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その仕事、頼まれなくてもやりますか? 働き方研究家による、「いい働き方」の記録

「いいモノを作っている人は働き方からして違うはずである」

今回お勧めする本は「自分の仕事をつくる」です。

著者の西村佳哲さんは、デザインレーベル「リビングワールド」の代表で、「つくる・教える・書く」の3分野でお仕事をなさっています。現在は東京と徳島県神山町に居住し、神山町では「まちを将来世代につなぐプロジェクト」を手がけました。

西村さんは、30歳のときに会社を辞め、自分の仕事を始めると同時に、「働き方研究家」として働き方について調べる仕事をはじめました。そして、冒頭の仮説をもとに、八木保、柳宗理、ヨーガン・レール、パタゴニア社、ルヴァン、象設計集団など「いいモノ」を作っている現場を訪ねます。

西村さんの仮説は正解でした。

いいモノを作っている人は「いい働き方」をしていたのです。
素晴らしい仕事も作品も「いい働き方の結果」に過ぎないことが分かったのです。

この本には、西村さんが出会った「いい働き方」がたくさん書いてありました。

「手段と目的の倒錯」、起こっていませんか?

柳宗理さんは、日本のデザインの歴史そのものを自ら歩んできた工業デザイナー。バタフライスツールが有名です。使いやすい調理道具や食器は私も大好きです。

柳宗理さんがLAにあるアートセンタースクールを訪問されたときのお話が書いてありました。
車のデザインを考えている人たちは車のスタイリングを追求し、机の上でレタリングばかり描いていたそうです。それに対して柳宗理さんは大きな違和感を感じたそうです。

「車の魅力は色や形だけではなくむしろ触り心地や乗り心地にある。実際は3次元のカーブの連続で出来上がっているのだからそもそも車の魅力は平面的な絵として表現できるものではない。」

このエピソードから西村さんは目的と手段の倒錯について触れています。

「技術進化の過程で起こる倒錯現象がある。目的と手段が入れ替わってしまう現象だ。一種のオタク化と言ってよいかもしれない。」
「あらゆる仕事の最終的な目標であるべき『人』が疎外されてしまう。優れた技術者は技術そのものではなく、その先に必ず『人間』あるいは『世界の有り様』を見据えている。」

手段と目的の倒錯はいろんな場面で起こります。
・会議のための会議
・資料のための資料
・仕事のための仕事

私自身、このような手段と目的が倒錯した仕事をしていたときはあまりハッピーではありませんでした。決して「いい働き方」をしていたとは言えません。

本には手段と目的の倒錯に陥らないための唯一の方法が書いてあります。

「私たち一人一人が自分の仕事の目的はそもそもなんだったのかを日々自問すること。」

自問するだけのシンプルな方法ですが、自分の現在地を知るために効果的な問いかけだと思います。
毎日、数秒立ち止まって、この問いに向き合いたいです。

頼まれもしないのにする仕事

イタリアのデザイナーと日本のデザイナーの対比が書いてありました。

イタリアのデザイナーは個人に立脚したところから仕事を展開し、日本のデザイナーは企業を起点に仕事を展開してきたそうです。
言い換えると、イタリアのデザイナーは「頼まれもしない」のに自分の仕事を考え提案し、日本のデザイナーは他者から依頼されて仕事を始める、ということです。

ただ、最近は日本でもイタリアのように自分で仕事を立ち上げる人たちが目立ってきているとも書いてありました。つまり日本でも「頼まれもしない」のに仕事をする人が増えてきた、ということです。

本には「デザインの分野に限らず、私たちは企業という母体からの乳離れを始めているのかもしれない。GDPの数値が豊かさの実感や人生の充実に直結するわけではないことを既に知っている。自分を満たす自分の仕事。」と書いてありました。

一見、会社で働くことと個人で働くことの対立のように思えます。しかし、重要なことはそこではなく、「仕事の起点がどこにあるか。」ということだそうです。

「仕事の起点」とは「なぜ、誰のために、どう働くのか。」ということです。

つまり大切なのことは「会社で働く」「個人で働く」という「働く形」ではなく、自分の中にある「仕事への想い」ということではないでしょうか。

自分の仕事への想いが「頼まれもしないのにする仕事」「頼まれもしないのにしたい仕事」に繋がっていくのかもしれません。
そしてそんな仕事をしている時が「いい働き方」をしている時なのかもしれないなと思いました。
(もちろん「頼まれなもしない仕事」が人の幸せにつながる仕事であることは大前提です。)

西村さんは、「自分の仕事をつくる」というタイトルに

・他人事ではないこと、
・他の人には肩代わりできないこと、
・任せたくないこと、
・ほかでもない「自分の仕事」をしよう!

という強い願いを込めたと書いています。
そしてまた、分かれ道に差し掛かった時、より「自分の仕事」感のある方を選択をしてきたそうです。

価値観は人それぞれです。
仕事の選び方、仕事への向き合い方も人それぞれです。
ただ「いい仕事をしたい」「いい働き方をしたい」と思わない人はいないのではないでしょうか。

「いい仕事をするために」「いい働き方をするために」この本にあった「問い」を大切にしていきたいなと思っています。

自分の仕事の目的は何だろう?
自分はなぜ働くのだろう?
自分は誰のために働くのだろう?
自分はどう働くのだろう?

平井圭子
富山県出身。青山学院大学経営学部経営学科卒。
プロフェッショナルファームで10年以上人事業務に従事。妊娠・出産を経て人事系フリーランス&キャリアカウンセラーとして独立。現在はベンチャー企業の人事業務支援、大手法人のダイバーシティ&インクルージョン推進支援、大学・高校での相談業務に携わる。
仕事の目標は仕事が楽しいと思える人を増やすこと。
プライベートでやりたいことは全国の素敵な本屋さん巡りをすること。


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