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デュアルスクール・オルタナティブ教育、知っておきたい多様な学びの選択肢〜徳島県の事例から〜

「徳島県」と聞いて、何を思い浮かべますか? 阿波おどり? 鳴門の渦潮?……もちろんそれらも有名ですが、徳島県はいま、教育がアツいんです!

2023年の4月には、IT起業家を育てる「神山まるごと高専」が開校することでも知られる徳島県。これまでも、田んぼと畑の中にある全日制の小学校や、里山で学ぶ森のようちえん&オルタナティブスクールなど、多様な学びが生まれている地域として、全国から注目を集めてきました。

大人たちの働き方が多様化している昨今、子どもたちの学びについても、多様な「選択肢」が求められています。

今回は、徳島県から全国へデュアルスクールの推進活動をされている「ミライの学校」代表理事の高畑拓弥さん、また徳島・神山町のオルタナティブスクール「森の学校みっけ」代表の松岡美緒さんにお話を伺いました!

※この記事は、徳島県とフリーランス協会によるオンラインイベント「徳島県で、子どもと体験!「自分らしい暮らし方・働き方」 〜デュアルスクール×二拠点生活&オルタナティブ教育×移住」の内容をもとに作成しました。

デュアルスクールって、何?

デュアルスクールとは、地方と都市の2つの学校の行き来を容易にし、双方で教育を受けることができる新しい学校の形です。

「デュアルスクールは、2016年に徳島県美波町から始まった制度です。そもそも徳島県は、2010年ごろから全国に先んじてサテライトオフィスをつくり、都心の方々を誘致する移住支援活動を行ってきた背景があるんです」

そう話すのは、デュアルスクールのモデルを徳島から全国へ展開する「ミライの学校」代表理事、高畑拓弥さん。

「働き方も多様になり、『子どもにいろんな地域や生き方を見せてやりたい』と考える親は増えています。ただ、子どもが未就学児のころは親子ワーケーションなどがしやすいものの、小学校に入学して義務教育家庭に入ると、途端に子どもたちの行動に制限がかかってしまう現状があるんです」

実際、サテライトオフィスのユーザーの方々からも、「子どもたちが学校に通うようになったから、前のようには美波町に行けない」という声があがったそう。そこで発案されたのが、デュアルスクールでした。

徳島県から国へ働きかけた結果、「区域外就学制度」を活用することで、都市部に住民票を置いたまま、保護者の短期居住にあわせて徳島県の学校に学籍を異動させて通うことができる仕組みが実現したのです。

コロナ禍で一時期は受け入れを中止していましたが、「2022年度からは再開して、過去最多の受け入れ数になっています」と高畑さん。さらには「デュアルスクール」は2022年のグッドデザイン金賞を受賞するなど、全国からの注目もますます高まっています。

「ここ」だけではない選択肢を、双方向で理解し合う

実際デュアルスクールを利用すると、子どもたちはどんな日々を過ごすことになるのでしょう? 受け入れ側として高畑さんたちが大切にしているのは「地元の子の当たり前を、提供する」こと。

「朝起きて、学校に行って、勉強して、放課後は地域で遊ぶ。文字にすると何の変哲もないかもしれませんが、通学路から見える自然や、人数の少ないクラスで勉強をすること、放課後に山や川で遊ぶこと自体が、都会の子たちにとっては非日常です」

「別の場所で当たり前の学校生活を体験する」ことこそ、区域外就学を利用したデュアルスクールでなければ実現しえなかったことだと、高畑さんは語ります。

都会の子どもたちが田舎の生活を体験できる一方、受け入れ側の地域にとっても、非常によい効果をもたらしているそう。

「たまたま地域のお祭りがある期間に来ていた子に『昔は子ども神輿があってね。今はもう子どもが少なくなって、やってないけど……』という話をしたら、その子が「え〜、担いでみたい!」と。そのひと言で地元の大人たちに火がついて、20年ぶりに子ども神輿が復活!なんてこともありました」

また学校の先生方からも、「受け入れて本当によかった」という声をもらっています、と高畑さん。「ひと学年5人などの小規模校も多いなか、外から来る子たちを受け入れることで、地元の子にとっても視野を広げ、多様性を理解する場になると実感いただけているようです」。

文部科学省によると、令和3年度に年間30日以上学校を欠席した「不登校」の小・中学生は前年度から約25%増え、過去最多の24万人余りとなりました。不登校が急増する背景には「学校だけではコントロールしきれない子育ての環境変化や、子どもたちの多様化がある」と、高畑さんは指摘します。

「いまの子どもたちに必要なのは、コミュニティや居場所の数だと感じています。最終的にデュアルスクール(制度)を使う、使わないは関係なく、自分の居場所は、いま自分が通う学校だけではないことを知ってほしい。『他にもこんな選択肢があるんだ』と思える世の中にしていきたい」との思いで、デュアルスクールを全国へ広げていく活動に取り組んでいます。

神山町のオルタナティブスクール、「森の学校みっけ」

次にご紹介するのは、徳島県神山町のオルタナティブスクール、「森の学校みっけ」。2022年度より、森の中で開校した学校です。

「オルタナティブ(alternative)」とは「もう一つの」という意味。オルタナティブスクールは、フリースクールなど、現在の公教育とは異なる独自の理念・方針で運営されている学校の総称です。その多くは無認可校という位置づけですが、個人が尊重され、子どもの自主性を重視した教育が行われることが多く、近年、海外・国内ともその数は増え続けています。

「私たちも開校してから、『学校を作りたい』という全国各地の親御さんから問い合わせをいただきます。既存の学校とは違う、新しい学びの手法を取り入れたいと考える方は増えているのを感じます」と、森の学校みっけ代表の松岡美緒さん。

みっけのある神山町はもともと、世界のアーティストが滞在できる森の中のアーティスト・イン・レジデンスや、若者によるオーガニック農家、サテライトオフィスなど多様な取り組みで注目を集めてきたまち。

さらに2022年度には森のようちえんが開園したり、2023年度にはIT起業家を育てる「神山まるごと高専」が開校予定など、教育方面でも豊かさを増してきています。

そんな神山町において、みっけがあるのはこのような立地。

イラスト:中村萌

「学校の近くが、私たちが借りている山、下の「ガーデン」が私たちが借りている畑で、その間には川が流れています。学校として森づくりをしながら、豊かな水の流れる川でめいっぱい遊び、その川の水で畑の野菜に水をやり、その野菜を食べる。自然の循環を感じられる場所になっています」

「学校づくりを通して、持続可能な社会へシフトしていく文化を育んでいきたい」と、松岡さんは話します。

自分たちの興味や好奇心から、学びへ発展していく

森の学校みっけの1日は、朝、みんなで輪になって集まり、「今日何をするのか?」を話し合うところからスタート。

「大学生になっても、自分が何をしたいのかわからない子たちにたくさん出会います。みっけでは小学生から毎日、決められた時間割りではなく『今日私は、何しにここに来たのか』『自分は何をやり遂げたいのか』に向き合う時間をつくっているんです」

ある日はロッククライミング。そこから「この岩はなぜオレンジ色なんだろう?」と疑問を持ち、観察を始めて「鉄の匂いがする」と気づき、理科の学びへと発展していくこともあるのだとか。

またあるときは、川で遊ぶなかで「この水はどこから来たんだろう」と興味を持ち、皆で山登りをして水源をたどる「水源ジャーニー」をしてみることも。逆に川下へ降りていって、海でカニを捕まえたりしながら、水がもたらす生態系を学んだりもしているそうです。

「一見、ただ楽しいだけの活動にも見えるかもしれませんが、例えばカニを捕まえるにしても、どうすれば捕まえられるのかを考え、どういう生態なのかと興味を持ち、観察したり、調べたりして学びが生まれていくんです。教科横断型の学びができていると実感できていますね」

自然豊かな活動の一方で、地域やまちでの活動も大切にしています。

先日は「みんなでミサンガを作って売り、その度の資金で旅に行こう」という話が出て、実際に制作・販売を何度か行い、3万円を貯めたそう。その過程でも、「どんなタグをつけたら売れるのか」「これは売れなかったけど何が原因だろう」など、マーケティングの学びもあったといいます。

「いまはそのお金でどんな旅をするのか、皆で話し合いながら考えているところです。キャンプ場や温泉施設などに自分たちで電話をかけて、値段や準備物を考え、計画を立てていっていますよ」と松岡さん。

またビーチクリーンや、拾ったごみの観察を通して「もっとごみについて知りたい」という声が出たところから、地域のごみ処理場に見学へ行き、子どもたちが現場の方にインタビューしたこともあるとか。

「ごみの処理については、文科省の教育指導要項だと小学校4年生の社会科に含まれているものです。ただそれを「教科書に書いてあるから学ぶ」ではなくて、「自分たちの興味から、学ぶ」。その流れを大切にしています」。

そんなみっけには、海外・国内からサマースクール開校のリクエストがたくさん届いているとか。2023年度はサマースクールの開校も検討中とのことなので、ぜひ公式HPSNSで情報をチェックしてみてください。

【Q&A】教えて!デュアルスクールあれこれ

デュアルスクールに興味はあるけれど、細かいところは実際どうなの……?という方のため、Q&A形式であれこれ、教えてもらいました!

Q.期間中の滞在拠点は、ホテルなどの連泊になりますか?

高畑:徳島の場合、移住体験施設がいろいろな市町村に用意されています。目安として、ひと月約3万円ほどのご負担で滞在いただけることが多いです。徳島県は支援が手厚いので、ご参加いただきやすいと思いますよ。

Q.滞在期間のルールはある? 1年間に何回行ってもいいの?

高畑:滞在期間は2週間〜1か月が基本スパンですね。区域外就学制度は1度取得するとその年間通じて有効になるので、リピートされる方も多く、年間に3、4回来た方もいます。もちろん一度でもかまいません。

Q.子どもは「今の友達と離れるのはイヤ」と興味がなさそうです。子どものモチベーションがあがる話し方はありますか?

高畑:前提として、親による強制はしないほうがいいと思っています。一番大切なのは、子どもの意志でそれを選んでいるかどうか。そのためにもまず、本人の興味がわき起こるような機会をつくってあげるといいと思います。まずは旅行などで「こんな環境もいいよね」と気づいてもらうところから、入ってみてはいかがでしょうか。

Q.何年生くらいの子が多いですか?

高畑:小学生と中学生で受け入れを行っていますが、小学生、特に低学年が多い印象です。中学生になるとどうしても受験やテスト、部活動などの影響で参加しづらくなる傾向はありますが、これまでも受け入れは行っています。

Q.オルタナティブスクールでも、デュアルスクールの受け入れは可能?

松岡:「森の学校みっけ」に関しては、今後受け入れていきたいと考えています。みっけの場合は神山町教育委員会のご配慮で、地元の小学校に在籍しつつ出席日数の認定をもらう形をとれているので、デュアルスクールも可能かもしれません。ただすべてのオルタナティブスクールが地元の学校と連携できているわけではないので、ケースバイケースだと思います。

高岡:区域外就学制度は、送り出し側と受け入れ側、双方の合意で成り立つしくみなので、送り出し側の学校や教育委員会がOKを出さないケースもあるかもしれません。ただこうした課題は、多様な子どもたちのためにも、今後超えていくべきものだと考えています。

自分がいる環境以外にも「選択肢」はある

さて、徳島県のデュアルスクールやオルタナティブ教育事情、いかがだったでしょうか?

どれかひとつが正解というわけではなく、子どもの個性や家庭の事情によりそれぞれの解があると思います。ただ変化の時代、自分がいる環境以外にも「選択肢」はあること、その形を理解しておくことは、親にも子にも、大切なことだと感じました。

「デュアルスクール」や「森の学校みっけ」などについて興味を持たれた方はぜひ公式ホームページでも引き続き情報をチェックしてみてください。

<ミライの学校>

<森の学校みっけ>

【教えてくれた方】
・ミライの学校代表理事 高畑 拓弥(たかはた たくや)さん
神奈川県横浜市出身。 慶應大学SFC卒。総合商社入社後、インドネシア赴任を経て独立。 徳島県最南端の海陽町に移住。(一社)Disportを設立し、県立海部高校の魅力化コーディネーターとして県外生を15倍以上に。未来の水産業の形を創る(株)リブルを設立、牡蠣の種苗生産からスマート養殖の確立に従事。小中学生の越境流動性を高めるため、「デュアルスクール」「サテライトスクール」のモデルを全国へ展開する(一社)ミライの学校を設立、代表理事に就任。(一社)Disport代表理事、(株)リブル取締役も務める。

・森の学校みっけ代表 松岡 美緒(まつおか みお)さん
1992年東京出身。神山町在住。イギリスで国際開発学専攻大学院修了後、パキスタンの平和構築NGOに従事する。南アフリカで出会ったパーマカルチャーに衝撃を受け、帰国後、千葉でパーマカルチャーデザインコース、カリフォルニアでEdible Schoolyard(食べられる校庭)の研修を修了。地元の放課後活動トレイルランニングを運営しながら、森の学校みっけを2022年4月に開校。「私たちが住むこの地球は、気候変動やそれに伴う争いがもっと起こるかもしれないという未来を見せている一方で、私たちの心が知っている美しい世界を自分の手でつくることが可能だと教えてくれています。その世界をまずは子どもたちと大地の声を聞きながらつくってみたいのです」

ライター:渡邉雅子
PR会社勤務、フィジー留学を経て豪州ワーホリ中にライターに。帰国後ITベンチャー等々を経て、2014年に独立。2016年より福岡在住。現在は糸島界隈を拠点に執筆活動。生き方、働き方関連の記事多め。海辺と絵本、旅、写真、おいしい野菜が好き。マイペースな一児の母としてオルタナティブ教育にも興味津々。Web: https://masakowatanabe.themedia.jp/

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