独立を後押しする政府の機運が高まる一方、独立したことで生活に不可欠な住宅を手にしにくくなる現状がある。中でも、独立に伴い住み替えのため賃貸を借りたいという人の前には、保守的な入居審査という壁が立ちはだかる。

 2022年11月、内閣官房が策定した「スタートアップ育成5か年計画」では、将来的にはスタートアップ10万社の創出を目標にしている。またランサーズによると、21年10月時点のフリーランス人口は1577万人で、20年の調査時の1062万人から、約500万人増加した。

 だが、独立を選んだ人たちは「見えない壁」に直面する。社会的信用が落ち、賃貸の入居や住宅ローン、クレジットカードの新規発行において、審査に落ちてしまうのだ。信用度を測る各業界の審査制度は旧態依然としたままで、新しい働き方に対応できていない。

 「10件以上の入居審査に落ちたことで、引っ越しが半年遅れ、仕事にも支障が出た。今後の見通しが立たず、ぼうぜんとした」。そう話すのは、フリーランス広報の鈴木由美さん(仮名、40代)だ。

 大手広告代理店に勤めていた鈴木さんは6年前、結婚を機に地方へ移住し、独立した。その3年後、夫婦で東京へ拠点を移し、都内で家を探すことに。夫は都内の会社に転職活動中だったため、世帯の収入源である由美さんの名義での契約を念頭に置いていた。フリーランスは正社員よりも審査に通りにくいとは知っていたが、数百万円の年収を得ていたこともあり、楽観していた。

 だが、現実は厳しかった。確定申告書など必要と思われる書類をそろえて臨んだが、10件以上申し込んだ全てで審査落ち。鈴木さんは原因を調べるため、個人信用情報機関に問い合わせ、個別に信用を確認したが問題はなかった。

 「もしかしたら私の(フリーランスという属性の)せいかも」。そう考えた鈴木さんは、中小規模の企業へ内定が決まった夫の名義での契約に変え、申し込んでみた。すると「スムーズに一発で通った」(鈴木さん)。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り1342文字 / 全文2177文字

【5/16締切!】春割・2カ月無料 お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題