今年の医療費控除、マイナポータル活用は時期尚早
知っ得・お金のトリセツ(76)
確定申告シーズンたけなわ。なかでも毎年およそ750万の家計が行う「最得イベント」といえば医療費控除だろう。昨年1年間に支払った家族合計の医療費が10万円(総所得200万円以下の場合は所得の5%)を超えた場合、超過部分にかかる所得税+住民税が安くなるアレだ。かつては「イチまーい、ニまーい……」と家族全員分の領収書をそろえて合計を算出、添付して申告したものだった。
領収書添付は不要になったが…
それが令和の今ならクリック1つでデータが自動転記できる! ……と、言い切りたいところだが残念。事態はまだそこまで進展していない。いや、むしろ今年に限っては自ら一歩退化して「力作業」の方がまだ楽な人もいるかもしれない。
カギを握るのはマイナンバーカードの健康保険証化だ。経済対策で7500円分のマイナポイント付与の対象になったので取りかかった人もいるだろう。すでに手続きを終えたおよそ715万人の場合、国税庁の電子申告・納税システム「e-Tax」を使って医療費控除の還付申告をする際、「ワンクリック自動転記」も夢ではない。マイナポータル(政府が運営するマイナカードを使ったオンラインサービス)から自分の医療費通知情報を持ってきて自動転記する機能は実装済みだ。
マイナポータルは9~12月、「お知らせ」は1~10、11月など
問題は2021年分については取れるデータが9~12月分だけであること。1~8月分については別途埋める必要がある。どこからもってくるか? 通常、便利なのは協会けんぽや健康保険組合など各医療保険者がまとめて送付してくれる「医療費通知(医療費のお知らせ)」を使う方法だ。保険診療分についてはここにまとめて載っているはずだ。この記載が1~8月でかつ現時点で手元に届いていれば好都合だが、そうはいかない。
お知らせの対象期間や送付タイミングはあくまで保険者次第だ。10月もしくは11月診療分までカバーした上で翌年1~2月に送付するケースもあれば、例えば協会けんぽのサイトには「令和3年度分は、主に、令和2年10月診療分~令和3年9月診療分までのものを、令和4年1月中旬から2月上旬に事業所様宛(任意継続被保険者の方は自宅)に送付いたします」とある。この場合は2021年分に引き直した上で自分で領収書を基に10~12月分を追加する必要がある。
用語の波に翻弄される
面倒くさい。だが、この程度であれば難しい計算ではない。落ち着いてやればできるはずだが、実際e-Tax上で次々襲いかかる「医療費控除ワールド用語」を解読しながらの操作となると難行苦行だ。マイナポータルから9~12月分のデータをとった後、その他のデータの入力方法について下記の文言で二択を迫られる。
・医療費の合計額のみを入力する(別途作成した明細書を提出してください。)
結局「明細書」は作成する? 提出する? 一読して上の2つの違いを理解した上で、マイナポータルから得た情報と正しく接続できる人がどのくらいいるだろうか。
結論。今年の医療費データについてはなまじマイナポータルと連携しようとせず、従来通りの方法で「お知らせ」を基に「医療費控除の明細書」を直接作成するのが最も簡便な方法だろう。いずれにしても来年からは丸々1年完璧な医療費データがマイナポータルから取れるようになる。医療費控除での活用はそれからでも遅くない。
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
食べたものが体をつくり、使ったお金が人生をつくる――。人生100年時代にますます重要になる真剣なお金との対話。お金のことを考え続けてきたマネー・エディターが気づきの手掛かりをお届けします。