EU、ギグワーカー保護へ新法 従業員認定に基準
【ブリュッセル=竹内康雄】欧州連合(EU)の欧州委員会は9日、ネットを介して単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」の保護を柱とする法案を公表した。料理宅配やライドシェアといった仕事を手掛ける個人事業主の不安定な労働環境を問題視。従業員と個人事業主の線引きを明確にする。企業側の負担は増すことになる。
宅配業務などのギグワーカーについては、個人事業主として扱われ、最低賃金や労働災害、年金などの企業による保護が適用されないケースが多い。
欧州委によると、インターネット上で仕事を仲介する企業は域内に約500あり、約2800万人が労働に従事する。欧州委はこのうちの一定数が、実質的な雇用関係があるにもかかわらず、企業の保護が及ばない状態にあると指摘。約55%が加盟国の最低賃金未満の報酬で働いているという。
欧州委は法案と関連文書で従業員とみなす基準を明示した。①企業側が報酬の水準や上限を決定する②電子機器などで労働状況を監督する③服装にルールを設ける――などの基準を設定。少なくとも2つに合致していれば従業員に認定され、最大410万人が対象になる可能性があるという。
米ウーバーテクノロジーズや料理宅配大手の英デリバルー、オランダのジャスト・イート・テイクアウェー・ドットコムといった、業務を仲介する企業側の負担は増える。欧州委の試算では、税や社会保険料の負担は年16億~40億ユーロ(約2000億~5200億円)になる。
欧州委はEU加盟各国と欧州議会での法案の議論・審議を経て成立させる方針だ。記者会見したEUのシュミット欧州委員(雇用・社会権担当)は「働く人が安心して将来の計画を立てられるように、不安定さを減らすことが重要だ」と述べた。ギグワーカーの法的地位を巡っては世界各地で訴訟が相次いでおり、EUの基準が他国の法案や規制に影響を与える可能性もある。
スペインでは今年に入って料理宅配を手掛ける企業に配達員を従業員とすることを義務付ける法令が施行された。デリバルーはこれに反発してスペイン事業から撤退した。英国やフランスでもウーバーなどのギグワーカーを従業員と認める司法判断が出ている。
ウーバーのお膝元である米カリフォルニア州でも、ギグワーカーの権利保護をめぐって企業と労働者側の綱引きが続いている。
州政府はギグワーカーらを原則従業員として扱うよう求める州法を2020年1月に施行。同法に違反し社会保障費などの負担を不当に免れているとしてウーバーとリフトの米ライドシェア2強を提訴し、法廷闘争が続いている。
日本では基本的にギグワーカーを含むフリーランスは自営業者と見なされる。政府は21年3月、フリーランス保護のガイドラインを策定したが、最低賃金や雇用保険などは、依然としてフリーランスに適用されない。
スキルがあり価格交渉力の高いエンジニアなどでは、個人事業主としての地位を望む声もあるが、料理宅配員などからは雇用者と同等の安全網整備を求める声が強い。働き方の多様化に対応した労働法や社会保障制度の再設計が求められている。
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