見出し画像

「好奇心のギャップ」を刺激し、バズらせる!戦略的デジタル発信術

「せっかく書いたのに、いいねの数が期待したほど多くないな」「このコメントは、自分の投稿内容とほとんど変わらないのに、なぜ人気なんだろう」。SNSなどで発信する際に、誰しも一度は悩んだ経験があるのではないでしょうか。

NewsPicks+d統括編集者・JobPicks編集長で「戦略的ビジネス文章術」の著者、野上英文さんはこう断言します。「バズらないのはあなたのせいではありません。ただ、発信には『狙いどころ』があり、バズる打率は確実に上げられます」。私のせいじゃないんですね!その狙いどころ、知りたいです……!

今回、野上さんが実践している具体的なノウハウや実例を教えていただきました。また、仕事を発注する側だけではなく、業務委託で受注する側でもあるという野上さん。両方の視点から、仕事をする上で心がけるべき点についてもお聞きしてきました!

※この記事は、フリーランス協会「Independent Power Fes 2023」内のセッション「バズらないのは誰のせい?戦略的デジタル発信術」の内容をもとに作成しました。

講師プロフィール
野上英文
(のがみ ひでふみ)さん
NewsPicks+d統括編集者、JobPicks編集長
朝日新聞でジャカルタ支局長など20年近く記者・編集者を務め、大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の調査報道で新聞協会賞受賞。ハーバード大学元客員研究員、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院MBA。2023年からNewsPicks for Businessに参画、コンテンツ制作の責任者として2つのメディアの事業戦略、成長を担う。そのかたわらNewsPicksトピックスで連載コラムを執筆、News Connectパーソナリティ、企業・ビジネスパーソンを対象にしたデジタル時代の発信・文章術で講師を務めるなどパラレルキャリアを実践する。近著に『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)。

読み手の心をつかむには「タイミング」が大事

野上さんは年間500本以上、デジタルコンテンツの見出しをつける、いわば発信の「プロ」。そんなプロでも日々、コンテンツをバズらせるために試行錯誤しているといいます。野上さんが特に意識しているのがタイミング。「Time is Like!(時はいいね!なり)」というくらい、タイムリーな発信が大事だそうです。

「タイムリーに発信する、つまりニーズが高まっている瞬間に発信するのが大事です」と野上さん。エピソードを教えてくれました。

こちらは芦屋市の市長選で髙島崚輔さんが当選し、全国最年少市長が誕生したニュース。左は野上さんが書いた記事、右は神戸新聞の記事です。

NewsPicksで配信された直後のPick数を見ると、髙島さんの地元・神戸新聞の記事より、野上さんの記事のほうが反響が大きいとわかります。野上さんは神戸新聞が当選確実を出した後、どのメディアよりも早く、新市長の人物像に迫るインタビュー記事を出したそうです。

「こんなに早く記事が出せたのには、理由がありまして。実はこの記事、焼き直しなんです」

野上さんはMIT(マサチューセッツ工科大)ビジネススクールに留学中、ハーバード大学を卒業間近の髙島さんと知り合い、そのとき単独取材をして1年ほど前に記事を公開したとのこと(左側の記事)。それを写真とタイトルをリブランニングして当確後に新たに掲載し直したそうです。

「内容は以前とほぼ同じにもかかわらないのに、PV・いいねともに激増したのは、タイムリーに記事を出せたことに尽きます。読者が読みたいタイミングと発信コンテンツが合うとバズりやすい。いかにタイムリーを打てるかを狙ってください」

クリックされる見出しの「三大ルール」

「コンテンツが読まれる、クリックされるためには『見出し(タイトル)』が鍵を握る」と野上さんは言います。

「現代人は短気なので、見出しを見た瞬間に『時間を使って読んで良いか』判断します。心理学の用語『好奇心のギャップ』をご存じでしょうか。これは目の前のコンテンツが価値のある情報だと読み手が判断すれば好奇心が働き、さらにそれを『知らない』場合は、そのギャップを埋めたくなる心理的効果です。人はこのギャップに気づくと、クリックするわけです」

では、「好奇心のギャップを刺激する見出し」は、どのように作ればよいのでしょうか。具体的なルールを教えてもらいました。

野上さんによると、大事なルールは3つ。
ルール1 何の話題かを明示している
ルール2 大事なニュースに絞っている
ルール3 パッとみて、話の筋がわかる短さにしている

例えば、Yahoo!のトップニュース主要8本の見出しは「好奇心のギャップ」を刺激する見出しになっており、このルールで分解できるケースが多い、とのことです。実際に分解してみましょう。

例1)「埼玉の立てこもり 男を緊急逮捕」
ルール1:埼玉の立てこもり
ルール2:男を緊急逮捕
ルール3:14文字

例2)「ハロウィン 渋谷の仮装姿はわずか」
ルール1:ハロウィン
ルール2:渋谷の仮装姿はわずか
ルール3:15文字

たった十数文字なのに、要素分解できるとは!また、書籍や映画、広告、YouTubeのタイトルなども「好奇心のギャップ」効果を狙ったものが多いそう。

タイトルは担当者が考えに考え抜いた『見出し』に相当するものです。暮らしの中で目に留まったタイトルを分解してみてください。そしてなぜそのタイトルが人を惹きつけるのか考えてみると、見出しを作るトレーニングになります」

「3A分析」で読者に刺さるコンテンツに

バスるためには、コンテンツが読者の心に刺さり、いいね、拡散など何らかの行動をしてもらう必要があります。そのために野上さんがコンテンツや文章を書く際、チェックしている「3A」(①Audience 、②Action、③Atmosphereの頭文字を取ったもの)について教えてもらいました。

①Audience (読み手・聴衆)
読み手を意識することで文章は変わります。例えば友達に向けてのメッセージなのか、それとも仕事の仲間同士で励まし合いたいのか、あるいは依頼主に目を留めてほしいのか。皆さんモヤっと書いてませんか?『届けたい相手』を意識して書いてみましょう」

②Action(読み手に期待する行動)
「読者は、『この先時間を使っていいのか』といつも思ってるんですよ。なので、期待する行動を考えていないダラダラした文章では、読者を繋ぎ止めるのは難しいですね。『デザインの仕事を受けたいんです』と言いながら、Xにただ日報みたいなものを書いていても『これ、どうしてほしいの?』と読んだ側はなりますよね。読んだ後に読者にどう行動してほしいかを意識してほしいと思います」

③Atmosphere (空気感)
「どんなトーンで書くのかということです。例えば『仕事がほしい』と思っていても、ふざけた軽い調子ばかりのSNSを投稿する人に、企業から仕事は来ないと思うんです。言葉遣い、表現など『相手の視点』を考えて確認してみてください

なるほど、3A分析で書かれた文章はシャープさが増し、“読まれたい人”に伝わるようになるのですね。

速くわかりやすく書くための秘訣は「仮見出し」

「日頃、コンテンツや文章をどんな順番で書いていますか?」と野上さん。

一般的な文章術の本には「書く前にアウトライン(構成)を作りましょう」と助言があるのがほとんど。しかし「事前にアウトラインを作るのは、非常に難しいのでは」と野上さんは指摘します。

「アウトラインが事前に書けるのなら、ほぼ文章を書けた状態と同じだと私は思っているので、その力があれば書くことにそもそも悩まないと思うんです」

元新聞記者の野上さん。誰が読んでも伝わる記事を、速く的確に書くために、新聞記者は文章を書く前に、ある工夫をしているとのこと。

新聞記者は必ず『仮見出し』を置いてから、文章を書き始めるんです。あくまでも『仮』見出しなので、書き進める中で変えるケースもあります。ただ、最初に仮見出しを置くと、何を書けばいいか、頭がクリアになるんです」

上の例2つは、同じ記事の感想です。このように仮見出しをどのように置くかで、文章の方向性は全く異なったものになります。

仮見出しは『北極星』だと思ってください。ここに向かって走るんだ、こういう前提でこんなふうに展開したいんだと決めると、文章の方向性がバチっと定まって速く書けるんです。ぜひ実践していただきたいです」

受注・発注する視点で考えた、フリーランスが生き抜くための心得

最後に「仕事を受ける立場」と「仕事を依頼する立場」、それぞれの視点から野上さんが大切にしている心がけや注意点を共有してもらいました。

仕事を受ける立場としての心がけ

「一歩一歩、地道に取り組む姿勢を大事にしている」と野上さん。仕事を受ける上での心がけを教えていただきました。具体的には①一つ一つ、120%でお返しする、②実績や経験、スキル、人脈を伸ばしたい仕事は「言い値」で受ける、③仕事が増えたら事業ポートフォリオをPPM分析、メリハリを、の3点だそう。

①一つ一つ、120%でお返しする
「以前NewsPicksのフリーランス向けの講座に登壇したとき、ボランティアだったのですが内容やスライド作りなど全力で取り組みました。そのとき同じ講座に登壇されたフリーランス協会 代表理事の平田さんに出会いました。そして今回の会にお声がけいただいたという経緯があります。いつも120%で取り組むスタンスが、今日呼ばれたことに繋がったのではないでしょうか

②実績や経験、スキル、人脈を伸ばしたい仕事は「言い値」で受ける
少し前、依頼を受けて自著の読書会に無料で参加しました。旅行先で日曜の朝6時半開始だったので『辛いな』と思いながらも、一生懸命やりました。そうしたら何が生まれたかというと、Amazonレビューが増えたんですね。読書会の最後にレビューの記入をお願いしたところ、7件ぐらい書いてくれました。やってよかったなと(笑)」

③仕事が増えたら事業ポートフォリオをPPM分析、メリハリを

「『さらば青春の光』にインタビューした際に、自分たちの仕事をどのように位置づけているかをたずねました。テレビの仕事に対しては、ギャラが安いものの昔からの憧れであり、知名度向上のために受けているそうです。一方で、ネット系の仕事はギャラが良く、稼ぐために積極的に受けていると。また、単独ライブを行う理由は、コアなファンを増やすためだそうです。仕事をPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析しており、メリハリをつけて働かれている印象を受けました

どんな仕事にも全力で取り組む熱意と、実績や自分の立ち位置を客観視する冷静さのバランスが、成功の秘訣のようです。

仕事を依頼する立場で、困ったケース

一方で、野上さんはメディアで仕事を受ける際、こんなことに困ったと言います。

①期待したスキルが十分でなかった
「案件に対するスキルだけでなく、「報連相」も含みます。例えばデジタルメディアからの仕事なのに、『SlackやTeamsが使えません』では仕事を頼みづらいですね」

②締め切りを平気で延ばそうとする
業務委託の仕事って1つ1つで完結してるので、締め切りは延ばせないんですよね。仕事を依頼する立場からしたら、本当に困ります。私も仕事を受けたときは、必ず守ります」

③やたら手がかかる、手戻りが多い
「①にも関連するのですが、実力の1.2倍のものを受けるのはよいとして、スキルが全く足りないと、手戻りが多く発生し依頼者に迷惑をかけてしまいます

④公開や掲載を再三、催促してくる
依頼者はベストなタイミングでコンテンツを公開したいと考えています。もちろん失礼・無礼にあたる放置はアラートを鳴らすべきです。ただ、120%貢献できて、納品して報酬もいただいたら、もう忘れてください(笑)」

⑤基本的なビジネスマナーに欠ける
最後は人かなと。皆さん相性が合わない人とは仕事されてないと思いますし、依頼する側も同じです。私も仕事を受けていただくときに、心底苦労しています。自分がいかに魅力的というか、この人と仕事がしたいなと思われるように心がけています

読者に届くだけではなく、動いてもらえるコンテンツを

野上さんは、今回のセッション内容を考える際に「3A分析」をされたそうです。「デジタル発信に関心がある方が(Audience)、少しでもレベルアップするように(Action)、期待する行動を丁寧なトーンで伝えよう(Atmosphere)と決めて、今日来ました」とのこと。

だからこそ、「読み手を意識してコンテンツを作る」という野上さんのただならぬ情熱がこちらに伝わってきたんだと腑に落ちました。独りよがりにならず「常に読み手を考える」という思いやりを根底に持ってこそ、今回教わったフレームが生きるのではないかと感じました。

野上さんの著書「戦略的ビジネス文章術」中に、「仮見出し」「3A分析」「リード文」などの文章術から「編集」「校正・校閲」に至るまで、すぐに実践できるフレームが数多く書かれています。興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

取材・文/加藤知子
省庁勤務、大学職員を経て、会社員として採用広報をしながら、ライターとして活動。取材対象者の魅力を引き出し、読者に気づきを与えられる記事を書いていきたいと奮闘中。家族でオーストラリアに移住するのが夢。好きな食べ物は、ピノ。
note:https://note.com/joyous_zinnia73

撮影/鈴木江実子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?