これは、派遣社員である佐藤さんのお話です。
佐藤さんは「ナレーター」としてテレビ番組のナレーションや企業のプロモーションビデオでのナレーションをしています。一方で、化粧品会社で派遣社員として社内SE業務にて活躍中、という一面もあります。
佐藤さんがどうして派遣社員として働きながら、ナレーターをやっているのか。なぜ派遣社員という働き方を選んだのか。どのようにしてナレーターになったのか。様々なことを探っていきました。
佐藤さんはナレーターのお仕事をされているということですが、昔からの夢だったんですか?
いえ、学生時代から将来の夢は何も決まっていなかったです。それで、卒業してからパソコンスクールや資格スクールを展開する会社に入りました。
なぜパソコンスクールや資格スクールを展開する会社へ?
いろんな人と接する仕事がしたかったのと、自分の強みとしてパソコンのスキルを身につけておこうと思ったからですね。
社会に出て3年で挫折を味わい、病室で人生を見つめ直した
実際、社会に出てみてどうでしたか。
ええ、大勢の「個人のキャリア」に向き合う仕事でやりがいはありましたし、パソコンスキルも身につきました。仕事のやりがいも非常に大きくて楽しかったんですが、当時は自分のキャパを把握しておらず、体調面でかなり無理をしてしまったようで…… それで、3年目の時に体調を崩してしまって。
え、大丈夫だったんですか?
大事をとって4日間ほど入院することになってしまいました。
あらら、それは大変でしたね……
お休みしている間に色々と考えました。「このままだと自分の命を削っていくことになるかもしれないな」と。でも、この仕事ではそんなに命を削りたくないなって思っちゃって。
命を削ってまでやりたい仕事だったのだろうか、と。
はい。それで、「本当にやりたいことってなんだろう」って考えたんです。
ご自身のキャリアとか人生を、足元から見つめ直したわけですね。
小さい頃から憧れていた「声の仕事」への挑戦
ええ。わたし、小さい頃からアニメが好きで。
どんなアニメですか?
小学生の時からテレビっ子で、『犬夜叉』とか『コナン』とか。あと、『コードギアス』とか『ローゼンメイデン』も好きで観てましたね。
本当にアニメが好きだったんですね。
そうですね。仲良くなる友達もオタクの子が多くて。タレントやアイドルよりも、アニメのほうが親しみを持てていました。
なるほど、それで声優に興味を持ったということですか。
はい。ただ、漠然と「声優さんはすごいなぁ、かっこいいなぁ」と憧れていただけでしたね。将来のことを具体的には考えていなかったので、『自分の仕事』として捉えることはありませんでした。大学生になったらアニメからも離れてきちゃって。
では、どんなきっかけで再び「声の仕事」に興味を持つように?
社会人になってから、夜に疲れて帰ってきて、BGM代わりになんとなくつけたテレビにいつの間にか引き込まれている自分に気づいたんです。
それは何に引き込まれていたんでしょう? アニメですか?
いえ、ニュース番組ですね。夜にやってるニュース番組のナレーションを聞いていて。それで「なんでこんなに引き込まれるんだろう?」って考えてみたら、ナレーターさんの喋っている声とか言葉のリズムに引き寄せられていたんだな、と思って。
ナレーターのすごさに気づいた、と。
ええ。アニメの声優さんもキャラクターに声を当ててるわけですけど、ナレーションってキャラクターもない黒子的な存在なのに、存在感があるところが「すごいな」と思って。
それで再び声の仕事、特に「ナレーターになりたい」と思ったわけですか。
そうです。入院中に改めて考えて、「20代のうちに、やりたいことへ挑戦しよう」と思って。そうして、会社を辞めたんです。
ナレーターの仕事を受けていくには、派遣のほうが良かった
会社を辞めてから、どうしたんですか?
ナレーションのスクールに通いはじめましたが、もちろん働いていかないとお金はないので、そこで初めて派遣という働き方を選びました。
派遣で働きながらスクール通い、という生活。
はい。前職でパソコンスキルは身につけていたので、事務職として週5日フルに夕方まで働いて、夜になったらスクールに通うっていう生活を1年半ほど続けていきました。
スクールを卒業したらお仕事が入ってくる感じですか?
いえいえ。新人ナレーターにはポツポツと飛び入りで入ってくる感じです。
飛び入りで。
ええ、「この日にいけるナレーターを探してるんだけど、空いてますか?」みたいな感じで連絡をいただくことが多いんですよね。
それだと、正社員で働いていたら難しいかな、と?
私も前職でそうでしたが、正社員だと「自分の都合で休む」って言いづらいと思うんです。フレキシブルに働くなら派遣のほうが融通は利きやすいのかなと思って、それで派遣という働き方を継続していきました。
ナレーターの仕事を受けていくには派遣のほうがいいかもしれない、と。
ええ。そうして、フルで働いていた派遣は元々期間限定だったので半年くらいで終了して、また新たに探しはじめたんです。今度は、スクールにも集中したいと思って、週5日ではなく週3〜4日の事務職の派遣を。
週3~4日の条件で事務職だったら割とありますよね。
ええ、そうなんですけど。他にも条件が2つありまして……
ナレーターの仕事をするために譲れなかった『条件』
他にも条件ですか。それは、どんな?
まずは「髪色自由」ですね。見てのとおり髪を明るく染めていて、黒や茶色に戻したくないなと。
なぜそこまで髪色に強いこだわりがあるんでしょう。
特徴的な見た目のほうが、収録現場に行って初めてお会いする制作スタッフの方々にも覚えてもらいやすいかなぁと思って。「あのピンクの髪の子!」みたいな。あと、人見知りで初対面の方とお話しするのが苦手なので、せめて外見で明るい印象を持たせようかと(笑)
なるほど。もう1つの条件は?
もう1つは「高時給」です。港区に引っ越したいと思っていたんですけど、家賃が高いんですよね。
港区だと確かに高そうですね! 住む場所もお仕事と関係しているんですか。
そうです。「六本木や赤坂近辺に住んでいると、テレビ局にも近いから仕事の幅が広がることがある」って話を聞いたことがあって、それで実際に引っ越したんですよ。
それは時給面も大切ですよね。で、3つの条件で探してみてどうでしたか?
事務職で「週3日」だったら少なからずありましたけど、「髪色自由」で「高時給」までいくと少ない案件がさらに少なくなって。4~5社ぐらい派遣会社に登録して探しましたけど、ほぼゼロの検索結果になってきちゃって。
あらあら。
そんな時に、唯一テンプスタッフが見つけてくれたんです。「紹介できる仕事がありますよ」って言われたときは、本当に嬉しかったですね。週3日の事務職でも少ないだろうに、「お仕事が豊富にあるんだな」って驚きました。
そうでしたか。それは良かったです。
そして、全国ネットの朝の情報番組へのレギュラーが決定
それで、化粧品会社の社内SEとして働かせてもらうようになったんですけど、港区に引っ越した直後ぐらいに、早朝の情報番組に週1でナレーションさせていただくことが決まって。
情報番組でナレーション! それはすごい!
化粧品会社の皆さんも応援してくれているので、すぐに週1の番組収録に支障がないよう働く曜日を変えてくださって。さらに、最初は慣れなかったので、収録日の前後もお休みをいただいたりとか、午後半休をもらったりとか、色々と調整しながら働いていました。
理解のある企業さんで良かったですね。
ええ、本当に助かりました。その番組はもう終わってしまったんですけど、その後も特番のクイズ番組でナレーションを担当させていただいたりしたので、「今後レギュラー化したらいいなあ」と思っているところです。
そうですか。ナレーターとしての今後の目標は何かありますか?
自分の声が出ている番組で、少しでも誰かを元気づけられたらいいなと。その番組を観ている間だけはリラックスして、その人が何か希望を感じられるような時間を提供することができたらいいなって。
ご自身が昔そうだったように。
そうそう、そうですね。
改めて、佐藤さんにとって派遣という働き方は合っていると感じますか?
はい。私にとっては派遣という働き方が、“夢”だったナレーターを“目標”にまで落とし込んでくれたような気がしています。それに、派遣って働ける期間に制限があったりして「職場を変えなきゃいけない」って時もあると思うんですけど、ナレーターにとっては逆にそれが良いなと思っていて。
「職場を変えなきゃいけない」ことが逆に良い、というのは?
知識や経験としていろんなことを学んでいたほうがいいと思うので、「いろんな企業に行って、様々な仕事を幅広く知ることができるチャンスがある」っていうのは良いことだと思うんです。だから、派遣という働き方はすごく合ってるなと思って。
ナレーションにも活きてくる、というわけですね。
ええ、しっかり活かしていきたいと思います。