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『ヤフーの1on1』編集者が語る  フリーランスこそ『聞く』ことが必要

1on1が正しく機能すれば職場のメンタルダウンは減る

「1on1ミーティング」(以下1on1)は、企業のコミュニケーション施策として、広く知られるようになりました。

上司と部下が週一回、あるいは月一回というように定期的に対話をするのが1on1ですが、通常の「業務報告」や、「目標管理制度」の一環としての「面談」とは異なり、「部下の話を聞く場」である、という点に大きな特徴があります。

上司が部下の話を聞く。ただそれだけのことが産業界で注目を集めているのは、その単純なことが職場の中で行われていなかったからです。

もちろん対話はありますが、多くの場合、その実情は上から下へメッセージを伝えること。逆は、(職場のカルチャーにもよりますが)それほど多くはない。

これは私の主観であり、極論と見えるかもしれませんが、下から上へとメッセージを伝えることができる慣習があるのであれば、企業にこれほどメンタルダウンの事例が増えることはないのではないでしょうか。

職場での対話、それも部下が上司に忌憚なくものが言える場があることが、働く人にプラスになるはず、と私は確信します。

2020年11月25日に刊行された『1on1ミーティング』(本間浩輔、吉澤幸太著。ダイヤモンド社)に、私は編集協力として参画しました。2017年に刊行された『ヤフーの1on1』に続く第2弾であり、1on1の基本的な考え方や目的・効用、導入企業の事例、背景理論としてのカウンセリング、コーチング、組織開発などの専門家による解説など、1on1を多角的に捉える内容です。

1on1は組織で働く人のための手法である、と考えるなら、フリーランスとして働くみなさまには、一見、無縁なものと感じられるかもしれません。

しかし、本質的には無関係ではない、と私は考えます。

それは「対話」の持つ効用――励ましを受けること、気づきを得ること、あるいは単に愚痴をこぼして下がった気持ちに区切りをつけること――は、すべての人にプラスに働くと考えるからです。

「聞くことの不全」が多くの組織に悩ましい状況を生み出している

もちろん、その「対話」は、仕事関係で立場が「上」の相手とでなくても構わないでしょう。

仲間や友人、あるいは家族に、取り組んでいる仕事の現状を話してみる。仕事を通して感じていることを伝える。そして次の仕事、その先のうっすらとしたビジョンを口にする。

それに対する相手の言葉は、必ずしも明確な解答であるとは限りませんし、納得感のあるコメントではないかもしれない。それでも、相手の一言によって、気づかなかった自分の本心や、実はすぐ先にあった正しい解決策を見出すことはあります。これまでを振り返れば、どなたにでもそういう経験はあるのではないでしょうか。

なんだか、ごく当たり前のことを言っているだけのような気もしますが、一人で仕事をしていると、ちょっとしたことで追い込まれる気分になることはあるものです。私もフリーランスなので、日々、そんな経験を繰り返していますので、「対話」の効用は身にしみます。

そんな「対話」をするにあたって、語弊があるかもしれませんが、「相手を選ぶ」必要はあるかもしれません。望ましいのは「きちんと聞いてくれる人」と対話をすることです。

1on1や人材育成をテーマにする記事コンテンツを作っている関連で、私が今注目しているのは、「聞く」ことです。

2020年11月4日に『マインドフル・リスニング』(ダイヤモンド社)という本が刊行されました。「聞く」をテーマにしたハーバード・ビジネス・レビューの論文をまとめたコンパクトな本です。

ご参考までに収載されている11本の論文のタイトルを列記します。

1・聞き上手になるために何をすべきか (2016)
2・あなたが人の話を聞けない理由 (2014)
3・人の話を聞く時の二つの心構え (1957)
4・共感をもって話を聞く三つのステップ (2014)
5・優れたリーダーになる秘訣は、「いま、ここにいる」ことである (2017)
6・相手の心と口を開かせる聞き方とは (2015)
7・相手の考えを変えたければ、自分が話すより、まず聞こう (2018)
8・感情的にこじれた会話を元に戻す方法 (2016)
9・部下の話に耳を傾けるだけで、自発的な改善が促される (2018)
10・悩める同僚からの相談が殺到した時の対処法 (2016)
11・自分を責める心の声と折り合いをつける (2015)

こうやってみると、いわゆる自己啓発本のようなタイトルが並びますが、それぞれしっかりした調査研究を背景としたエビデンスを伴った論考です。

もっとも古い論文は1957年のもので、「聞く」というのが古典的命題であることを示唆しています。

そして注目すべきは、10本の初出が2010年代に集中していること。つまり、「聞く」は米国企業のマネジメントにとっても今日的な問題であり、「聞くことの不全」が多くの組織に悩ましい状況を生み出していることが感じ取れます。

「9・部下の話に耳を傾けるだけで、自発的な改善が促される」などは、そのまま1on1の効用を示すものです。

これらが指し示すのは、「聞くこと」は私たちにとって、ごく当たり前の行為ですが、「よく聞くこと」「しっかり聞くこと」は必ずしも当たり前にできることではない、ということかもしれません。

「1on1でもっとも大切なのは、相手と向き合う際の姿勢である」

2017年に刊行された『ヤフーの1on1』以降、同テーマの書籍が多く刊行されています。1on1をプログラム化した研修も定番となりました。

しかし、著者たちと私は、そうした状況に少し危惧を感じています。果たして1on1を「技術」として伝えるのが正しいことなのか、という疑問が、その根底にあります。

「話すこと」「書くこと」はメソッドを伝えることができ、だからこそ関連書籍も多く、有益な研修も少なくありません。

 ただ、同じコミュニケーションの一要素でありながら、「聞く」は少し違います。

『1on1ミーティング』の二人の著者とずっと話してきたのは、「1on1のやり方を書くのはやめよう」ということでした。

もちろん、コーチングなどに関する基本的なスキルについては触れているのですが、how toは書いていません。それよりもっと大事なことがある、と考えるからです。簡単に言うなら「聞く技術」ではなく、「相手と向き合う姿勢・スタンス」。それこそが実りある対話につながるカギだと思いますし、それがそのまま「聞く」ことの本質と重なるのではないか、と思います。

『「対話」をするにあたって、「相手を選ぶ」必要はあるかもしれません』と前に書きました。お伝えしたかったのは、その裏返しで、自分が「聞く」立場になったときには、「よく聞くこと」を心がけたい、ということです。

もちろん、具体的なアドバイスを求められるような「対話」もあるでしょう。それには真摯に答えるべきだと思いますが、それより手前の、まだ課題が明確でなくモヤモヤした状態での「対話」も多いはず。

それに対しては、答えを示そうと無理をするのではなく、まず「聞く」。多くの場合、実は解答は相手の中に潜んでいるものだからです。

相手と向き合う際の姿勢によって、聞き方は変わります。そしてそのことは相手に伝わり、より深い一言が生まれる可能性がある。それが、よき「対話」なのではないでしょうか。

間杉俊彦
1961年 東京都生まれ。1986年 早稲田大学第一文学部文芸専修卒業、ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属され、以後、記者として流通、家電、化学・医薬品、運輸サービスなどの各業界を担当。2000年 週刊ダイヤモンド副編集長、2006年 人材開発編集部副部長を経て、ライターとなる。著書に『だから若手が辞めていく』(ダイヤモンド社刊)。

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