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プロがプロとして認められるために、‟一流”の闘い方がある~『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』【フリパラ映画レビュー】

映画のアクションシーンを見ていると、「今のところは顔が映らなかったからスタントだな」と、余計なチェックをしてしまう嫌なタイプの観客の私。
だけど、そんな顔も映らないスタントパフォーマーたちが大ヒット映画を支え、ハリウッド映画の歴史を作ってきたのです。

現在公開中の映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』は、スタントウーマンの闘いの歴史・現状・展望を、インタビューや撮影現場の映像で結んで見せていくドキュメンタリー。特殊な職業ではありますが、その道で一流を目指す女性たちの仕事への向き合い方に刺激をもらえます。

実力で認めさせる

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この映画で序盤からまず驚かされるのは、1910年代のハリウッドでは多くのスタントウーマンが活躍し、危険なアクションに臨んでいたという事実です。
しかし「映画は儲かる」と認知されると、映画界にどっと人が集まり、ハリウッドは男性中心の社会に変わってしまいます

女性メインの作品が減り、女性のキャラクターはヒーローの恋人や妻、アシスタントなど、お飾り的存在に。スタントパフォーマーも男性が中心となり、「スタント=男の職場」の意識が定着。女優のスタントが必要になると男性が女装をして挑むなどという不自然な状況を生んでいたといいます。

そんな状況に甘んじてはいられない。
スタントウーマンたちは自分たちの力不足だと奮起し、一層のトレーニングに励みます。
女だって何でもできる。「できない」とは絶対に言わない。

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1961年に設立された「スタントマン協会」には「MENじゃないから」と入会を拒否されたため、彼女たちは別途1967年に「スタントウーマン協会」を設立。ミスをすれば「女だから」と嘲笑する男たちを実力で黙らせるために努力を重ねていきます。スタントウーマンの歴史は、そのまま性差別との闘いの歴史でもあることが分かります。

正しく怖がる

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スタントパフォーマーというと、命知らずの特効野郎的なタイプの人が多いイメージがあるかもしれません。正直なところ、私はちょっとそう思っていました。

しかし、現在活躍中であるスタントウーマンたちは、命知らずどころか、お互いを守るために次のことを心掛けているそう。

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現場で少しでも「イヤな感じ」がしたら止める。
「できる/できない」の判断を学ぶ。

彼女たちは強い連帯意識を持ち、周囲のすべての人の安全に常に気を配っているのです。

よりスリリングな映像を撮るために監督がどんな要求をしてきても、安全性は譲れない。認められるため、食い扶持を稼ぐため、どんな過酷な仕事でも果敢に挑んでいくスタントウーマンたちですが、「キャリアを積むにしたがって『ノー』と言えるようになっていった」とベテランたちは語ります。

人を怒らせることを恐れない

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家庭は大丈夫? 子供の世話は? 40歳をすぎるとクビになる――など、根強く残る「女性はスタントを長く続けられない」という偏見。キャリアアップの道としてはアクション監督(アクションシーンの設計、撮影、編集などを行う)になるという選択があり、女性アクション監督の増加が期待されているといいます。

映画に関わらず仕事の現場では、「声の大きい者」の意見がとおりがちですが、女性のアクション監督には、じっくり状況を把握し、強引には事を運ばないという良い傾向があるのだとか。「人を怒らせることを怖がってはいけない」「あとでフォローすればいいだけ」とある女性のアクション監督が語ります。誰に何を言われても、やるべきことが最優先。正当な評価を得るための彼女たちの闘いはまだまだ続きます。

スタントウーマンたちが望むのは、「女のわりによくやった」「女なのにすごいね」という色眼鏡で見た賛辞ではなく、「プロとして尊敬されたい」の一点。真の一流を目指して、自身のパフォーマンスに磨きをかけ、たゆまぬ努力を重ねているのです。

『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』
全国順次公開中  
監督:エイプリル・ライト 製作総指揮:ミシェル・ロドリゲス
2020年/アメリカ/84 分
原題:STUNTWOMEN THE UNTOLD HOLLYWOOD STORY
配給:イオンエンターテイメント 配給協⼒:REGENTS 
公式サイトはこちら
© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
新田理恵
ライター・編集・字幕翻訳者(中国語)
大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員を経てフリーに。映画、ドラマ、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆している。
Twitter:@NittaRIE
Blog:https://www.nittarie.com/

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