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実は60歳前半で引退!?「フリーランスは生涯現役」の理想と現実

昨年は、大手企業が一部正社員を個人事業主へ切り替える制度を発表するなど、フリーランス化の流れを感じる一年でした。フリーランスの労働環境整備のためのガイドラインを策定するなど、国も人生100年時代に向けて、「生涯現役」の可能性をフリーランスに感じているようです。フリーランス白書2021の結果と、フリーランス協会のアドバイザリーボードを務める専門家の言葉から、「生涯現役」の可能性を探ります。

人生100年時代に向け、国もフリーランスに期待

2021年3月26日、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で公表されました。これは、フリーランスと事業者との取引について、各法令に当てはめた場合、何が問題行為になるかを明確化したもの。「契約書なしでの口約束の依頼」や「立場の違いを利用した無理な発注」など、フリーランスにとって不利な取引が規制対象となり、フリーランスがより安心して働ける環境づくりを推進するものとなっています。

このガイドラインの序文には、以下のように書かれています。

フリーランスについては、多様な働き方の拡大、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待される。

人生100年時代、国が支えきれない分を自助努力で稼げる存在として、国はフリーランスに期待を寄せているのです。

フリーランスであっても、「仕事は60歳前半まで」が現状

しかし本当に、「フリーランスになれば生涯現役」が可能なのでしょうか。

同じく2021年にフリーランス協会が発表した「フリーランス白書」では、現役で、フリーランスとして働く人を対象に「何歳まで働ける自信があるか」を調査しました。

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図を見るとわかる通り、「収入を伴う場合、何歳まで働ける自信があるか」という問いへの答えとしては、「60代前半」が多く、各年代とも約2割を占めています。フリーコメントを見ると、

「個人で事業を継続するには体力的にも精神的にも大きな負担となるため、60代でのリタイアが妥当だと考えている」(40代男性)
「周りを見ていても70歳を過ぎたあたりからは“老害”でしかないように感じます」(50代男性)

のように、60代以降にそれまでと同じペースで働くことに対して、自信のなさが伺えます。

一方、同じ「何歳まで働ける自信があるか」という質問でも、「収入を伴わない※場合」という条件が付くと、「生涯現役」と答える人がグッと増え、2割を超えてきます。

「業務委託料を頂くことを考えると、20数年後の自分がそれにコミットできる状況にあるのか、かなり不安がある。収入を伴わず、現役の方々への支援という形での関わり方であれば、意義のあるお仕事はできると思っている」(40代女性)

というコメントのように、収入を伴わない範囲でならばずっと仕事をしていきたいという考える人が多いと言えます。

いずれにせよ、現時点でフリーランスとして活躍している人であっても、国が期待しているような「生涯現役」で稼ぎ続けることは難しいと考えるのが、現状のようです。

若い世代を中心に、フリーランス的な働き方は広がっていく

一方、これからキャリアを蓄積していく若い世代に目を向けると、フリーランス的な働き方はますます広がっていくだろうと専門家は見ています。

キャリア開発に詳しい慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介先生は言います。

「新型コロナの感染拡大をきっかけに一気に在宅勤務を加速させたり、オフィスを小さくする会社がある一方、今でも昔ながらのやり方に固執する会社もある。若い人たち中心に、古いタイプを敬遠する傾向はどんどん強まると見ています。その延長上で、副業兼業含めたフリーランスというものの拡がりは加速されそうです」(高橋先生)

また、神戸大学大学院法学研究科教授の大内伸哉先生は、大学内で学生と接する中で、若い世代の意識の変化を感じているそうです。

「若い学生を見ていると、我々昭和世代とはまったく意識が違う。全くの別人種が出てきていると感じています。彼らは、資本主義とか営利活動というものに距離を置き、それらを冷ややかに見ています。最近SDGs(持続可能な開発目標)という言葉があちこちで聞かれますが、それが単なる流行り言葉ではなく、公共的・非営利的な考え方が根ざしている世代がどんどん出てきている。そしてそういう人たちは、フリーランス的な働き方を選択していく可能性が高い」(大内先生)

SDGs的な価値観にシフトする流れのなか、若い世代の働き方が変化する一方で、今後社会問題化しそうなのが、50代以降の会社員のキャリアだと、専門家は危惧しています。ジャーナリスト、相模女子大学特任教授で、『働かないおじさんが御社をダメにする。ミドル人材活躍のための処方箋』(PHP新書)を上梓した白河桃子先生は、働き方改革の取材をする中で、50代以降のミドル人材が企業内で問題化していることに気付いたと言います。

「日本で長らく続いたメンバーシップ雇用の影響もあり、多くのミドルシニア人材において、主体的に自らのキャリア開発を行う『キャリア自律』ができていない。企業もそれを問題視しており、そういう方々を雇い続ける体力もなく、できれば外に出てほしい、転職するかフリーランスとして活躍してほしいと考えている。ただ、社内スキルに特化している方が多く、マインドセットとしても全然自律できていない方が多いので、そういう方たちに、いきなりフリーランスになれ、といってもそれは厳しいというのが本音のところです」(白河先生)

実際に、企業内で50代向け研修に関わることの多い慶應義塾大学名誉教授の花田光世先生も、「50代の方にキャリア自律の話をしても、まだ今の仕事の延長でしか捉えきれない人が多い」と話します。

「50歳〜55歳あたりの方向けのキャリアデザイン・ワークショップでキャリア自律の話をしてみても、まだ今の仕事の延長でしか自らのキャリアを捉えきれず、本当に変わらなければいけないという発想はなかなか出てこない。雇用延長か定年かを迫られる57、58歳になって初めて、やっぱりなんとかしなければいけないという強い当事者意識が出てくる」(花田先生)

花田先生によると、60歳を目前に定年か雇用延長かを迫られたとき、定年を選ぶ人は「100人中5人くらい」で、ほとんどが雇用延長の道に進むといいます。しかし一方で、東京大学大学院 経済学研究科教授の柳川先生は、ここに構造的なミスマッチがあると指摘しています。

「デジタル化を通じて企業の寿命がものすごく短くなっていく一方、定年延長の世界が出てきているとすると、どうしてもここにミスマッチが生じる。企業には人を雇い続ける体力はないのに、定年延長が制度としてあることで、本来はもうちょっと危機感を持つべき人たちが、キャリア自律を前提とした判断ができなくなりつつあるというのが、構造的な課題だと思っています」(柳川先生)

帝京大学教授で日本テレワーク学会副会長の中西穂高先生は、避けることのできない身体的、精神的な衰えにも言及しています。

「60代、70代まで働くと言うと気力も体力も落ちるもの。これまでしてきた働き方ができなくなる中、ネットを活用するなどして働き方をより省エネ化しながら、50代での知識を70代以降も使えるものなのか、新しい知識をどのように得ていくのか、実際にPCを1時間も打てなくなったらどうするか、現実を早めに捉えることが重要です。」(中西先生)

会社員であってもフリーランスであっても、「変化し続けることが必要」

一つの企業に相互依存し、働いていく時代は終わりました。一方で、フリーランスであっても、全員が生涯現役で働いていくのは厳しいというのが現状です。国のセーフティネットの整備を期待しつつ、自分たちでもできることはあるのでしょうか。

 フリーランス協会のアドバイザリーボードの先生方によると、生涯現役で働くためのポイントは二つあるようです。

生涯現役のためのヒント・1
メインの仕事のを柔軟に変える

白河先生も、コロナきっかけで対面講演の仕事がキャンセルになるなど、仕事内容が大きく変化したといいます。

「キャンセルとなった仕事がある一方、オンライン配信や社外取締役など別の仕事をいただく、変化のある1年でした。このように、重点を置くメインの仕事は変化せざるを得ない。専門性の軸はあっても、収入を得る「やり方」はどんどん変わっていきますし、その速度は非常に速いというのが実感です」(白河先生)

コロナ禍において、アーティストがライブ配信を始めたり、飲食店がテイクアウトにシフトするなど、サービスの提供方法の変更を余儀なくされました。このようなことはコロナに限らず今後も起こりえます。専門性をベースにしつつ、それを社会変化にあわせて展開させていくことは、どんな職種であっても必要だと言えそうです。

生涯現役のためのヒント・2
横のつながりで高め合う

高橋先生は、「同じ専門性を持つもの同士で集まり、各々の経験を共有して勉強していき、互いに刺激し合うことが必要になる」とアドバイスします。

「アートやフードでもそうですが、自分ひとりで本を読んでも、ひとりでたくさんの絵を見ても、ひとりでたくさんのワインを飲んでも、それだけではその道のプロは育たない。これはビジネスの世界でも同じです。経験したことやインプットした知識に対して、「自分はどう思ったか」を、プロ同士がお互いに意見を言い合い、刺激を受けることで新しい回路ができる。そうした経験を通じて、やっとプロのレベルへと上がっていく。バズワードに飛びついて仕事をするだけでは、次の波がきたときに淘汰されてしまう。自分たちの仕事の専門性の地盤となるものを、お互いに高め合う場や仕組みが必要になると思います」(高橋先生)

つまり、組織に組み込まれないフリーランスだからこそ、高め合う仕組みが必要だというわけです。場や時間の制限を超えて、「オンラインで集まる」という選択肢が当たり前になった今、その利点も活かしながら、横社会的なつながりを意識してつくっていくことが大切になりそうですね!


※この記事は、2021年2月12日に開催されたプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の有識者会議「アドバイザリーボードミーティング」でのディスカッションに基づき構成しました。

アドバイザリーボード


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