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ふるさと納税ランクイン! シニアのプロ人材と挑んだ知見ゼロからのジェラートづくり/ニチノウ食品株式会社

フリーランス・パラレルワーカーが参画することで、チーム一丸で大きな成果を上げたプロジェクトにスポットを当て、フリーランスと組織の理想的な関係構築のあり方や共創意義を賞賛する「フリーランスパートナーシップアワード2023」。

本記事は、1次審査を通過したファイナリスト5組のうち、ニチノウ食品株式会社の事例をご紹介します。

長野県で漬物の素や直火焙煎ナッツを扱ってきた同社は、地域貢献を目的に新商品の開発を決意。65歳でフリーランスとなった大手メーカーの元幹部を強力なチームメンバーとして招き入れ、知識も経験も全くゼロからのジェラートづくりに挑戦し、あっという間にふるさと納税人気商品の仲間入りを果たしました。

完成までにかかった期間はわずか半年。ニチノウ食品代表取締役社長の有賀哲哉さん、フリーランスの島森清孝さん、お二人を仲介した株式会社クオリティ・オブ・ライフの品川将一郎さんの3名のお話から、スピーディーに成果が出た理由を探ります。

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つくり方は分からないけど、ピスタチオジェラートをつくりたい!


――ニチノウ食品はもともと漬物の素と直火焙煎ナッツの製造・販売を行っていた会社です。なぜジェラートづくりをすることになったのでしょうか。

有賀:長野県は野沢菜漬で知られるように、古くから各家庭で野菜を漬ける独自の風習がありました。そのため当社も10年ほど前まで漬物の素を主力商品としてきましたが、食文化の変化や健康志向の高まりなどから需要が頭打ちとなりました。

このままでは会社に未来はないと、企業変革を進めながら第二の事業の柱を求めていたところ、焙煎ナッツの袋詰めの業務を請ける機会があり、現在は当社でナッツを焙煎、販売しています。おかげさまで当社のナッツは人気となり、ECサイトでもナッツ部門で上位の売上を誇ります。中でも人気なのがピスタチオ。これを使って何かできないかと、考えるようになりました。

それで手始めに「ピスタチオ」でネット検索をしたら、ジェラートがたくさん出てきたのです。一体どんなものなんだろうと、東京まで行って、ピスタチオのジェラートをひたすら食べ歩きました。その結果、「うちのピスタチオの方がおいしいんじゃないか」と思ったんです。

また、その頃に地域の酪農家と話をする機会があり、「牛乳が売れない。このままでは(会社のある)箕輪町の酪農家はいなくなってしまうかもしれない」という悩みを聞きました。

それならピスタチオのジェラートを、ふるさと納税の返礼品にすることで、酪農家の支援もできるのではないかと思ったんですね。

当社ではふるさと納税の返礼品として、2020年からナッツを出品しています。年間5000万円程度だった箕輪町のふるさと納税の税収は、5年間で5億円まで上がり、そのうち3億円を当社のナッツが占めています。

工場で焙煎されるピスタチオ。袋詰めの請負からスタートした事業は、今では看板商品に。

この事例は「わくわく食体験を開発して社会に貢献する」という当社の理念を体現でき、社員のエンゲージメントが格段に上がるきっかけとなりました。そこで、より地域貢献につながるものをと、ピスタチオのジェラート開発を決めました。

――フリーランスである島森さんに、仕事を依頼したきっかけを教えてください。

有賀:「ジェラートをつくる!」と決めてから気づいたんですが、当社にはジェラート製造のノウハウが一切ありませんでした。どうやってマーケティングしていこうかと考えていたら、社員たちから「社長、そもそもつくり方を知っているんですか?」と聞かれて(笑)。
 
これは困ったぞと思っていた頃に、以前から知り合いだったクオリティ・オブ・ライフの社長と話をする機会があり、「それならプロ人材に協力してもらった方がいい」とご提案いただき、初めてそういう選択肢があることを知りました。
 
何人かご紹介いただいた中で島森さんにお願いしようと決めたのは、お菓子やアイスの商品開発やマーケティング分野で豊富な経験を持ちながらも、非常に謙虚な方だったことが大きいです。
 
島森さんは当時68歳。ジェラートはECでの展開を想定していたので、最初は失礼ながら「大丈夫だろうか」と思っていたのですが、話をするうち「この人となら、うまくいくかもしれない」と感じました。

島森:私は3年半前に40年以上勤めた江崎グリコを退職した後、これまで培った経験で少しでも社会の役に立てればと、フリーランス人材の紹介会社にいくつか登録をしていました。

有賀さんの第一印象は、「初対面から冗談を飛ばす、すごい社長」でした(笑)。面談の段階でここまで自分をさらけ出すということは、きっと本音で仕事に取り組む方なのだろうと感じましたね。

また、有賀さんはジェラートの製造方法と販促戦略の知見を求めていましたので、それならばお力になれるかなと。

――島森さんのご経歴であれば、再就職でも引く手あまただったと思います。あえて業務委託で仕事を探したのはなぜですか?

島森:もう会社員生活は十分かなと思いまして(笑)。江崎グリコではいろいろなチャンスをいただいて、海外拠点の仕事や経営の仕事も面白かったのですが、大企業ですから思うように動けない場面もあります。

それなら今度は、自分がやりたいと思うマーケティングの仕事に特化しようと考え、フリーランスの道を選びました。

「その商品は、理念を実現するものですか?」


――プロジェクトはどのように進めていったのでしょう?

島森:最初の3カ月間は月2回ほどのペースで長野へ伺い、直接ミーティングをしていました。

私は前職企業でアイスクリームの開発部長だった時期がありますが、メインはマーケティングでした。製造面で細かい知見が必要な場面では、過去に一緒に仕事をしていた人を頼り、教えてもらった情報を有賀さんにお伝えしていました。

時には品川さんにオンラインで入っていただき、ご意見をいただくこともありましたね。

有賀:今回驚いたのは、品川さんがマッチングで終わりにせず、その後も伴走してくださったこと。一緒に良いプロジェクトにしようとしてくれたのが、とてもうれしかったです。


有賀社長(写真中央)と島森さん(左から2番目)、従業員との懇親会のようす。

品川:お二人のやりとりから、心理的安全性が築けていると感じましたね。有賀社長が冗談で笑わせてくれて、島森さんは謙虚で優しい。そうかと思えば反対意見も含めてお互いが遠慮なく議論し合えているのが画面越しでも伝わって来て、商品がどんどんブラッシュアップされていくのを感じていました。

島森:実は関係構築に最もつながったのは、駅から会社まで社長が車で送迎してくれる時間だったと思います。行き帰りに30分ずつ、会社の話だけではなく、ご家族や過去の経験、従業員の皆さんの話など、いろいろ聞かせていただいたことで、社長の人柄が伝わり、「この人の役に立ちたい」という想いが強まりました。

有賀:最初は、大手企業出身の島森さんから中小企業の当社がどう見られるのか、怖かったんですよ。でも、同じ目線でものを見ていただきたいという意図もあったし、「こういう状態だから、助けてもらわないと困るんです」と開き直って、車の中で全てを話しました。

――島森さんがいたからできたこととして、象徴的なエピソードはありますか?

有賀:最初に「今回つくる商品は、御社の理念を実現するものですか?」と問われたことですね。

当社には「全従業員の物心両面の幸福を追求する」「わくわく食体験を開発して社会に貢献する」という2つの理念があります。私は自社が世に送る商品が、会社の理念を体現するものでなければいけないと常に考えています。ジェラートは地域貢献が出発点だったので、島森さんの質問が非常に心に響きました。

この時点で「きっとうまくいく」と思いましたね。

島森:ジェラートづくりは初めだと聞いて、開発の過程で何かあったときに揺らぐだろうと思いました。そんなときに楽な逃げ道を選ばないためにも、最初に「何をつくりたいのか」を明確にする必要がある。

ちょっと言い方は悪いですけど、本気度を確かめたかったところもありますね。

有賀:「私の信念は強いから大丈夫」と思っていたのですが、島森さんが懸念されたとおり何度も揺らぎました。

たとえば、儲けだけを考えるのであれば、牛乳を使わないソルベ(果汁を用いた氷菓。乳脂肪分を含まない特徴がある)の方がコストは下がります。でも「それは理念と違いますよね」と従業員が言ってくれて、我に返りました。地元の牛乳を使って酪農家を支援し、地域に貢献することが目的ですから。

また島森さんは、「コンセプトストーリーをつくりましょう」と提案してくれました。振り返れば、開発過程で迷った時の判断はコンセプトストーリーに近いところに着地している。最初に想いを言葉にして、時間をかけてつくり上げたのがよかったと思います。

折に触れて初心に立ち返り、ブレることなく済んだのも、島森さんが伴走してくれたおかげですね。もし島森さんがいなければ、安いソルベをつくってしまっていたかもしれません。

理念に立ち返ることで商品が完成に近づいていった


――プロジェクトで苦労したことを教えてください。

有賀:本当にゼロからのスタートでしたので、当然社内に人材がいない。レシピ開発や製造など、できる人を探すのは一苦労だろうなと感じていました。ただ、これに関しては不思議なご縁がたくさんありました。

たとえばレシピ開発できる人が必要だと思っていた矢先、農業をしている52歳の方から「自作の野菜を加工販売する勉強のために、工場でアルバイトをさせてほしい」と応募がありました。

「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という理念の実現を考えれば、工場で漬物の素やナッツの製造に関わるよりも、一緒にジェラートをつくった方が彼のためになる。しかも彼は物理学を学んでいて実験好きだという。これはピッタリだと、レシピ開発をお願いしました。

彼は素晴らしい力を発揮してくれました。朝から晩までたくさん試作し、わからないことはイタリア人の先生に聞いたり、ジェラートの機械メーカーに尋ねたりと一緒に試行錯誤したことで、レシピ開発はどんどん進んでいった。

ここでもまた、理念に立ち返ることで、商品が完成に近づいていったような感覚がありました。

ジェラート工場で相談し合う従業員たち。

島森:パッケージでも苦労がありましたね。オリジナルのカップをつくると金型代などコストが高くなりますし、ふたも紙製の上ぶたかシールかで金額は大きく変わります。

ただ、そこにお金をかけるのであれば原料に投入したいというのが基本的な考え方でしたので、シールぶたを提案し、最終的には良い素材をお選びになっていました。

有賀:各地域の保健所によって判断も異なるのですが、最初は上ぶたが必要だと言われて交渉突破したり、材料を殺菌しなければいけないルールのもと、ナッツの風味をどう生かすかという課題に直面したり、本当にいろいろなことがありました。

でも、一つひとつ島森さんと話し合いをしながら、保健所に説明をして……と、着実に前に進めていけたと思います。

あとは従業員と一緒になってプロジェクトを進められたのも、よかったと思います。

――何か工夫があったのでしょうか?

有賀:試食のときは「今日は〇〇味のジェラートをつくるよ」と声をかけ、終業後に食堂で「お疲れさま」と試作品を渡し、感想を教えてもらっていました。また、毎月の給料明細を手渡しする際にプロジェクトの進行状況を共有していましたね。

新しい事業は「また社長が何かやり始めたよ」と他人事に感じてしまう従業員もいると思いますが、製造段階ではみんなの協力が不可欠です。完成を楽しみにしてもらえるように意識したことで、理解を得られたように思います。

中小企業にこそ、プロ人材に助けてもらう発想が必要


――島森さんのように、セカンドキャリアで独立を考えている人にアドバイスはありますか?

島森:自分で営業をするだけでなく、品川さんの会社のような、信頼できる案件とマッチングをしてくださるサービスを頼るのもひとつの方法です。

フリーランスは仕事が忙しいときと、そうでないときで波はあり、収入が安定しないという意味では厳しい面もあります。しかし自分がやりたい仕事に集中できるという点で、退職後の生き方として良いところがたくさんあると思っています。

――外部人材に仕事を依頼することに不安を感じる経営者もいます。有賀さんはどう思いますか?

有賀:新しいことに挑戦する際、自分ひとりではほとんどのことができません。とはいえ中小企業ですと、専門性の高い方を採用するのは現実的ではないことも多いです。課題を解決したら役割がなくなってしまう可能性もありますし。

だからこそ自社を良くするために、プロ人材の知見や人脈に助けてもらう考えが必要だと感じています。

たとえばマーケティングや人材教育など、必要な時にそれぞれの分野の専門性を持つプロ人材と半年~1年をかけて答えを出すような動きが取れると、会社は活性化するのではないでしょうか。

足りないところを強化するために、品川さんの会社のようなマッチングサービスに相談し、期間を決めて契約できるのは非常にありがたいと思います。

――最後に、今回のプロジェクトの感想を教えてください。

品川:今回のプロジェクトに参加させていただいて感じたのは、有賀社長の助けてもらう力と、島森さんの寄り添う力の2つが機能したということです。

有賀社長がストーリーを語り、それを島森さんが強化し、社内のメンバーを巻き込んでいき、みんながそれを楽しむ。遠距離なので心配でしたが、島森さんが長野に行ったり、有賀社長が東京に来て一緒にジェラートを食べたりと、共同体験があったことも良いチームになった要因だと思います。

島森:当初は完成までに1年はかかると思っていましたが、実際は半年でできました。

新規事業は研究の積み重ねも必要ですし、どうしても時間がかかります。実際、これまで他の新規事業プロジェクトにも携わりましたが、こんなに早く結果が出たのは初めてです。

有賀:実は、ずっと「自分はできる」と思っていたんです。でも漬物のマーケット縮小に伴って経営がうまくいかなくなり、助けてもらうしかなくなりました。

でも、勇気を持って「助けて」と言ったら、不思議なもので助けてくれる人が現れるんです。素直に口にした方がいいなと今は実感しています。

完成したジェラートは地元の酪農協議会の「おもてなし牛乳使用認定」を受ける。地元新聞でも取り上げられた。

島森:有賀さんには、人を見抜く力があります。「この人にはこんな能力があるから、この仕事を与えたら活躍するだろう」という人の生かし方がとても上手です。

そして、意思決定の早さ。大手企業だと何かと時間がかかりますが、有賀さんは翌日には意思決定をしている。本当にスピーディーです。

それらはプロジェクトが成功した大きな要因であり、私も非常に勉強になりました。

有賀:漬物の素は野菜ごとに味が決まり、ナッツは単品とミックスのどちらにするかくらいの選択肢しかないですが、ジェラートは地域の牛乳をベースに、あらゆる素材が使えます。この魅力に気づいたことで、今後の可能性はますます広がりそうです。

ジェラートは2023年7月末に販売開始したばかりですが、ふるさと納税サイト「さとふる」で7035件中39位、「ふるさとチョイス」では9434件中9位に位置するなど、好調な滑り出しです。(※2023年10月上旬現在)

まさに「わくわく食体験を開発して社会に貢献する」という理念を実現する商品として、良いスタートを切ることができました。ふるさと納税は年末に向けて増えていくでしょうから、引き続き商品を広め、箕輪町に貢献したいと思います。

――当初の目的からブレない開発のカギは、数々の商品づくりに携わってきた島森さんの豊富な経験と謙虚さ、有賀社長の理念に対する実直さとオープンネスな姿勢にあったのですね。本日は素敵なお話をありがとうございました。

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フリーランスパートナーシップアワードとは
フリーランスパートナーシップアワードは、フリーランス(プロ人材、副業人材など)と企業が良いパートナーシップを築き、チーム一丸となって成果を出したプロジェクトに光を当て、讃えることで、企業がフリーランスをチームに迎え入れることの意義や成果を広く発信するものです。
書類審査による予選を勝ち抜いたファイナリスト5組の中から、Web投票により大賞が選ばれます。また、本選でのプレゼンテーションを踏まえた特別審査員賞も選出されます。

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▽その他のファイナリスト一覧

・発売2カ月で年間予測を達成 フリーランスエンジニアとのタッグで13年ぶりの新商品開発/ゴトー電機株式会社
https://note.com/frepara/n/n68847e4545b3

・フリーランスも主戦力のチームでデザインを内製化 一貫性のあるクリエイティブで一躍テック企業へ/株式会社出前館
https://note.com/frepara/n/ndf2964bbf1d1

・プロ人材の猛アタックでリベンジ実現! 歴史的醸造メーカーのリブランディングプロジェクト/山二造酢株式会社
https://note.com/frepara/n/nbc04eda79c17

・町工場・商店街の新たな挑戦。副業人材のバックアップで11件の新規事業を創出して、自走する街へ/ONE X・大田区
https://note.com/frepara/n/n6a1edf5e09ac


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