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公認会計士・金融機関を経て放送作家へ。「エンタメ×金融」を強みに”唯一無二”のキャリアを切り拓く

フリーランス・パラレルキャリアの多様な暮らし・働き方を、取材を通してご紹介する「働き方の挑戦者たち」。

今回は、公認会計士として監査法人や金融機関で約10年のキャリアを積み重ねた後、幼いころからの夢であった放送作家へ転身を果たした手塚雅彦(筆名:手塚小寒)さんにお話を伺いました。

放送作家を目指して入った小山薫堂事務所で6年の経験を積み、2022年の4月には独立された手塚さん。「エンタメ×金融」のかけ合わせを強みに、唯一無二のキャリアを築く手塚さんのストーリーに迫ります。

オンラインでの取材に応じてくれた手塚さん

“興味がなかった”公認会計士の資格

公認会計士といえば、弁護士や医師と並ぶ日本の三大国家資格として知られる難関資格。ただ手塚さんが公認会計士になるための勉強を始めたのは、ごく軽い気持ちからだったのだといいます。

「大学1年生のとき、高校時代からの友人に『一緒にやろうぜ』と誘われて。僕は、公認会計士がどういう仕事かもほぼ知らなかったんです。友人が資格をとるなら、自分がとらないのは何か嫌だな、くらいの気持ちでした」

何をやるかも知らないまま、申し込んだ予備校。とりあえず通ってはいたものの、1年ほどはまったく勉強していなかったそう。

一方で、もともとクリエイティブなことに興味があったという手塚さん。漠然と、将来はテレビやエンタメ業界に身を置きたい気持ちがあり、大学でも映像コンテンツや広告、デジタル音楽など、クリエイティブ関連の授業を多く履修していました。

「子どものころから、ちょっとミーハーなところがあって。テレビに出ている俳優さんや芸人さんにも興味があったし、中学生くらいのころには放送作家という職業も知っていました。“作り手側”に対する興味や憧れは、ずっと頭の片隅にあったような感じでしたね」

公認会計士の予備校通いも続けながら、大学ではクリエイティブな授業をとりつつ、なんとなくその空気感に身を置いていることに満足して過ごす日々。

そんななか、周囲の学生は徐々に就職活動の準備をはじめます。しかし、手塚さんはご両親が自営業ということもあり、会社に入って働く既定路線の就職活動には、テレビ業界も含めてほとんど興味が向きませんでした。

「就活しないなら、資格をとるしかないな」と、“消去法で”資格をとることを決意し、公認会計士の勉強に力を入れ始めます。そして卒業した年の秋、無事に合格。晴れて公認会計士としてのキャリアを歩み始めるのでした。

“感情”と“仕事のやりがい”は一致するのか

放送作家に転身するまで、公認会計士として4つの会社で働いてきた手塚さん。試験の合格後、まず入った監査法人では5年ほど働きました。

「それまでアルバイト経験もなかったので、当時は仕事内容云々というより、『働く』こと自体に気分が高揚していたような気がします。大学で課題をこなしていたように、目の前の仕事をタスクとしてこなすような感覚だったかもしれません」

しかし27歳の頃、手塚さん曰く“不純な動機”から転職を考え始めるように。

「やっぱり僕は、ミーハー気質や子どもっぽい部分がベースにあって。既定路線から外れることで注目されたい、と思ったんですね。監査法人に入ったけれど、早々と転職することで『なんかすごい』と思わせたいとか……。あとは単純に、別の環境でもっとステップアップしたい、とも思いました」

そこで外資系の投資銀行に移ったものの、肌に合わず、3か月で退職。

「当時読んでいた、スタンフォードの教授が書いた本に、『続けるのも勇気だが、辞めるにはもっと勇気が必要だ』ということが書いてあって。文句を言っている企業からお給料をもらう自分も格好悪いなと思って、さっさと辞めちゃいましたね」

3社目は外資の金融機関に就職し、財務関連の業務を担当。生活は安定しているものの、毎日が同じことの繰り返しで、「自分にはもう少し、人の感情に触れられて、変化のある仕事がいいな」という気持ちが芽生えたそうです。

29歳のとき、4社目に選んだのは中小企業向けの事業再生コンサル会社でした。主な仕事内容は業績の傾いた中小企業にアドバイザーとして入り、その企業を立て直していくこと。ここで手塚さんは、それまでとは違う、中小企業という会社のサイズに対してもおもしろさを感じ始めます。

「今まで自分が身を置いていたグローバル企業とは全然違って。お客さんのタイプも、その会社自体も、自分がそれまで接したことのないような雰囲気の人が多く、いい意味でカルチャーショックもありました。スマートじゃなくても、パッション(情熱)があるというか」

「世の中を改めて、ちゃんと見られた気がする」と振り返る手塚さん。ただ一方で、そこで4年ほど働くうちに、「仕事はおもしろいけれど、この会社で働き続けた先にある自分の将来像は決まりきっている」ことに疑問を持つようになり、その先のキャリアについて改めて見つめ直します。

その背景にはもうひとつ、監査法人時代から抱えていた“根本的な違和感”がありました。

「新卒時代からずっと、“自分の感情”と“仕事のやりがい”がまったく一致していなくて。周りは皆、仕事の内容に興味を持っているし、そのおもしろさをわかっている。だから規模の大きいプロジェクトがあると、心底おもしろそうだし、やりがいを感じているのがわかるんです。でも僕は金融業界に10年身をおいて一度も、そう思ったことがなかった」

大きなプロジェクトをやり遂げれば、業務をこなしてようやく終わった達成感は感じるけれど、おもしろくてわくわくすることはない。そう考えた手塚さんは、「このままいくと、本当におもしろがっている人たちとの差はどんどん開いていくな」と予感したのだそう。

このまま金融業界で働き続けていくのは、自分には厳しいかもしれない。じゃあ自分が、本当におもしろいと思うことは何なのか。そこで頭に浮かんだのが、幼いころから憧れを持っていた放送作家という職業でした。

無職に近い1年を経て、憧れの作家事務所に弟子入り

退職後は人づてに放送作家を紹介してもらい、ネタ出しの手伝いをしたり、制作会社の企画書提出の手伝いをしたり。本人曰く「ちらほら仕事はしていたけれど、ほぼ無職に近い1年」を過ごしたのだとか。

そんななか、友人に誘われた食事会で出会った人が放送作家で脚本家の小山薫堂さんと仕事をしていたご縁で、小山薫堂事務所への弟子入りを果たします。

まずは小山さんが担当する企業や自治体のアドバイザーの手伝いを中心に、アイデア出しや、クライアントとの打ち合わせ参加などからスタート。その後、社内での番組制作なども経て、徐々に放送作家としての道のりを歩み始めます。

小山薫堂事務所時代に訪れた海外のロケ先にて

「放送業界にも、またいろんな人がいて。エンタメ業界の方は細やかな気配りのできる人が多くて、僕は1から教えていただきました。いい意味で、それまでの自分のゆるさや甘さを叩き直してもらったなと思います」

その後は日本テレビの「ZIP!」や、テレビ東京の「旅スルおつかれ様〜ハーフタイムツアーズ」など数々の番組に携わり、放送作家として事務所で6年間の日々を積み重ねていきます。

「仕事の過程は大変だったり、疲れたなと思うことはありましたが、成果物として番組が放送されると、『楽しかったな』という達成感がありました。“自分の感情”と“仕事のやりがい”が一致する仕事は、初めてでした」

「エンタメ×金融」。掛け算が生み出す独自性

放送作家として6年間の経験を積んだ手塚さんは、2022年の4月には小山薫堂事務所を卒業し、独立します。

「6年間、エンタメの現場を経験させていただいて。一方で財務や金融関係からは離れていました。でも40歳を迎える2年くらい前から、その両者をミックスできるのは、自分しかいないのかな、と思い始めていたんです」

また飛ぶように過ぎた6年間を経て、「このままだと気づいたら50歳になる」という気持ちもあったそう。「収入面も無視できなくなる年齢でもあるし、今後は放送作家もやりつつ、それをベースにビジネスのポートフォリオを増やす必要があると思った」と語ります。

これからは「財務・金融」×「エンタメ」をかけ合わせた仕事もやっていきたいと思いを固め、40歳を機に独立。現在の手塚さんは放送作家としての仕事も続けつつ、新たなフィールドの仕事も開拓中だとか。

「すでに、あるVR会社のアドバイザーとして参画していて。その会社に来た案件のプロデュースを手伝ったり、または作家的な視点で企画の打ち出し方や、ブランディングの仕方を考えたり。あわせて、財務数値を見たり、財務計画を構築したりもします。そうやって財務面もみながら事業計画をトータルで一緒に考えていくところは、たぶん、僕にしかできないのかなと」

最後に自身のキャリアを振り返ってどう思うか尋ねると、「僕、“転職”と“転社”は違うと思ってて。一般的に言われる“転職”は、職業ではなく会社を変える“転社”なんだと思います」と手塚さん。

「“転社”は、同じ職業の中でステップアップ。その職種の中での人脈や仕事のノウハウを蓄積できたり、給料アップを目指せるのがメリットですよね。一方で“転職”は、いろんな仕事を楽しめるのがメリットだけれど、1個1個は、それだけをやってきたその道のプロには敵わない。
でもそこで、自分の知識や経験をどう組み合わせて、見せていくか。そこがうまくできれば、おもしろい経歴になるのかなと思います」

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【インタビュアー後記】
インタビュー中、「ミーハーな自分は、次々に環境を変えて回り道してきた」とおっしゃっていた手塚さん。しかしたどり着いた先では、唯一無二のキャリアを武器に、新たな仕事を切り拓いていかれているのを感じます。

時にはこれまでのキャリアから自由になり、自分の感情に正直な一歩を踏み出してみる。その先には、自分だけの“掛け算”が待っているのかもしれません。

<プロフィール>
放送作家・公認会計士:手塚雅彦(筆名:手塚小寒)(てづか まさひこ/てづか おさむ)
慶應義塾大学卒業後、Ernst&Young、外資系金融機関、コンサルティング会社にて財務DD、企業価値算定、資金調達や事業再生業務に従事。その後、放送作家へ転身。放送作家で脚本家の小山薫堂氏が率いる事務所N35にて研鑽を積む。2022年4月に独立し、テレビやラジオ番組の企画構成のほか、企業の財務および事業コンサルなど幅広く活動中。「エンタメ」と「財務・金融」の掛け合わせによるサービスを得意としている。
これまでの主な担当番組は、ZIP!(日テレ)、ハーフタイムツアーズ(テレ東)、サウナをめでたい(BS朝日)、KIBO宇宙放送局(スカパー)、知りたいSDGs(BSフジ)、モトカレマニア(フジテレビ、脚本協力)、お金のまなびば(YouTube)、FOR OUR EARTH(J-WAVE)など。
Mail: tezuka@cyclo-inc.com

ライター:渡邉雅子
大学卒業後PR会社勤務、フィジー留学を経て豪州ワーホリ中にライターに。帰国後ITベンチャー等々を経て、2014年に独立。2016年より福岡在住。現在は糸島界隈を拠点にフリーライターとして活動。日常、まち、食、育児、多様性。エッセイ、小説風なども対応。海辺と絵本とおいしい野菜が好き。
Web: https://masakowatanabe.themedia.jp/


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