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「ヤバい」確定申告、どう防ぐ? 法改正にはどう対応? 税理士・税務職員に聞いてみた

2月~3月にかけてフリーランスを悩ませる「確定申告」。
税務職員の疑念を招きそうな「ヤバい」申告をしないためには、どうすればいいのでしょう。
さらに、2022年1月の改正電子帳簿保存法(電帳法)施行に伴い、2年の猶予期間は設けられる見通しとなったものの、電子データの文書はデータのまま保存するよう求められます。
国税庁の担当者や税理士に、確定申告や来年以降の文書管理について、注意すべきポイントを聞いてみました。

※この記事は2021年11月30日にオンラインで開催された「行列のできる税理士相談所!確定申告ビギナーもベテランも」の内容をまとめたものです。

【お話をお聞きした方々】
・国税庁(長内泰祐氏)
2010年4月、国税庁に入庁。財務省主税局での租税条約交渉、長野県内での税務署長としての勤務、コロナ禍に対応した確定申告の企画立案等を担当した後、2021年7月から国税庁課税部課税総括課の課長補佐として電子帳簿保存法の解釈等を担当。
・freee株式会社(尾籠威則氏)
大学卒業後、日本オラクル、外資系アナリティクス企業を経て、2016年1月にfreee株式会社入社。システム導入の知見を活かし、業務改善コンサルティングに従事した後、事業開発にて新規サービス構築に従事。現在は、プロダクトマーケティングマネージャーとしてプロダクト戦略策定及びfreeeの利用率向上に務める。
・税理士法人BlueWorksTax(俣野先生)
1984年5月2日生まれ。公認会計士・税理士。公認会計士試験には2012年に合格、あずさ監査法人に入所。あずさ監査法人では日系上場企業を中心とした監査業務に従事。2017年7月にあずさ監査法人を退職し、同年8月、俣野公認会計士事務所設立。会計コンサルタントとしての活動を行いながら、2018年に公認会計士/税理士Blue Worksグループを設立しグループ代表を務める。日本公認会計士協会東京会の活動にも従事。その他、上場企業の社外監査役も務める。
・宮崎雅大税理士事務所(宮崎先生)
神奈川県川崎市中原区、武蔵小杉駅と元住吉駅の間位の場所で活動しています。ちょっとしたイベント好きで『3月15日あわてて申告しないように、【少しずつ】【ゆるく】帳簿付け』する《ゆるちょぼ》に参加したり、様々なセミナーやワークショップの講師をする機会を通じて、フリーランスの方々の相談を受ける機会が多い税理士です。

預金残高マイナス5万円、高額すぎる経費…税理士が見たヤバい事例

税理士から見て「これはヤバい」と感じる確定申告は、例えばどのような内容でしょうか。
宮﨑雅大税理士は一例として「青色申告の預金残高の項目に『マイナス5万円』など、あり得ない金額が書かれている申告」を挙げます。「マイナスになってしまう理由は、クラウド会計サービスで銀行口座とカードを自動連携しており、口座やカードを家計用や事業用で分けていないという2つが揃っている場合に起こりやすいのですが、こうした数字を見ると、税務職員も『この申告、大丈夫?ちょっと調べなきゃいけないかな』と考える可能性があります。客観的に預金残高が分かる通帳などの記載と、申告書の数字の整合性が取れていることが大事です」

「この事業に必要?」と首をかしげるような経費や、高額すぎる経費もチェックポイントになりがち。
俣野和仁税理士は「事業を一番よく知るのは事業者本人。経費と事業との関連性をきちんと説明できて、社会通念上高額すぎない、妥当な金額であれば、認められる公算は高いでしょう」。また宮﨑税理士は「本人が経費として認められるか、不安を感じる経費は、計上しない方が無難」とアドバイスします。
一方、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの普及とともに、電気代や回線使用料などの家事案分について、使いやすい基準が示されるようになりました。自宅で仕事をする人は、国税庁のウェブサイトにあるQ&Aで確認してみましょう。

納税不要でも申告を。仕事の実績証明になる

今年「副業デビュー」したが、納税が必要なほど収入がなかった人、収入が配偶者控除の範囲内に収まり、納税不要となった人もいるでしょう。こうした場合も、確定申告をするべきでしょうか。
宮﨑税理士は「確定申告は所得があることを証明し、取引先に実績を示すための材料になります。手間かもしれませんが、事業の継続や成長を考えていらっしゃる方は申告した方がいいと思います」。

ちなみにフリーランスが扶養控除を受けられるのは、売り上げから経費と青色申告特別控除の65万円を引いた額が、48万円以下の場合。青色控除を受けるには確定申告が必要ですし、給与所得の「103万円以下」とは異なるので、注意が必要です。
また副業ワーカーの場合、給与分は会社の年末調整で処理済みと思い込み、確定申告では副業収入だけを計上すればいいと考える人もいるかもしれません。しかし日本は、収入が高くなるほど税率が上がる仕組みなので、確定申告で改めて、給与所得と副業収入を合算した納税額を算出する必要があります。

帳簿つけからまるっと? 申告書作成だけ? 税理士には「頼みたい内容」を明確に

実績を積んで事業収入が増えると、法人化した方が納税額が安くなることも。俣野税理士は「一般的に、法人化によって税制メリットが生まれる目安は500~700万円とされます。副業の場合、給与所得と副業収入の合算で考えてください」。
ただ法人化すると、償却資産税の届け出や社会保険の納付、年末調整なども必要になります。「税務以外の手間や、費用負担も含めて判断を」と、宮﨑税理士。

また確定申告や法人化に当たって、税理士を選ぶ時の注意点を聞きました。
俣野税理士は「記帳は自力ですませて申告書の作成だけ依頼するのか、領収書の整理から頼むのか、法人化を相談するのかなど、依頼内容を明確にすることが大事」と強調します。
「密なやり取りが生じるので、何人かと会って相性の合う人を見つけてください。確定申告を依頼する場合、締め切りが近づくにつれて税理士も忙しくなるので、1月中には選任をすませた方がいいでしょう」

データでやり取りした領収書などはデータで保管。法改正のポイント

年明けに改正電子帳簿保存法が施行されると、電子データをわざわざプリントアウトして保存する必要はなくなります。
その半面、データでやり取りされた領収書などは、基本的にデータのまま保存することが求められます。
さらに保存データについては、事務処理規程を作成してそれに沿った処理をするなどの改ざん防止のための措置や、日付・金額・取引先で検索できるように対応する必要が出てきます。

ただ事業者からは、「法改正から施行までの期間が短く、準備が間に合わない」といった声が多く聞かれました。
こうした事情を踏まえ、施行後2年間は、やむを得ない事情がある場合は紙に出力した書類を税務調査の際に提示・提出できるようであれば、検索機能などを気にせずにとにかく電子データを保存しておくことや、紙に出力した書類を保存しておくことも認められるという、経過措置が講じられることとなりました。

とはいえ、電子印鑑やクラウド会計サービスの普及で、最近は請求書や見積書、契約書に至るまでデータでやり取りしている、という人も多いでしょう。
こうした「データ依存度」の高い人については特に、2年間の経過措置が終わった後を見据え、要件に沿った電子データの保存に向けて必要な準備を行い、問題なく実施できるかリハーサルに取り組む等、早めに対応しておくことが望ましいでしょう。

「紙で保管していたものは“データ保存”」が基本

では、具体的には何の電子データを保存すればいいのでしょうか。
国税庁課税部課税総括課の長内泰祐課長補佐は「紙でもらった場合に保管しなければならない領収書などをデータで受け取ったときには、そのデータを保存していただく必要があります」と回答します。

通販サイトやサブスクリプションサービスで、レシートが送付されない場合は、ブラウザ上の領収書や月ごとの支払い額が分かる画面を、PDFなどの形で保存しましょう。
データ保存の場合、パソコンのハードディスクが壊れるなどして、データがすべて消えてしまった…といったトラブルも想定されます。
「意図的でない場合には税務職員が執拗に追及することはないでしょう」(長内補佐)とのことですが、事業者側もバックアップを取るなどの自衛策は講じるべきでしょう。

会計サービスで負担軽減、段階的な導入も有効

「ヤバい」申告を防ぎ、法改正に対応する手段のひとつが、クラウド会計サービスの活用です。
俣野税理士は「安価なサービスも出てきたので、それらを活用することで青色申告の承認を受け、65万円の税額控除を受けるのがお勧め」と話します。サービスを利用すれば、改ざん防止、検索機能など改正法の条件も、ほぼクリアできると言っていいでしょう。

例えば会計サービス「Freee」の場合、銀行口座やクレジットカードを連携させれば、明細が自動的に取り込まれるので、記帳のモレやミスを防ぐことができます。
また、同期した口座の残高と会計ソフトに登録した残高の差分をすぐに確認できるため「預金残高マイナス」といった矛盾も防げます。「レシートもスマホで撮影するだけで記帳されるので、確定申告の負担が大幅に軽減されます」と、同社の尾籠威則氏。

ただこの時、家計と事業の口座が同じだと、家計の取引もすべて記載され、使いづらくなってしまいます。
「預金通帳と帳簿のずれも多くの場合、家計と事業の費用を混同することが原因なので、会計サービス導入の有無に関わらず、口座は分けたほうが、帳簿付け作業量が減り、記帳ミスの減少にもつながります」(宮﨑税理士)

また宮﨑税理士は「最初から一気に、電子データへ移行する必要はありません」とも言います。
「紙のレシートや領収書が大量にある方は、紙で保存するよりもデータ化する作業時間の方が増える場合があり、結果として、手間がかかってしまうことも想定されます。
法改正で電子データ保管が必須になった部分だけ会計サービスを利用し、紙の書類は従来通り紙のまま保管してもいい。作業を優先するか電子化を優先するか、秤にかけて決めてください」。

もっと知りたい方のために以下に、参考情報をまとめました。ぜひご活用ください。

〇国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/
▼電子帳簿保存法関係
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm
▼Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=OBEmmleCTwk

freee株式会社
▼freee会計 電子帳簿保存法改正 完全対応
https://www.freee.co.jp/houjin/electronic-book/
▼freee電子申告開始ナビ
https://www.freee.co.jp/kakuteishinkoku/e-tax/start/

税理士法人BlueWorksTax
▼フリーランス協会 会員優待
https://www.freelance-jp.org/benefits#b160

宮崎雅大税理士事務所
▼確定申告・決算へ向けてゆるく帳簿を付ける会『ゆるちょぼ』毎月開催中!
Facebookグループ:https://www.facebook.com/groups/590570761854109

(著者プロフィール)
有馬知子(ありま・ともこ)
フリージャーナリスト。共同通信社を経て独立。取材テーマはひきこもり、児童虐待、性暴力被害や労働問題、多様な働き方など。
HP: https://note.com/tomoko_arima/

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