政府 少子化対策はこれだ!児童手当 保育所 奨学金 住宅支援

岸田総理大臣が目指す「次元の異なる少子化対策」の具体化に向けた政府のたたき台。
児童手当の所得制限の撤廃や高校卒業までの延長のほか、親が働いていなくても保育所に預けられる制度や、大学や大学院など高等教育の経済負担の軽減策などが盛り込まれました。
詳細を報告します。
(大場美歩、有吉桃子)

【リンク】政府の少子化対策たたき台 具体的な中身は?今後は【詳しく】

「加速化プラン」

たたき台では、去年、生まれた子どもの数が速報値で80万人を下回り、過去最少を更新したことを踏まえ、2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかのラストチャンスだと指摘。令和6年度からの3年間を集中期間として「こども・子育て支援加速化プラン」に取り組むことを盛り込み、具体策を列挙しています。

児童手当

まずは、経済的支援の強化です。
児童手当について、▼今は一定以上の所得がある世帯には支給しないなどとしている「所得制限」を撤廃するとともに、中学卒業までとなっている支給対象年齢を高校卒業までに延長するとしています。
また、▼子どもが3人以上の多子世帯への支給額を諸外国の制度も参考に見直し、増額する方針です。
所得制限の撤廃をめぐって、政府内では▼今の制限をすべて撤廃し、所得によらず一律に給付するよう制度を改めるべきだという意見の一方、▼親の所得によらず、すべての子どもに何らかの給付を行うようにするが、一定以上の所得がある世帯への減額措置はやむをえないという意見もあります。
政府は、多子世帯への支給額増額の検討も含め、今後、対象や金額などを財源の議論とあわせて検討し、6月の「骨太の方針」の取りまとめまでに結論を得るとしています。

出産費用の保険適用

出産にかかる費用について、経済的な負担の実情把握や政策効果の検証を行った上で、健康保険の適用の導入を含め、支援のあり方を検討するとしています。

子どもの医療費めぐり

続いては、子どもの医療費の負担軽減をめぐる対応です。
これまで、小学生以上の子どもの医療費を独自に助成している自治体に対し、厚生労働省は、必要のない受診が多くなり、医療費の増加につながるおそれがあるとして、国からの国民健康保険の補助金を減らす措置をとってきましたが、少子化対策を進める観点からこの措置を廃止するとしています。

給食費の無償化

学校給食費の無償化については、給食を提供している学校の割合やすでに自治体が行っている保護者の負担軽減策の実施状況なども確認し、課題の整理を行うとしています。
今後の見通しについて、ある文部科学省の幹部は取材に対し、「実態を調べて少子化対策や子育て支援に効果がないということになれば、そこまでだし、効果がありそうとなれば、どうやって実現していくか考えていく」と話しています。

奨学金など

一方、大学や大学院など高等教育にかかる負担を軽減するため、▼貸与型の奨学金については、卒業後の月々の返還額を減らす「減額返還制度」を利用できる年収の上限を今の325万円から400万円に引き上げるとしています。
また、返還時期と子育てが重なった場合の経済的負担に配慮した対応を行うとしています。
▼給付型の奨学金については、令和6年度から理系の大学生や実家が多子世帯である学生などを対象に、世帯年収が600万円程度までの中間層に拡大するとしています。
また、授業料について、▼在学中は支払わず、卒業後に、所得に応じて納付する新たな制度を、令和6年度から修士課程の大学院生を対象に先行導入し、拡充を図るとしています。
納付が始まる年収の基準は300万円程度とし、子育て期は、例えば子どもが2人いる場合、納付が求められる年収の基準を400万円程度にすることを想定しています。

住宅支援

さらに、子育て世帯の住まいの支援として▼公営住宅などへの優先入居のほか、▼住宅を取得する際の金利負担を軽減するため、住宅金融支援機構が民間の金融機関と連携して取り扱う長期固定型の住宅ローン「フラット35」について、特に多子世帯に配慮するとしています。
住宅ローンの支援充実について、ある政府関係者は、取材に対し、「今の時点で言えるのはローン金利の優遇ということだが、今後、民間の金融機関との調整が必要だ」と指摘しています。

保育士の配置基準

ここからは、子育て世帯を対象とするサービスの拡充策です。
保育の質を向上させるため、積み残しの課題となっていた1歳児と4・5歳児の保育士の配置基準を改善し、◇1歳児については今の「子ども6人に保育士1人」から「5人に1人」に、◇4・5歳児については「30人に1人」を「25人に1人」にするとしています。

保育所「こども誰でも」

また、保育所の利用要件を緩和し、親が就労していなくても子どもを時間単位などで預けられる「こども誰でも通園制度」の創設を検討するとしています。

育児休業など

続いて、両親が共に働き、共に子育てする環境を整えるための施策です。
▼育児休業給付について、出産後の一定期間内に両親が「産後パパ育休」制度などで共に育休を取得した場合、最長4週間は、給付金額の水準を今の「休業前の賃金の67%」から「8割程度」に引き上げ、手取り収入が変わらないようにするとしています。
また、▼子どもが2歳になるまでの間、時短勤務を選択した場合にも手取り収入が変わらないようにする給付制度を創設するとしています。
さらに、▼育休を取得した人の職場の同僚にも「応援手当」を支給するなど、育休を取得しやすい体制を整備した中小企業への助成措置を大幅に強化するとしています。
このほか、▼1週間の労働時間が20時間未満の非正規雇用の労働者でも、育児休業給付などを受けられるよう、雇用保険の適用拡大に向けた検討とともに、▼育休の制度がない自営業者やフリーランスなどへの支援策として、今の産前産後の4か月に加え、育児期間中も国民年金保険料を免除する制度の創設に向けた検討を進めるとしています。

「こどもファスト・トラック」

このほか、「社会の意識改革」の一環として、国立博物館などの国の施設で、子連れの人が窓口で並ばず、優先的に入場できる「こどもファスト・トラック」を新たに設け、こうした取り組みをほかの公共施設や民間施設にも広げていくとしています。

今後は

政府は、4月にも、岸田総理大臣をトップに、▼小倉少子化担当大臣ら関係閣僚や▼経済・労働団体の関係者などの有識者、それに▼子育ての当事者などによる少子化対策に関する新たな会議を設置する方針です。

そして、今回のたたき台をもとに、詳細な施策の内容や予算規模、それに財源を具体化し、6月の「骨太の方針」の策定までに将来的な「子ども予算倍増」に向けた大枠を示すことにしています。
ある政府関係者は、取材に対し、「今回のたたき台は、内容面でも規模面でも十分に『次元の異なる』と言えるのではないか」と話しています。
一方、別の政府関係者からは、「全ての政策を集中期間の3年以内にやれるかどうかは、変数がかなり大きく、わからないところがある。財源のメドが立たなければ、政策が落ちる可能性はある」という指摘も出ています。
岸田総理大臣としては、最大の課題と言える財源面も含めて、一連の検討を新たに設ける会議でみずから主導し、加速させたい考えです。

政治部記者
大場 美歩
新聞社勤務の後、2010年に入局。長野局を経て2020年から政治部。厚生労働省で医療や年金を取材。2022年夏から官邸クラブ。こども政策などを担当。
政治部記者
有吉 桃子
2003年入局。宮崎、仙台、横浜局などを経て、現在は政治部で社会保障などを取材。夫と分担しながら、小学生と保育園児の2人の子育てと仕事をなんとか両立中。