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長く求められるフリーランスは、「自分の引き出し」を発信している

自分のキャリアは自分でデザインするのがフリーランス。では人生100年時代に求められる人材であり続けるために「自分ならではの引き出し」をどう広げたらいいのでしょうか?

前回に続き慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授で、『自分らしいキャリアのつくり方』『キャリアショック』などの著書でも知られる高橋俊介先生にお話を伺いました。高橋先生はアドバイザリーボードとして私たちフリーランス協会の活動にもかかわってくださっています。

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高橋 俊介氏
慶應義塾大学大学院政策 メディア研究科特任教授

東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了。マッキンゼーアンドカンパニーを経て、ワイアット社(現在Willis Towers Watson)に入社、1993年代表取締役社長に就任。その後独立し、ピープルファクターコンサルティング設立。2000年5月より2010年3月まで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(CRL)研究員。2011年9月より現職。個人主導のキャリア開発や組織の人材育成の研究・コンサルティングに従事。主な著書に『キャリアショック』『自分らしいキャリアの作り方』『プロフェッショナルの働き方』『21世紀のキャリア論』など。

自分ならではの問題意識を大切に

求められる人材であり続けるためにアウトプットだけではなくインプットを意識することの重要性は前回お伝えしたとおりです。ではインプットするときに何をインプットすればいいのか?

このときに必要なのが「自分ならではの問題意識」です。

たとえばいま、メディアで「ジョブ型雇用」という言葉を見かける機会が増えましたよね。あなたが人事系のフリーランスだったとして、「ジョブ型雇用って日本企業にとって本当に意味があるんだろうか?」「ジョブ型雇用を導入したらニューノーマルに対応したことになるんだろうか?」といった疑問を持ったとします。

これが大事なんです。問いがわきあがってきたら、その問題意識を持って本を読んだり人の話を聞きに行ったりすればいいわけです。

「自論」を発信してみよう

そして問題意識を持って学んでいると、自分のなかに「自論」が生まれてきます。「もっとこういうことが大事なのではないか」「こういうことが求められるのではないか」--こうした自論をどんどん周囲に発信してみましょう。

勉強しているだけでは誰も気づかないので、自分の問題意識と勉強内容をぶつけて発信していくと、「そういうことに関心があるのであれば、この仕事をやってみては?」と声をかけられることにつながっていきます。

私が30代40代だったころは「発信」と言っても本を書くしか方法がなかったのですが、今はSNSがあるので発信はしやすくなっているかもしれません。

ただ、私がここで言っている「発信」はパッと5秒で答えるようなものではなく、もう少しまとまった「自論」を意味しています。字数で言うと400字~800字くらいでしょうか。と言っても、難しく考える必要はありません。自分の考えや感じたことをまとめるだけで十分です。

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「インプット」と「アウトプット」--この2つを常にセットで考える

ひとつのテーマで仕事できるのはせいぜい10年くらい。だいたい5年ほどたったときに次のテーマで発信しはじめて、当初やっていた仕事と組み合わせて自分ならではのスタイルを10~20年かけてつくっていく--こんな視点を持ってみてはどうでしょうか。

私の場合だと、もともとは経営人事をテーマにさまざまな仕事をしていました。そこからキャリア自律がテーマに加わり、最近ではリベラル・アーツの講座をいくつか担当しています。昔のテーマがゼロになるわけじゃないんですよね。新しいテーマがどんどん加わっていくんです。

テーマによってはマーケットのニーズが20年にわたり続くものもあるでしょうし、5年ほどで陳腐化してしまうものもあるでしょう。それは業界や分野にもよると思うのですが、いずれにしても大切なことは新しいテーマを意識的に自分の中に取り込んでいくことです。

リベラル・アーツを学び、自論に「深み」を

新しいテーマを追うだけでなく、実はフリーランスにもリベラル・アーツ(一般教養)が必要だと思います。リベラル・アーツは近年、大学教育の場を中心に注目が集まっている領域です。

フリーランスが求められる人材であり続けるためにはその人ならではの豊富な「引き出し」を持つことが大事です。哲学、歴史、科学など興味のあるテーマをあらためて学びなおしてみると新たな気づきにつながるし、自分の自論に深みが加わり、引き出しも増えます。ぜひ意識してみてくださいね。

どんなときも「ミニ布石」を打ち続けよう

ここまで問題意識を持って学ぶこと、自論を発信することの大切さをお話ししてきました。発信って日々の「ミニ布石」なんですよね。ですからどんなときも意識的に行うことが重要です。

日々の会話で「いま実はこういうことに興味があって」「こういうことをやっていて」と何気なく話したことが相手の記憶に残っていて仕事につながる場合があります。

組織・人事コンサルティングの会社で社長をやっていたときに、コンサルの大先輩から「クライアントにしたい会社を分析して発信していたら別の会社の思いがけない人からスッと話がきて、それが仕事になる、そういうものだよ」と聞かされたのを覚えています。

ある分野の仕事を獲得しようとして結果的に予想もしなかった仕事にいきつくことがある--おもしろいですよね。たとえばポスト・イットってもともとは「強度が優れている接着剤」を開発しようとしていたそうですよ。でも結果的に発見できたのは「粘性は保持するものの、『はがすことが可能な性質』を持ち合わせたもの」だった。それが商品として大ヒットした話は有名です。

ターゲットを決めて計画的にアウトプットしてもいいけれど、なかなか思い通りに行かないことが多いものです。だけど、自分から主体的にアウトプットする、布石を打つのが大事なんですよね。意外な反応が仕事に結びつくことが多いから。

主体的に攻める。じゃないと偶然は引き寄せられない。主体的・能動的でありながら、同時に柔軟であることも意識しながらフリーランスとしてキャリアを切り拓いていっていただきたいですね。

【取材・文】
田中美和/一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事/株式会社Waris共同代表/フリーランス女性と企業との仕事のマッチングなどを通じて多様な生き方・働き方を創る活動をしています。2歳児ママ。Twitter: @Miwa_Tanaka57

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