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