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コロナ禍で売上高7割減。創業以来最低の落ち込みも、外部人材の活用で、醤油の本質的な価値に気づく~山川醸造株式会社

フリーランスとフリーランスを活用する企業のさらなる成長や活躍を目指し、今年も開催される「フリーランスパートナーシップアワード2021」。

本記事は、活用企業部門1次審査を通過したファイナリスト、昭和18年創業で「たまり醤油」などを手がける蔵元、山川醸造の取り組みをご紹介します。

山川醸造はコロナ禍の売り上げの落ち込みを背景に、トヨタ自動車の外部人材(プロボノ)チームと共に3ヵ月のプログラムを実施。山川 晃生社長を中心に、既存商品の分析や販路開拓を行いました。その結果、山川さんが社長になって以来、最も新規顧客を獲得できたそうです。さらには、企業の本質的な価値に気づくきっかけとなったとも語る、その理由とは?

最後に、投票フォームもありますので、取り組みへの共感や参考になった場合は投票をお願いします。

コロナ禍で業務用の需要が壊滅的なダメージを受ける

—— まずは御社の事業内容を教えてください。

岐阜市を流れる長良川の伏流水と杉の木桶を使い、たまり醤油と豆味噌の製造及び加工品の製造をしています。昭和18年創業は業界では後発ながら、東海地方の伝統的な手法で仕込んでいる数少ない蔵のひとつです。

—— 80年以上の歴史がありながら業界内では後発なのですね。今まで、どういったお客様に商品を提供されてきたのでしょうか?

創業以来、2000年頃までは100%業務用に特化した蔵元でした。その後、家庭用にも商品を作り始めていましたが、たまり醤油はさしみ用の特殊な醤油と勘違いされていることが多く、近年は家庭での需要が激減しています。そのため、主に外食などの業務用にオーダーメードで醤油をブレンドしたオリジナル醤油を提供したり、つゆ・たれを小ロットのOEM生産することも業務用と並行して手がけています。

他にも、脇役である調味料の醤油や味噌を主役にするために、さまざまな商品開発を行いました。岐阜市内のケーキ屋さん、パン屋さんとコラボして醤油スイーツを販売したり、木桶探検ツアーと称した工場見学や蔵開放イベントも実施してきました。

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家庭向けにユニークなパッケージのたまり醤油を販売

—— そういった企画やコラボも御社独自で行ってきたのでしょうか?

企画の部署はおろか、販路開拓の人材もいない会社でして。「今までは良いものを作れば必ず売れる」と考える職人気質なところがあり、社長の私がいろいろな人から誘いをうけて手伝ったり、プレスリリースなどを活用するなど、コストのかからない宣伝を行ったりしてきました。3年前にはクラウドファンディングを活用して、創業以来初めて新桶を導入したこともあります。中日新聞や岐阜新聞でも記事にしていただき、会社として「これからだ!」というタイミングで、コロナ禍に突入したのは良くも悪くも大きな転機になりましたね。

—— 業務用メインの事業だと、商売への影響はとても大きかったのではないでしょうか?

コロナ禍になり最初の自粛要請が出た20年4月の売り上げは前年同月比物流ベースで7割強の減、金額ベースでは6割強下がり、5月も物流ベースで5割強の減、金額ベースでは4割強下がりました。今まで醤油は売り上げの波があまりない商品でしたが、調味料業界は外食産業の影響を受けて大変厳しい状況になりました。

でも、このように大変な時期だからこそ、新しくお客様に提案するなど、他社との差別化を図ろうとする会社や店舗もたくさんあるはずと考えました。

—— まさに、御社にとっても変化が必要なタイミングが訪れたのですね。

はい。ただ、課題は山積みでした。近年弊社が力を入れていた小ロットOEMサービス「たまりやオーダーメード100」を軸に提案していきたいという想いはありましたが、どうやってお客様候補を見つけ、販売していくのかなどは検討もつかず……。そこで、この販路開拓に外部人材(*プロボノ)と共に取り組むことが、コロナ禍の苦境を打破する打ち手だと考えたのです。

* プロボノ(Pro bono)とは、各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般。

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伝統を守り続けた蔵が、コロナ禍のあおりを受けて前年同月比7割減の出荷量に

中小企業の実際の課題に取り組むプログラムを、トヨタ自動車と実施

—— 外部人材はどのような流れで採用したのでしょうか?

弊社の地元である岐阜県を中心に活動している「NPO法人G-net」の掛川さんが熱心に外部人材の活用を進めてくれたのです。当時、トヨタ自動車が、コロナ禍で悩む中小企業の実際の課題に取り組むことを通じて、世の中の動き、お客様・社会の抱える課題に気づく力を養うという、3か月間(週8時間)の実践形式の研修プログラム「先進☆プロボノ」を行っていました。私自身は外から人材を採用するノウハウはありませんでしたが、会社がコロナ禍の影響を大きく受けていたので、何かを変えるきっかけとして2020年7月にプログラムへの参加を決めました。

—— 新しい取り組みに不安などはなかったのでしょうか。

不安より、むしろ楽しみの方が大きかったですね。というのも、まさか弊社がこのプログラムの受け入れ先企業に選ばれると思っていなかったからです。期間限定とはいえ、弊社に採用が決まったときは、驚きと嬉しさが混じった「よし、やらなきゃ!」という覚悟のようなものを胸に抱きました。

—— 外部人材の方々にはどういったことをお任せしたのでしょうか?

まずは私たちがお客様に提供している価値を再定義することから一緒に行っていきました。今回参加していただいた3名は、営業やマーケティングの経験者はいなかったため、専門性を活かすというよりも、私たちを知っていただき、醤油の作り手からは出ない発想や、違う切り口で分析していただくことを期待しました。

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左から、事業承継予定の山川社長の娘さん、山川社長、トヨタ自動車のプロボノメンバー3名、G-net掛川さん

—— 具体的にはどんなことに取り組んだのでしょうか?

成長意欲にあふれ、研修プログラムに自ら手を上げた意欲的なメンバーだったことも大きな特徴だったので、彼らの社会人基礎力をもとに、主に3つのことに取り組んでいただきました。

1. 既存のOEM商品の特長について分析

以前から取り組んでいたOEM商品は、堅調に受注獲得できていたものの、要因を分析をしたことがありませんでした。それは人とのつながりから受注になることが多かったことや、中小企業の課題の1つでもある情報の整理ができていなかったことです。そのため、顧客リストを改めて作成し、注文の多い商品やリピートになりやすい商品の特長を分析していきました。

2. 顧客リストの作成と店頭訪問

過去の顧客リストから分析した上で、OEM発注先候補として的を絞ったのは「養鶏所」でした。卵かけごはん専用の醤油を提案の軸に、小売販売をしている店舗などにアポ取りから養鶏場への飛び込み営業まで、彼ら主導で動いていただき、実際の商談につなげていきました。

3. 販促パンフレットとプレスリリースの作成

OEMによるオーダーメイド商品というサービスに対して、顧客がどこに価値を見出しているのかを改めて考えました。その結果、単なる小ロットOEMサービスではなく、弊社同様コロナ禍でダメージを負っている農業従事者・漁業従事者にとって、新たな商品づくりの提案につながるソリューションであることを再定義することにしました。その実現に向けて、商品を販売するだけに留まらず、店頭販売用のPOPをつけたり、商品開発のプレスリリース文章のテンプレートなどをあわせて提案することで、消費者に対してよりわかりやすい商品づくり・ニュース発信につなげる仕掛けづくりも行いました。

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川漁師の平工さんの依頼で天然鮎を1匹丸ごと漬け込み作った人気OEM商品「焼鮎醤油」

外部人材の活用は、地場産業の課題解決に有効な手段に

—— どのような成果が上がりましたか?

飛び込み営業や、プレスリリースの発信により、受注1件、問合せ5件、新聞掲載2件の結果を得ることができました。また、プログラム期間後ではありますが、プロボノメンバーが獲得した営業先で1社成約が決まりました。岡崎の卵卸会社がオリジナル醤油を作りたいとのことで話が進み、国内向け商品と、海外でのフェアで発表する商品、2つの展開先に向けて製造中です。彼らの動きが確実に新たな顧客獲得につながったなと感じています

—— 素晴らしい効果ですね!

私たちは醤油を売ることが仕事です。それも、20年、30年とこの仕事をしているとこだわりが出てくるので、より良い醤油を作れば売れるとさえ考えていたのです。

しかし、扱う商品が永遠に続くわけではありません。例えば、暖房器具1つとっても、燃料が石炭の時代から、灯油、エアコンと変わっていきました。それは、消費者が求めているのは暖房器具そのものより、冬を快適に過ごすための解決策が欲しかったためです。

では、「私たちの価値は何か?」 。それは醤油そのものではなく、おいしい食卓、楽しい食卓を提供することなのです。そのことをプログラムの2日目にトヨタ自動車の社員の方々にも伝えました。

すると、彼らにも発見があったようです。車も車体自体ではなく、移動を楽にしたり楽しくしたりする価値を届けるという意味で、「モビリティカンパニーへの変革を掲げるトヨタと同じだ」と。そのやり取りの後は、お互いの仕事がよりスムーズにいきました。

—— 車と醤油も、価値を届ける意味では同じところがあるというのはとても面白いですね。

はい。そして、従来小ロットOEM生産サービスと捉えていた事業を、一次産業者向けのコロナ禍を乗り切るソリューション提案と位置づけられたことで、私たちの事業も加速することができました。

それも、トヨタ自動車の皆さんと弊社がすでに取り組んできた事例を紐解き、議論を重ねたからです。私たちが届けたい本質的な願いや、サービスができあがった経緯などをプレスリリースにまとめ、記者発表の準備まで行ってくれたからでした。同時に、彼らが作ってくれた営業に使えるパンフレットは、このプログラムが終わった後も強力な営業ツールとなっており、弊社にとっての大きな財産ができました。

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プロボノ人材が準備してくれた記者発表会

—— 最後に、今回のプログラムを通じて、外部人材の活用についてどう感じたかを教えてください。

ひとつの業界の中だけにいると凝り固まった考えになりがちです。だからこそ、外部人材の方の考え方を取り入れるのはメリットがあると感じました。今回は零細企業の課題解決に大企業の人材が入っていただけるという連携のおかげで、新たなソリューションが生まれました。新規のお客様は私が代表になって以来約20年の間で一番多く見つかったのではないかと思います。

また、トヨタ自動車の社員の方にとっても、プログラム開始当初に、大企業と零細企業の観点の違いや、リアルな企業課題に対しての根拠ある仮説を立てる必要性など、前提条件を意識できるようになる研修になったのではないかと思います。

—— 今後も、外部人材の活用は地場産業の課題解決に有効な手段になりそうですね!本日は素敵なお話をありがとうございました。

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この取り組みに共感いただけた、参考になったという方は、他の「フリーランスパートナーシップアワード2021」ファイナリストの記事もご覧ください。そして、ぜひ大賞決定の投票もお願いします!

■フリーランスパートナーシップアワードとは
プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が、フリーランスおよびフリーランス活用企業の更なる成長・活躍と、マッチングサービス業界の健全な発展を目的に開催しています。
5万4千人を超えるフリーランス協会会員・フォロワーに、未来に繋がる良い事例をWEB投票で選んでいただき、最も得票数の多かったファイナリストをアワード対象者として表彰します!
最終結果発表・授賞式は、11月1日(月)18:00-19:00にオンライン配信。ファイナリストが勢ぞろいするトークセッションもお届けしますので、ぜひご視聴ください!
▽活用企業部門:雇用形態や勤務場所にとらわれずに多様な人材をチームの一員として招き入れることで事業成長に導いた企業
▽エージェント部門(個人):フリーランスのチカラが最大限に活かせる環境を見出し、マッチングを支援したマッチング企業の担当者
※投票は1人につき1票となります。

▽活用企業部門 ファイナリスト一覧
・株式会社アナムネ
 https://note.com/frepara/n/ndaef15e81b18
・神戸市
 https://note.com/frepara/n/n81ea6ee0ac11

▽エージェント部門(個人) ファイナリスト一覧
・中谷香織さん(エッセンス株式会社)
 https://note.com/frepara/n/ne9b7dbc662e9
・中西亮太さん(株式会社サーキュレーション)
 https://note.com/frepara/n/n8acb89736bc9
・光宗拓哉さん(レバテック株式会社)
 https://note.com/frepara/n/n394091fc7120


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