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年末年始に一気見!海外ドラマコラムニストがおすすめする「2022年の見るべき4作品」

2022年も残すところあとわずか。時間に少し余裕のある年末年始こそ、ずっと気になっている海外ドラマを一気見するのはいかがでしょうか。年間に250タイトルの海外ドラマを視聴する海外ドラマコラムニストが、2022年の新作から特におすすめな4作をご紹介します。ハラハラしたりしんみりしたり、ドラマの面白さに浸りながらフリーランスとしての学びも得て、新年に備えましょう!

コメディエンヌに学ぶフリーランスのブランディング術

「マーベラス・ミセス・メイゼル」(Prime Video)

まずはじめに紹介したいのは、フリーランスの大先輩が主人公のこの作品。1960年代のニューヨークを舞台に、夫の不倫が原因で離婚し、急きょシングルマザーになってしまった元専業主婦のミッジがタフに己の道で生計をたてるコメディドラマです。

生き抜くためにミッジが選んだ道は、フリーランスのコメディエンヌ。会社員でコメディアン志望だった夫に付き添う形でコメディクラブに出入りするうちに、夫ではなく、ミッジが知識を習得していたのです。ある時、泥酔したミッジに突然舞台にあがるチャンスが訪れます。台本もないミッジの自虐トークに観客は大爆笑!その場にいた店員のスージーに才能を認められ、2人でプロへとチャレンジすることになります。

結婚後の女性が働くことさえ稀だった当時。ミッジは会社員ならぬフリーランスで、業界は男性優位のお笑い界。世間の風当たりが強くないわけがありません。女性軽視や職業差別、不当な扱いを多く受けますが、それらすべてを自虐ネタにして笑いをとっていくミッジ。批判をすべて” おいしい “ ととらえるミッジはまさに60年代のスーパーウーマン。

ミッジのコメディエンヌとしての姿はフリーランスにとっても参考になります。彼女は、気持ちに余裕がなくても、物理的に時間がなくても、オシャレに妥協をしません。上品なタイトワンピースに身を包み、日替わりでハットを選ぶ。メイクもヘアスタイルも、全体にあわせるジュエリーのセンスも完璧。この見た目からは決して「かわいそうなバツイチ」には見えません。

つまり自分自身のブランディングが完璧なのです。自分が観客からどう見られたいか、逆算から生まれたトーク&ファッションなのです。見た目が貧相でトークも自虐的だと、正直同情はしても笑えません。見た目からのギャップがトークに生きるからこそ観客は安心して笑える。このことをミッジはよく理解していたのですね。

皆さんはビジネスシーンでどう見られたいでしょうか。フリーランスの大先輩、1960年代を生きるミッジ姉さんのブランディング術に、現代のフリーランスが生きぬくためのヒントが隠されているかもしれませんよ。

「マーベラス・ミセス・メイゼル」
Prime Videoにてシーズン1~4まで独占配信中。
(c)Amazon Studios

型破りなサッカーコーチが起こす奇跡に注目!

「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」(Apple TV+)

次に紹介するのは、Wカップ熱が冷めやらぬ年末にぴったりなコメディドラマです。ストーリーは、アメリカンフットボールの名コーチだったテッド・ラッソが、新天地イギリスでプレミアリーグのサッカーチームの監督に就任するところからスタート。

アメフトの経験はあっても、サッカーチームの監督なんて全く未経験なテッド。チームは存続の危機にあるし、離婚したばかりのクラブオーナー・レベッカにはある黒い目論みがあるし、選手同士の仲は最悪。絶体絶命のこの状況にも戸惑うことなく、持ち前の楽観主義で乗り切ろうとするテッドの奮闘ぶりに注目です。

そもそもサッカーチームが舞台のドラマですが、本作のメインストリームはサッカーシーンではありません。バラバラな選手たちの気持ちを一つにするべく、それぞれに異なる書籍をプレゼントしたり(読まずに捨てる選手がいることも想定済み)、皮肉記事ばかり書く地元紙の記者をすっかり味方にしてしまったり、テッドの失敗に期待するレベッカに毎朝手作りクッキーをプレゼントしたり、重要なストーリーはすべてフィールド外で展開していきます。

やがて「勝ち負けはどうでもいい。試合外でも選手に幸せでいてほしい」というテッドの熱い想いが、選手だけでなくファン、メディア、クラブオーナーなどあらゆる関係者に少しずつ伝播していきます。そして迎えるシーズン1の最終話では、言葉にできないほどの高揚感と感動が待ち受けています。

最高のリーダーであるテッド。彼のリーダーシップ力の秘訣は何なのでしょうか。それはひとえに「愛」なのだと思います。選手を思い、選手を支える恋人や家族をケアし、チームをひっぱるクラブ関係者を重んじる。選手の周りにいるすべての関係者の名前を覚え、積極的に関わり、彼らが幸せであるよう努力することで、結果的に輪の中心にいる選手らが安心してプレーに専念できます。結果チームが強くなっていくのですね。これは意外と現実世界でも参考になるかもしれません。

フリーランスも会社員も、チームでリーダーのポジションになったり、プロジェクトの責任者を任されたりするシチュエーションがあるかと思います。よい結果を生むために誰の士気をあげるべきなのか。テッドから熱血漢で独特なリーダー論を学べるかもしれませんよ。

「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」
Apple TV+オリジナルシリーズ。シーズン2まで独占配信中。
Photos: Apple TV+

死も妥協も幸せも。39歳女性たちの等身大な姿に涙腺崩壊

「39歳」(Netflix)

2022年もたくさんの韓国ドラマが配信されましたが、私的ナンバー1韓国ドラマがこの作品です。それというのも、本作に登場する3人の主人公が、私と同世代であることも大きく関係しているのかもしれません。

本作は、ソウルに住む39歳の親友同士3人の仕事や恋愛、家族など、日々の等身大な暮らしを描く温かな人間ドラマです。一人は皮膚科院長、一人は美容部員、一人は演技指導者として生計を立てていますが、今に至るまでにさまざまな葛藤がありました。俳優志望だったけれどあきらめて演技指導者の道に進んだり、シングルマザーの母親に負担をかけたくなくて大学進学をあきらめたり。みんな自分が選択した道に納得はしているのですが、決して満足はしていない。楽しく笑いあう笑顔の裏には多くの悲しい過去があります。そんな39歳のリアルがこのドラマにはたくさん詰まっています。

この作品では、冒頭で3人のうちの1人がすい臓がんに侵され、余命わずかなことが明かされます。だからといって、ありがちなお涙頂戴や過剰な演出はありません。死さえも彼女たちの日常の一片として描かれます。

もちろん、親友たちや家族に病気を告白したり、「来年は一緒にいられないかもしれない」と考えてしまったり、悲しいシーンはあります。しかし彼女たちだってずっと打ちひしがれて、ずっと泣いて暮らしているわけではありません。食べるし、働くし、飲むし、笑うし、恋もする。病気になってもならなくても、人生ってきっと、このドラマの彼女らと同じように、悲劇と喜劇の連続ですよね。リアリティの塩梅が絶妙で、見ているうちにすっと作品に気持ちが溶け込んで、心地よささえ感じるのだから驚きです。

仕事でうまくいかないことがあったとしても、大切な人と飲んで、食べて、笑えば、たいていは何事もなかったことになっている。39歳ってそんなお年頃なのかもしれません。一方で、病気は突然やってくるかもしれません。周囲の人や自分が、もし余命を宣告されたら、残された時間をどのように過ごしたいでしょうか。このドラマを見るとつい自分の状況を重ねずにはいられません。だからこそ感情が高ぶるし、涙が溢れるのだと思います。

年末年始は少し仕事を忘れて、大切な人とゆっくり過ごしたい。気持ちをいったんリセットしたい。そんな人におすすめな作品です。

「39歳」
Netflixシリーズ。独占配信中。

立ち直れないほどの落ち込みに効く。フリーランスの処方箋

「一流シェフのファミリーレストラン」(ディズニープラス)

最後におすすめするのは、年間250本以上の海外ドラマを見る筆者にとっての2022年ナンバーワン作品です。ストーリーは、ニューヨークの有名店で働くセンス抜群な一流シェフ・カーミーが兄の突然死をきっかけに、故郷シカゴに帰郷するところからスタートします。そしてカーミーは、亡き兄が地元で営業するビーフサンドイッチのお店「ザ・ビーフ」を切り盛りすることになります。

シカゴの治安の悪いエリアにたたずむその店は無秩序そのものです。キッチンは油まみれで、複数人いるシェフたちの動線は最悪。調理効率は悪く、従業員たちのモチベーションも底辺に近い状態でした。そんなところへ元一流レストラン出身のカーミーが入ってきたものだから、当然もめますよね。「適当にやればいい」「労働者階級の店にハイレベルを誰も求めない」など、変化を嫌う従業員たちから不満の声が噴出します。

一方のカーミーも、前述した「テッド・ラッソ」のテッドのように愛ある指導者ではなく、荒ぶる感情をおさえることができない問題児です。気にいらないことがあればスタッフに怒鳴り散らし、スタッフからの提案には大体反対します。

そんな彼らをギリギリで繋ぎ止めているのが、亡き兄の存在です。姿こそありませんが、全編を通じて彼はしっかりと作品に存在しています。大好きだった彼の残像を追いかけ、「彼が残した店を守りたい」という共通の想いが、バラバラなシェフたちの気持ちをつなぎとめていきます。このドラマの真のリーダーは、亡き兄なのかもしれません。結果として、この兄の存在がチームを、レストランを、そしてカーミーを変えていくのですから。

登場人物の誰もが人間らしくて泥臭い。きれいに見せようとするキャラクターが一人もいないのもまたこのドラマの特徴です。感情むき出しなチームが三歩進んで二歩下がり、ぼろぼろになりながらもなんとか「大切な人の死」から這い上がろうとします。その舞台が店であり、リハビリが料理なのです。

フリーランスでも会社員でも、どうしようもなく悔しかったり、つらかったりすることが少なからずあると思います。皆さんの舞台はどこで、何がリハビリになりますか。あてが見つからない時にはぜひこのドラマのカーミーたちに会いに来てください。泥臭く生きる彼らの力強さこそ、働く私たちにとってのつらさの処方箋になるかもしれません。

「一流シェフのファミリーレストラン」
ディズニープラスのスターで独占配信中。
© 2022 FX PRODUCTIONS, LLC. All right's reserved.


伊藤ハルカ 
海外ドラマコラムニスト。自称”日本一海外ドラマを見る女”として、配信系を中心に一日平均10時間、年間250タイトル以上の海外ドラマを視聴する。「VOGUE GIRL」や「日経doors」で海外ドラマの連載を担当。その他、日本テレビ系列「ZIP!」やフジテレビ系列「バイキングMORE」での海外ドラマ作品の紹介などマルチに活躍。ロサンゼルスで開催されるエミー賞授賞式の現地取材なども行う。

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