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インボイス制度導入目前!専門家が語る「個人事業主が法人化するメリット・デメリット」

多くのフリーランスが、一度は考えたことがある個人事業主からの「法人化」。

節税や助成金面などでどのようなメリットがあり、一方で法人化することでのデメリットや、法人化のフロー、そしてまもなくスタートする『インボイス制度」による影響の有無など、様々な疑問が浮かびます。

「法人化」を検討しているフリーランスが知っておきたい『法人化のメリット・デメリット』とは? その答えを探るべく、2021年6月2日に開催されたウェビナーイベント「法人化のメリット・デメリット全て教えます!」(主催・anew)を取材しました!

タイミング次第でメリット最大化!!法人化の目安は年収何万円から?

まずはじめに、自身も個人事業主から法人化を経験し、これまで数多くの方の企業支援を手掛けてきた「行政書士法人GOAL」代表の石下貴大氏に、法人化のメリット・デメリット、設立フロー、株式会社・合同会社・社団法人・NPO法人の違いや、インボイス制度など知っておくべき情報について概要を解説していただきました。あくまで参考としての概要の説明なので、節税に関する相談は税理士さんにご相談ください。

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自身も個人事業主から法人化を経験し、これまで数多くの方の企業支援を手掛けてきたという「行政書士法人GOAL」代表の石下貴大さん。法人化のメリットとして、まず「節税効果」を挙げます。

図版)フリーランスから法人化のメリット・デメリット

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(出典:行政書士法人 GOAL ウェビナー資料)

たとえば事業年度を一つでも差が出ます。個人事業主の場合、年度は1月から12月までと定められていますが、法人の場合は決算月を自身で決めることができます。

7月に会社を作る場合、個人事業主同様、1年目は7月から12月までの5カ月で年度を締めて、翌年は1月から12月までにしてもいいですし、7月から翌年の6月までの12カ月という形で事業年度にすることも可能です。

ここでポイントとなるのが、「決算月のタイミング」(石下さん)。
個人事業主の場合、12月に大きな売り上げが出た場合、経費等での節税対策が全くできません。そうすると、最もお金があるタイミングで税金が確定してしまい、高額な納税が発生します。
また、本業で忙しい時期が決算期と重なることを避けるのも重要なポイントです。このように、決算期を自由に決められるという点は法人のメリットの一つです。

また、「経費」でも、フリーランスと法人では大きな違いがあるそうです。

法人であれば、役員報酬を経費として計上することが認められていますが、個人事業主の場合は原則として代表者の給与を経費にすることはできません。仮に1000万円の売り上げがあり、『法人の役員報酬』と『個人事業主の代表者への給与』が同じ額であって場合、個人事業主のほうが、所得税・住民税・個人事業税など納税する税金負担が大きくなります。

また、損失の繰越控除についても、個人事業主の場合は翌年以降3年間の黒字金額から差し引くことができますが、法人の場合はさらに長く翌年以降9年間という期間で認められています。

「コロナ禍で赤字化してしまっても、今後黒字化するときまで控除を繰り越せるのは大きなメリットであると言えます。交際費の取り扱いについても、個人事業主だと『業務遂行に必要と認められれば可能』となっている一方で、法人の場合は原則800万まで損金参入という形になり、それぞれ扱いが異なります」(石下さん)

また、社会保障にも差が出ます。社会保険は、個人事業主なら「原則5名までは自由加入」である一方で、法人の場合は社長一人のみでも加入が義務付けられています。これにより、将来受け取ることができる年金額にも違いがあると言います。

ちなみに、気になるのが、法人化を判断するタイミング。諸説ありますが、節税効果が見えてくるラインは「売上高700万円以上」だそうです。これを目安にして、検討するのも一つの方法かもしれません。

フリーランスが法人化するときのデメリットは手続きの負担が大きいことだと言います。

「基本的にフリーランスの場合、開業時に税務署に開業届を提出するのみですが、法人化する場合には『定款作成』と『登記』が必ず必要になります。加えて、「個人事業の廃業手続き」の届け出も必要になります。
また、法人の場合には設立時に資本金とは別で定款認証費と法務局への登録免許税の納税で20万2000円が発生します。手続きや会社設立にかかる費用負担が大きいという点が大きな違いです」(石下さん)

法人化で差がつく「対外的信用」

さて、法人化のメリットとしてよく言われる「対外的信用」には、実際差があるのでしょうか?

法人と比べれば個人事業主の対外的信用は「残念ながら弱い傾向にある」と石下さんは指摘します。

「昔に比べると情勢も変化してきている一方で、対大企業では個人事業では契約を結ぶことが難しいというケースもあります。実際に『個人では契約できないので、一人社長という形で法人化をしたい』という相談も多いですね」(石下さん)

では、いざ法人化!となると、考えなければならないのが「法人格」です。

法人格で最もポピュラーなのは「株式会社」ですが、他にも合同会社(LLC)、一般社団法人などさまざまあります。石下さんも、それぞれの違いについてよく尋ねられるそう。個人事業主から法人化する場合は、図表にある株式会社か合同会社のいずれかを検討することが多いと思われます。違いをまとめたのがこの図です。

(図版)株式会社と合同会社の違い

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(出典:行政書士法人 GOAL ウェビナー資料)

「意思決定や役員の任期、決算公告の要否など様々な違いがあります。これらを理解し、会社の特徴を加味した上で、最適な法人格を選択する必要があります」(石下さん)

また、会社設立時の注意点も気を付けたいルールがいくつかあります。

「たとえば、同一ビル内で同一商号、同じ会社名はNGですし、すでに商標権登録済で使用権の停止を求められるケースもあります。また、法律的に使えない記号や言葉も存在します。心配なときは、行政書士を含む法律の専門家に相談してみるのも良いと思います」(石下さん)

取引先が減る!?「インボイス制度」の影響は?

さて、2023年10月から開始が予定されて、フリーランスに影響があると言われている「インボイス制度」※。果たしてその影響の度合いは?

※参考  国税庁ホームページ「インボイス制度の概要」

石下さんによると、「取引先が免税事業者でなく課税事業者に仕事を頼むようになってしまうことも出てくる」とのこと。それは大変!なぜそんなことが起こってしまうのでしょうか。

「インボイス制度のスタートによって、売上高1000万円以下の事業者であっても、『適格請求書』がないと仕入れ税額控除ができなくなります。『適格請求書』は課税事業者のみが発行することができるため、免税事業者のままでいると『適格請求書』を発行することができず、控除の計算に使えないという事態になります。取引先としても、税金を控除することができなくなるため、免税業者でなく課税事業者に仕事を頼むようになってしまいます」(石下さん)

インボイス制度は2023年10月からスタートしますが、その時点で免税事業者のままだと取引が減少するというケースも想定されます。

「そこで知っておきたいのが、『会社設立後、資本金が1,000万未満の会社であれば2期は消費税が免税される』という点です。2021年10月までに法人化をすれば、そこから2期分は消費税の免税事業者、インボイス制度が始まった2023年以降は課税事業者という形を取ることができ、一番長く免税のメリットを享受できます」(石下氏)

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(出典:行政書士法人 GOAL ウェビナー資料)

また、他にも法人化のメリットには、国や自治体からの補助金や助成金を受けたり、金融機関等からの融資を受けたりすることが可能になることもあります。

経験者が語る 「法人化」メリット・デメリットのリアル

続くコーナーでは、主催である合同会社anew/山崎さんがファシリテーターとなり、「法人化の赤裸々トークセッション」を開催。
法人化経験者である株式会社FLUED CEO/松永 創さん、フリーランス協会 事務局長/中山綾子をゲストに、法人化の経緯、核となる事業内容の決め方、実際に法人化してみて感じたメリット・デメリットについて伺いました。

まず一つ目のテーマは、「法人化のきっかけと狙い」。

前職で副業として個人事業でやっていた業務から独立し、事業としてやっていけるという見込みが立って初めて法人化したという松永さん。法人として事業内容を決める際には、「前職ではBtoB向け、BtoC向けの両方のサービスを展開していたのですが、BtoB向けに絞った方が他と差別化ができそうだと考え、そこに絞りました」(松永さん)。

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FLUED CEO/松永 創さん

 一方、松永さん同様、会社員時代からやっていた業務で独立し、個人事業として活動していた中山でしたが、法人化の経緯は大きく異なりました。
 イベント企画の仕事をしていた中山は、とある大きなイベントで、協賛を募っていくにあたり、ある企業から「個人事業主との取引は難しい」と言われてしまいます。今後は大型な案件を手がけていきたいというビジョンも持っていたため、そこで奮起し、法人化を決意したそうです。

次は「法人化してみて良かった点・苦労した点」。

松永さんの「良かった点」は、自分のリソースを1カ所にそそぐことができるようになったこと。また、株式会社化したことで社会からの信頼性も増えたと感じたそうです。「売り上げ面で見ても、会社設立後に大きく成長することができました」(松永さん)。
一方、苦労したのは資金繰り。「我々の事業体では、マーケティングを運用する人件費や広告費がどうしてもお客様からの入金より前に発生するため、計画性の高い資金繰りが必要であると感じています」(松永さん)
 こうした悩みから生じたサービスに「クラウドファクタリング」があります。これは、手持ちの「入金待ちの請求書」(売掛金)を早期現金化するというものです。当座の運転資金を調達する「借りない資金調達」ができるようになってきたのは、法人化を検討する企業の安心材料になってきているようです。

中山は「法人化したことで、大手の企業様との取引で、安心して発注いただけるようになりました」と良かった点を挙げます。他方、苦労した点は手続きの煩雑さでした。

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フリーランス協会・事務局長 中山綾子

「会社設立時には大手クラウド会計システム会社が提供している会社設立サービスを活用したのですが、公証役場での設立手続きや、税務署、法務局への手続きは全て自分で行いました。各拠点がそれぞれ別の場所にあり、移動だけでも大変でしたね」(中山)
フリーランス時代は確定申告を何度も経験していたものの、法人税の仕組みなど税制には違いが多く、挫折。顧問税理士に依頼して申告するようになったようです。

このように、「法人化」は一長一短です。

起業・会社設立の準備をお考えの方は、自身の事業が法人化によってどれだけの影響が生じるのか、一度専門家に相談してみるのもよいかもしれません。2023年に迫るインボイス制度の開始を前に、メリット・デメリットを理解し、実態と照らし合わせ、法人化の検討を行いましょう。

ライター:山本エミ
県庁臨時職員、秘書専門サイト運営・推進、役員アシスタントなどを経て、
住宅系情報雑誌の編集を経験後、2017年長野県に移住。
現在はフリーランスとして、住宅・移住・マーケティング関連のライティングを行っている。
HP:ちこり舎

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