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“新規事業の産休”を取得し、地域のスモールビジネスの立ち上げにも奔走 【事務局長/中山綾子】

フリーランス協会で働く人を紹介する新連載、「突撃!フリーランス協会の中の人」。

今回は、協会設立初期から携わるメンバーであり、今も理事兼事務局長として中心的な役割を担う中山綾子をご紹介します。

事務局長の中山綾子

<プロフィール>
中山 綾子(なかやま あやこ)
大手飲食企業での店舗運営・新業態開発を経て企画会社へ転職し、商業施設の年間販促やメーカーの商品企画、官民連携の子育て支援事業などを多数手がける。2017年1月に独立と同時に(社)プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会に参画しチームやプロジェクトを横断し活動。現在は理事兼事務局長。2018年10月に個人事業を(株)DaccoDayとして法人化。働き方、子育て、暮らし方にポジティブで多様な選択肢のある世の中づくりに貢献したいと奔走中。

事務局のみんなから頼られ、愛されるリーダーとして、協会の屋台骨を支えながら、一人のフリーランスとしては地元のコワーキングスペースや飲食店の経営、ペットフードの製造販売、イベントプロモーションなど、地域のスモールビジネスに数々携わっている中山。

「千手観音」の異名を持ちながら、癒し系ハイトーンボイスと太陽のような笑顔で、いつもフリーランス協会事務局を温かく包み込んでくれる中山に、外部ライターが突撃インタビュー!

事務局長と並行し、コワーキング喫茶や食堂も運営


──こんにちは! 今日はよろしくお願いします。

中山:よろしくお願いします〜。

──さっそくですが、綾子さんはとても多岐にわたる活動をしていらっしゃるとか。改めて、今のお仕事内容を教えていただけますか?

中山:大きく分けると、今は3つの仕事をしています。1つは、常勤理事として働いているフリーランス協会の仕事。残りの2つは個人で経営している会社の事業で、イベントプロモーションなど請負型の仕事と、コワーキングスペースやお店など、自社で手がけている地域の場づくりの仕事という感じです。

──イベントや場づくりでは、例えばどんなことを手がけていらっしゃるのでしょう?

中山:イベントプロモーション関連では、地域のお祭りプロデュースや、企業のファンイベント、ユーザー座談会などの企画運営をしています。新商品企画など、プランニングに携わることもありますね。

プロデュースした地域のお祭り

場づくりではまず、自分が住んでいる南町田の住宅街で、『cosoadot(こそあどっと)』というコワーキング喫茶を運営していて。自分の事務所をまちにも開放するようなイメージでやっています。

「コワーキング喫茶」の名の通り、くつろげるコワーキング

そこはコワーキング機能に加えて、地域のハンドメイド作家さんの作品をお預かりして販売する、まちのアンテナショップにもしているんです。中にキッチンもあるので、今年の2月からは日替わりでいろいろなお菓子の作り手さんに入っていただくシェア店舗型のお菓子屋さん「日がわりおやつYotte」も始めました。

普段は人通りの少ないのに「日がわりおやつYotte」のオープン日には行列ができるそう!

──自分の事務所をまちに開放しながら、他の事業にも展開していくという働き方、楽しそうです……! さらにこの9月、地元でまた新しいお店をオープンしたばかりとか。

中山:そうなんです。南町田のグランベリーパーク内に鶴間公園という大きな公園があるんですが、そのカフェスペースを運営受託して、9月15日に『BEER&CAFE つるま食堂』というレストランをオープンしました。

ビールジョッキを彷彿させる外観の「つるま食堂」

鶴間公園は、スポーツやペットの散歩で訪れる人、子どもと遊びに来る家族など、いろいろな方が往来する場所。その中でシェフ自慢のごはんやスイーツが楽しめたり、緑を見ながらクラフトビールが飲めたりと、いろんなシーンで気軽に使ってもらえるような“ご近所ビストロ”にしていきたくて。

「つるま食堂」ではクラフトビールに合うお肉系料理が豊富!

ここにくると地域の情報が手に入ったり、地元食材の作り手さんのことがわかったり、小さな地域イベントをやっていたり。そんなふうに、まちの魅力に遭遇できる、まちの交流拠点になっていったらと考えています。

新規事業を生むための“事業産休”


──ところで、協会の仕事や既存の個人事業を回しつつ、新規事業も立ち上げるというのは、大変だったのではないですか?

中山:ええ、そこで実は今、それまで働く時間の8〜9割を費やしていたフリーランス協会のお仕事を、3か月間だけ「新規事業の産休」としてお休みさせてもらっているんです。今は食堂の立ち上げに集中して、軌道にのせたらお店はスタッフさんに任せ、私は協会のお仕事に戻る予定です。

──なるほど、新規事業の産休……! そうやって時期によってバランスを柔軟に変えながら働けるのも、フリーランスならではですね。

中山:取引先の方に「3か月ほど業務を離れることになって」と言うと、「もしかしてお子さんの産休?」と、ザワザワさせてしまいましたが(笑)。「ちょっと個人事業の方で別の仕事を生み出してきます」と言って、皆さんに応援いただき、ありがたかったです。

──パラレルでいろいろな仕事をするなかでの気づきがあればぜひ教えてください。

中山:私の中では、「もっとよい世の中になればいいな」という動機のもと、全部の仕事がつながっているような感覚なんです。例えばコワーキング喫茶には会社員やフリーランスなどいろいろな立場の方が来られるので、お話するなかで、フリーランス協会の運営に欠かせないリアルな声が聞けます。

「場」があることで、集まる声や情報から新しい企画の種をいただくことも多いです。例えば、獲れすぎた野菜を販売してほしい、と農家さんに声をかけてもらったところから、地域の余剰素材を活かしたペットのおやつを開発して販売したり。

廃棄されがちな規格外食材を使った「アップサイクルペットフード“Picnic”」

自分が関わっている企業の軽作業などを、地域のお母さんたちに仕事として発注してるんですが、そこでの会話からイベントや編集のテーマを思いつくことも。そんなふうに、どこも分断されているものはなくて、全部がつながっていて。良い意味で影響しあっているなと思います。

「会社の中にいなくても、私は同じ仕事ができる」


──そもそも、イベントや場づくりなどのスキルや経験はどのように培ってこられたのでしょう?

中山:学生時代から「場をつくる」ことが好きでした。接客のアルバイトでも、お客さんと話して、そこに価値を見出してもらい、対価を得て事業者が儲かっていくことが嬉しかった。そんな背景から、「めちゃめちゃ儲かるお店をつくりたい」と思い、卒業後は飲食系の会社に入ったんです。

飲食店で働いていた当時の中山

でもリーマンショックがあり、新業態開発で立ち上げに携わっていたお店の話が頓挫してしまって。その後、いろいろなお店の立て直し屋として奔走するなかで心を消耗してしまい、自分がやりたいこととのズレに気づきました。

そこで企画会社に転職をし、イベントの企画運営やプロモーションに携わるようになったんです。「ワンストップでなんでもやる」ことは、そこで勉強させてもらったと思います。

──フリーランスになった理由とは?

中山:ひとつは、子どもを朝一番早くに保育園に預けて、一番遅くに迎えに行く暮らしをするなかで、「このままでいいのかな」と思っていたこと。漠然とした罪悪感を常に抱えている、みたいな感覚があったんです。

もうひとつは、「会社の中にいなくても、私は同じ仕事ができる」と気づいたことでした。そのころ地域のイベントを手伝うなかで、「売上的に会社では引き受けられないが、自分は興味があって手伝いたい」と思う案件が増え、会社の代表と相談し、副業という形で個人でも仕事を受け始めていたのです。

子どもへの罪悪感のようなものと、「会社でも個人でも私がやる仕事は同じなんだ」ということに気づいたタイミングが重なって、会社の案件も外部パートナーとして個人で担当させてもらいながら、フリーランスになろうと決めました。

課題改善のスピード感、成長を目の当たりにできる

──フリーランス協会に関わったきっかけは?

中山:代表の平田とは友人で、2016年の忘年会のとき「こういう団体を作ろうと思う」と構想は聞いていたんです。私もちょうど年明けからフリーランスの予定だったので、「やれることあったら何でも言って」と言っていて。

そしたら、2017年の新年会のときにはもう協会が設立されていたんですよ!「え、どういうこと」と(笑)。でもニュースでは注目を集めていたし、平田の思いや覚悟も聞いていたので、これからやることはいっぱいあるだろう、とすぐに手伝い始めました。

──理事や事務局長として、普段はどんなお仕事をしていますか?

中山:主にバックオフィス業務ですね。会員サポート、法人会員対応、開発、財務、法務など、フリーランス協会がフリーランスのインフラとして安定的に機能するための基盤のまとめ役のような立ち位置です。

──そういったお仕事のなかで、特にやりがいだと感じることは?

中山:フリーランス協会は設立当初、「フリーランスのことを知りたいが問い合わせる先がない」政府の方や、「フリーランスにサービスを知ってほしいがルートがない」企業の方に、ご期待をいただくことが多かったんです。でも当時は会員数も少なく、もっと多くの、もっと多様なフリーランスのための代弁者や拡声器にならなければと感じていました。

でも今は、それが少しずつマッチしてきていて。ご期待に対してしっかりと成果をあげ、喜んでいただけるようになったことが嬉しいです。日々、課題発見とその改善を繰り返してきたのですが、そのスピード感、成長を目の当たりにできることは、一番の喜びかなと思います。

「名刺と間違えてUNOを持ってきてしまった」事件は、中山を語るうえで欠かせない珍エピソード

──設立当初と比べて、特に成長を感じるのはどんなときでしょう?

中山:私は法人入会を希望する企業様を対応することが多いのですが、設立当初は、イベントに何人集まるか、サービスを何人に使ってもらえるか、などの費用対効果で協会と組む意味を判断されていたと思います。それが今は、「フリーランス協会と一緒に取り組む」こと自体に価値を感じていただけるようになってきたというのが、もっとも大きな違いですね。

その背景には、フリーランス当事者の団体という軸をブラさず、大事にしてきたこともあると思います。協会では毎年フリーランスの実態調査を行い、『フリーランス白書』にまとめて発信していますが、会員数が増えるに伴い、より当事者のリアルな実態を発信できるようになってきていると感じます。

今では政府も、フリーランスに関するトピックを新しく検討する際にはほぼ必ず、ヒアリングに来られます。「当事者不在のまま、フリーランスにまつわる法や政策が揉まれている」といった設立当初の課題意識は、かなり改善されてきているのではないかと思います。

2021年秋のフリーランス協会の合宿は、中山の運営するcosoadotで開催

“伏線を持つ”ような働き方を、多くの人へ

──綾子さんの考えるフリーランスのメリット、デメリットとは?

中山:メリットは、自分がやりたいと思うことに、自分の判断で時間を使うことができることだと思います。働くも休むも、自分で決められる。かつ場所にとらわれず働くことができるのは、自分にはすごく合っているなと感じています。

デメリットは、契約や会計など含めたすべての作業を自分でやらなければいけないことでしょうか。また法整備や社会保障面など、やはり会社員のほうがよいと思うことがあるのも事実で、私自身も雇用の仕事と業務委託の仕事を両方やっています。

ただそうした課題も理解したうえで、自分の仕事や、時間の使い方を選択できるという良さがそれを上回っているかなと思います。とはいえ自由度が高い分、フリーランスになった当初は、夫に私の働き方をなかなか理解してもらえず、バトルもありました。今は互いに応援できる関係ですが、バランスをとれるようになるまでは、難しかったですね。

──法整備などの課題と、家庭内などの課題といろいろとあると思いますが、フリーランスがより働きやすくなるために、どんな整備をしていったらよいと思いますか?

中山:同じクライアントでも、雇用契約のほうがいい時期と、業務委託でスポットで関わるほうがいい時期、どちらもあると思います。そのたびに社会保険や雇用保険を切り替えて……は不毛だと感じるので、そのあたりが整備されて、働き方が選択しやすい世の中になるといいなと思います。

また私個人の思いとしては、精神的にも経済的にも自立した母親を増やしていきたいんです。仕事のブランクを感じている方や、育休中の方も個人事業で副業的に仕事をするなど、0か100の働き方以外にも、“伏線を持つ”ような働き方が、もっと増えるといいなと思うので。

これは、女性に限った話でもないですよね。協会としても、「フリーランスキャリアドック」というキャリア相談のしくみを2022年の4月からスタートし、働き方について相談しやすい環境を整えているところです。

このモニターアンケートでは実に9割以上の方が「定期的にキャリア相談を受ける意義を感じた」とおっしゃっていました。十分に自立している方でもそう感じるということは、本当に価値がある仕組みだと思うんです。これからはこのキャリア相談のしくみをより育て、定着させていきたいです。


【 私の道しるべ 】「やってみることが、一番の情報収集」

独立して一番実感しているのは、「過去にやってきたことの数々は、振り返ればどれも、自分らしい働き方をつくることに貢献してくれている」ということです。心を消耗した複数店舗の立て直しも、今思えば既存のチームに入って成果を出す経験でした。

会社員として頑張ってきて、個人で何かやりたいけれど不安だという人がいるなら、小さくてもいいから、何か「やってみる」といいと思います。もし失敗したとしても、「このままではうまくいかない」情報収集になったということ。足りないものがわかれば、次にとるべき行動がわかる。前進できるんです。

我ながら、あちこちに手を出して散らかりがちだな〜と思うこともありますが(笑)、無駄なことはひとつもない!の精神で、これからもどんどん、やってみます。

「つるま食堂」開店直前の繁忙期にもかかわらず、にこにこ、穏やかにお話を聞かせてくれた綾子さん。

両手にたくさんの企画を回しながらも、休むときは休むなど柔軟な発想でバランスをとりつつ、さらなる企画をどんどん実現させてゆく、周りも笑顔にしてしまうような明るいパワーが印象的でした。「やってみることが、一番の情報収集」。小さくてもいいから一歩を踏み出すことで、初めて見えてくる世界があるのかもしれません。

ライター:渡邉雅子
大学卒業後PR会社勤務、フィジー留学を経て豪州ワーホリ中にライターに。帰国後ITベンチャー等々を経て、2014年に独立。2016年より福岡在住。現在は糸島界隈を拠点にフリーライターとして活動。日常、まち、食、育児、多様性。エッセイ、小説風なども対応。海辺と絵本とおいしい野菜が好き。
Web: https://masakowatanabe.themedia.jp/

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