PCスキルや文書作成でひと稼ぎ 本業にはない楽しさも
副収入はこう稼ぐ(下)
特技や経験・知識が気軽にお金に換えられる
個人が自分の得意技(スキル)を"出品(登録)"できるマッチングサイトが「ココナラ」だ。文書作成やイラスト制作など、自分が持っているスキルを登録し、個人や会社から仕事の依頼が来るのを待つ仕組み。
仕事の内容も依頼人が現れるかも、登録者の腕前やアピールの方法次第だが、実際にはクリエーティブな分野だけでなく、ビジネス分野、各種相談など、あらゆるスキルが取引されており、多くの会社員が終業後や土日を使って副収入を得ている。仕事内容や頻度にもよるが、月5万~10万円を手にしている会社員は珍しくない。
今、盛んに取引されているのがECサイト構築や動画制作など、企業のDX対応を支援するスキルだ。支援と言っても業者に頼むレベルではなく、職場の悩みを解決してくれるITリーダーが欲しいといったニーズが多いという。
「得意技など持っていない」という人も多いだろう。だが、ココナラでは経験・知識なども出品できる。例えば食品業界に勤めている人が、食品業界志望の学生の就職相談に乗るといった具合だ。
スキル販売に興味を持ったら、まずは自分がどんなスキルや経験・知識を持っているか棚卸しをしてみよう(右表)。そして、そのスキルが売れているかどうかをココナラで検索してみる。売れそうだと思ったら、取りあえず出品してみて、反応を見ながらプロフィルの内容などを工夫してみる。出品すると意外な仕事のリクエストが寄せられ、それが人気化するといったこともあるそうだ。
ネットで完結でき、空いている時間を使って得意なことや好きなことで稼げるのは会社員の副収入作りとしては理想的だろう。実際にココナラに登録して副収入を得ている3人のケースを見ていこう。
●ケース1 売り上げ管理ツールの作成―――――
業務ソフトを受託開発 定年後の収入づくりも視野
はこにわガジェットさん(仮名)は副業歴20年。オークションサイトやアフィリエイトなど、色々なネット稼ぎに挑戦してきたが、現在は2016年から始めたAccess(データベースソフト)を使った売り上げ管理ツールの受託開発、Accessの使い方のオンラインレッスンがメイン。月約10万円、年間で100万円以上の副収入をコンスタントに得ている。
受託開発といっても大規模なシステムの開発ではない。小規模な会社や商店で、現場の人がExcelを使ってこなしている売り上げ管理などをAccessに移植したり、新たに管理ツールとして開発したりするといった内容。これは以前勤務していた会社で身に付けたスキルだ。
実は最初に出品したのは、同僚からうまいと褒められていた「プレゼンテーション」のスキル。プレゼンの改善はニーズがあるのではないかと考えたのだ。ところが1件500円という最低価格で出品したにもかかわらず、ほとんどニーズがなかった。一方、Accessの受託開発は、たまたま出品したら当たったというのが実情だ。
この時、悟ったのは「何が売れるかは出品してみないと分からない」ということ。そして、売りたいスキルより、ニーズがあるスキルを打ち出すことの重要性だ。
定年後も稼げる態勢を作る
副収入を得るために使っている時間は月20時間以上。依頼が立て込むと60時間近くにもなる。しかしツール開発の作業自体は楽しく、時間がたつのを忘れて没頭してしまうこともあるという。
はこにわさんの本業はスマホアプリ開発会社の企画職だ。最近、中小企業診断士の資格も取得した。受託開発を本業に据えるつもりはないが、ある程度大きな収入の柱に育てていきたいと考えている。
「何歳か分からないが、いずれ定年を迎え、本業の給料は途絶える。その時までに自分の力で稼げるようになっておきたい。販売管理ツールは売り切りではなく、継続的な依頼もある。自分に付いてくれているお客さんも増えてきた。中小企業診断士の資格を生かしたコンサルティング、ツール受託開発、そして本業という収入の柱が3つある態勢を早く確立したい」
●ケース2 似顔絵・LINEスタンプの制作―――――
「イラストで稼いでみたい!」 ネットの副業で夢を実現
IT企業で働く佐藤あかねさん(仮名)は平日夜と土日にイラスト制作などの仕事をこなし、月3万円前後の副収入を得ている。始めたのは1年前だが、最近では企業からの依頼も増えてきており「いつかイラストで一本立ちできれば」という目標も抱き始めた。
もともと小物を作ったり絵を描いたりすることが好きだった佐藤さん。だが、本業の仕事内容は3次元モデルのデータ制作とB2Bの営業で、小物にも絵にも縁はなかった。ただ、美大出身ということもあり「イラストを描く仕事をしてみたい」という淡い思いはずっと抱いていたという。ネットで仕事を請け負うクラウドソーシングというサービスがあることも知っていた。それでも動かなかったのは、本業でそれなりの収入があった上に、クラウドソーシングはプロのもの、自分には縁遠い世界だと考えていたからだ。
踏み出したらポンとできた
「絵は趣味でいいか」と、芸能人の似顔絵などを描いてネットにアップし、「いいね」をもらってイラスト仕事への思いを紛らわせていた。そんなある日、家族にココナラを勧められる。イラスト仕事のチャンスが簡単に手に入ると知り、早速、登録してみた。
佐藤さんが得意なのは油絵タッチの似顔絵(左)やリアルな動物(右)、食品のイラストだ。どのような依頼が来るか分からなかったが、出品してみると、結婚式の2次会会場入り口に置くウエルカムボードの新郎新婦の似顔絵、贈り物、LINEスタンプのイラスト(中)、教科書の挿絵など、思わぬ依頼が次々と舞い込んだ。
お金を稼ぐ以上に、イラスト仕事をしたいという思いが原点にあるので、今は収入を増やすことより、できるだけイラスト仕事の実績を積みたいと考えている。とは言え、家族と過ごす時間も大切にしたいので、受注や進行の管理にはかなり気を使っている。
「振り返ると、登録をする時は勇気が必要だった。けれど一歩踏み出してしまうとポンとできてしまったという気がする。登録は無料だし、店舗もサイトも必要ない。もし、こんなスキルは売れないだろうかと少しでも思ったら、登録してみる価値はあると思う」
●ケース3 音声作品のシナリオ作成―――――
文章がお金になるのが新鮮 意外なニーズにも驚き
「在宅勤務でできた時間を有効活用したいな」と考えて行動を起こしたところ、シナリオ作成という副収入づくりにたどり着いたのが中島ユウさん(仮名)だ。「シチュエーションボイス」という朗読劇や、スマホ用ゲームのシナリオ制作を中心に、文章を書いて月3~4万円の副収入を得ている。
IT企業でマーケティングの仕事に就く中島さん。本業からの収入に満足しており、副収入が欲しいと考えたことはなかった。ところがコロナ禍で勤務先が完全在宅勤務に移行。通勤時間や残業時間などがなくなり、1日2~3時間の余暇が手に入ってしまった。
この時間を有効に活用できないかと考えていたところ、友人から「ヒマなら手伝って」と、女性向けメディアに載せる記事の執筆の仕事を頼まれた。アルバイト感覚で受けたが、書くには調べ物の時間がかなり必要。それで収入は月1万円。友人には「単価上げるから」と引き留められたが、割に合わないので3カ月でやめてしまった。
文章がお金になるのが新鮮
ただ、文章を書いてお金をもらうという感覚は新鮮だったし、自分は文章を書くことが好きだということも分かった。ライティングは時間の有効活用という点でも魅力的。そう考え、ココナラに登録してみることにした。
文書作成といっても色々な分野があるが、中島さんが狙いをつけたのはシナリオ作成だ。ネットでは声自慢の声優の卵などが朗読劇を吹き込んだ音声ファイル「シチュエーションボイス」を販売したり、YouTubeに登録して広告収入を得ていたりする。ココナラを検索してみたところ、この朗読劇のシナリオを書いてほしいという声優の卵や、ユーチューバーがかなりいることが分かった。
依頼者は現れるのかと思ったが、今ではシチュエーションボイスの他に、ドラマCDやスマホゲームのシナリオ作成の依頼も届くようになっている。
「最初は自分が文章が上手なのか、いまひとつ分からなかった。始めてみると意外と需要があることにびっくりしたし、自分の作品が評価されるのはうれしい。楽しさは本業より上。本業に、とは思わないが、しばらく続けようと思う」
(本間健司)
[日経マネー2021年6月号の記事を再構成]
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