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会社員の「生涯稼ぐ力」とは? 50代からの“小さな一歩”の踏み出し方

大企業が45-50歳ぐらいの社員を対象に、定年後の人生への心構えを持たせる研修は、かつて「黄昏研修」などと揶揄されていた。しかし、「人生100年時代」と言われ、多くの企業が定年延長を検討する現在、セカンドキャリアについて考えることは決して後ろ向きなものではなく、以前にも増してしっかり向き合う必要があるのではないか。

丸紅従業員組合では、組合主催のセミナーとして、フリーランス協会が企画・実施する「生涯稼ぐ力をつける副業講座」(昼の休憩時間を利用した1時間のオンライン講座・計3回)を開催したが、なかでも50代の参加が目立った。また希望者は、キャリアコンサルタントとの面談1回(1時間)を体験。
今回は、このセミナーを受講した丸紅従業員組合の組合員お二人に話を聞いた。

悩める商社パーソン 人生の棚卸しで自分の強みを見つける

「定年まで、あと10年ありますが、出世的なことも含めて会社内での先行きが見えてくる年代でもありますし、そろそろ次の展開を考えなければならないかな、と漠然と感じてはいました」

北村聡さん(51歳)はこのように語る。そこで、組合から案内があった「生涯稼ぐ力をつける副業講座」を受講した。

「研修を通じて、漠然と考えていたことが具体化されたように感じます。次への準備を少しずつ進めていこうか、とは考えるようになりました」

北村さんは中国ビジネスのプロフェッショナルである。外国語大学で中国語を専攻し、入社後は、青島、南京、上海、深センと中国での駐在を計12年弱経験してきた。自分の経験やスキルを棚卸しすると、それが自分の強みであると思っている。

研修で印象に残ったのは、小さな一歩をいろいろなところで踏み出してみたらどうか、という講師の言葉だったという。自分の強みを生かしたセカンドキャリアのイメージは、例えば中国に進出を検討している企業をサポートするような役割だ。

「日本の企業で中国に進出しようと考えながらできていなかったり、あるいは進出はしているけれど現地のパートナー企業とのコミュニケーションがうまくいっていなかったり、というケースが少なくありません。そういった場面でお手伝いできるかな、と思っています」

 研修修了後、キャリアコンサルティングも受けてみた。任意だったが、専門家の視点を知りたいと考えたからだ。

「自分の考える強みとか、やってみたいと思っていることが、市場にニーズがあるのかどうか探っていったらどうですか、というアドバイスをいただいて、その通りだな、と感じました。中国での経験を振り返りながら文章化してみる、というように、ただ漠然と考えるだけでなく一歩踏み出してみようと考えています。それは、いますぐ次のステップに移すということではなく、定年まで勤めることを想定しながら、スムーズにセカンドキャリアに移行できるようにする、ということです」
キャリアコンサルタントからは、「若い人との接点を増やしてはどうか」というアドバイスも受けた。その点では、現在勤務しているパートナー企業は幹部クラスでも1980年代生まれの若者が多い。

「自分の娘ぐらいの若手とも仕事を一緒にしていますし、年下だからという違和感もありません。吸収することも多いですね 」

52歳で初の入院 これからの自分を考えるきっかけに

新卒から入社し、仕事を続けてきた山本朝子さん(仮名・53歳)は、病気をしたことをきっかけに、先々のことを考えるようになった。

「もともと定年まで働くという強い志があったわけではありませんでした。私の年代は、結婚したら寿退社というのが普通のパターン。私は周囲の理解もあり、結婚後も仕事を続けました」

52歳の時、思わぬ病気で、半年、会社を休むことになった。入院したことも初めてで、そのこと自体もショックだったが、同時に長期にわたって会社から離脱することで周囲に負担をかけることも気持ちの負担になった。幸い、加療後、職場に復帰することはできたが、先行きのことを考えざるを得なくなった。「生涯稼ぐ力をつける副業講座」を受講しようと思ったのは、そういう事情からだ。

「研修の中で、〝あなたは、人になんて言ってもらいたいか〟という講師の問いかけがあり、そのことが一番心に響きました。私は〝やってもらって助かったよ〟とか〝あなただからお願いしたいんだ〟と言われたいんだ、と気がついたのです。仕事に復帰できたことで徐々に前向きな気持ちになってきて、上長と相談して、長くやってきた仕事に戻れるのが一番いい、とあらためて思いました。同時に、休んでいた間にいろいろな人に寄り添ってもらい、元気付けられたことから、何かでそれを返すというか、貢献できるようなことができればいいな、と感じてもいました」

山本さんもまた、研修後のキャリアコンサルティングを受けた。

「プロの方と話をさせていただき、いろいろな刺激を受けました。言っていただいて一番良かった、と思ったのは、突然新しいことを始めるのではなく、自分の関心のあること心が動くようなことを、今の仕事を大事にしながら、時間をかけてチャレンジしていけばどうか、ということでした。仕事に復帰し、あれもしようこれもしよう、と少しハイになっていた時期だったのです。焦る必要はないのだ、と気持ちが落ち着きましたね」

休職していた間にいろいろな人に寄り添ってもらい、元気付けられたことが確かに自分の支えになった。だから、それを何らかの形で返す、何かに貢献したい、という気持ちが研修をきっかけにハッキリしてきた。元の仕事を続けながら、今は社会貢献というような大げさなことではないが、祭事など地域の活動にも関わることを考え始めている。

(参考)
フリーランス協会・プレスリリース
「50代社員の活躍・キャリア自律を支援する 研修等サービスを提供開始」
https://blog.freelance-jp.org/20201221-11361/
間杉俊彦
1961年 東京都生まれ。1986年 早稲田大学第一文学部文芸専修卒業、ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属され、以後、記者として流通、家電、化学・医薬品、運輸サービスなどの各業界を担当。2000年 週刊ダイヤモンド副編集長、2006年 人材開発編集部副部長を経て、ライターとなる。著書に『だから若手が辞めていく』(ダイヤモンド社刊)。

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