記者会見は、会の共同代表となった映画監督の是枝裕和氏(写真中央)、諏訪敦彦氏(写真中央左)の他に、(左から)内山拓也、岨手由貴子、船橋淳、西川美和、深田晃司の各監督が出席した。
画像:熊野雅恵
このままでは日本の映画界に未来はない ── 。
コロナ禍による映画館の閉鎖、撮影現場を支えるスタッフの長時間・低賃金労働、そして相次ぐハラスメントの告発など、日本映画界のさまざまな問題が今、浮き彫りになっている。
こうした状況を改善し映画製作の持続可能なシステムを作ろうと、是枝裕和、諏訪敦彦ら7名の映画監督が「日本版CNC(セー・エヌ・セー)設立を求める会/action4cinema」を立ち上げた。
CNCとは1946年に設立されたフランスの国立映画映像センターのことだ。劇場、公共放送/ペイTV、ビデオ・VOD(ビデオ・オン・デマンド)の一部を財源として、映画製作や興行を支援する仕組みを持っている。
会発足の記者会見が6月14日、開かれた。
20代スタッフが映画界から消えていく
「日本版CNC(セー・エヌ・セー)設立を求める会」記者会見に出席した、映画監督の是枝裕和氏。
撮影:熊野雅恵
2008年以降、日本における映画の興行収入はほぼ毎年増収を続けており、コロナ禍前の2019年は約2611億円と過去最高を記録した(日本映画製作者連盟のデータ)。
その一方で、現場を支えるフリーランスのスタッフたちは苦境に立たされている。
経済産業省が2020年に発表した「映画制作現場の実態調査」によれば、現場を支えるフリーランスのスタッフのうち、映画制作を通じて得る収入が年収300万円未満の人は6割強にものぼるという。さらに同調査では、6割以上が製作サイドと契約を交わしていないことも明らかになった。
日本芸能従事者協会が実施したアンケートによると、フリーランスで芸能に従事する人のうち、半数近くがハラスメントを受けた経験があり、半数以上が「睡眠時間は4~6時間」と回答している。さらに4割弱が「仕事が原因でこのままでは生きていけないと思ったことがある」とも回答しているという。
また、過去21年間で製作された大作映画における女性監督の割合が32人に1人(Japanese Film Projectの調査)という、圧倒的なジェンダーバランスの欠如も指摘されている。
現在30歳の内山氏は「特に労働環境の悪化により、20代のスタッフが映画の世界から消えていく現状を改善したい」と語った。
映画製作を包括的にサポートする機関
会の設立経緯は、コロナ禍にあった。
緊急事態宣言によって全国の小さな映画館が苦境に立たされる中、諏訪氏や是枝氏らが発起人となって「SAVE the CINEMA」という団体を設立。劇場存続のための財政的なサポートなどを国へ求めたり、クラウドファンディングを呼び掛けたりした。
諏訪氏によると、経済産業省や文化庁、その関連団体が若手育成や海外展開などをそれぞれ支援する一方で、「映画」に特化して包括的にサポートする機関は存在しなかったという。
先述の通りCNCは、劇場や配信事業者、ビデオ事業者などと連携しながら、映画製作や興行を一括して支援する。
画像:記者会見資料より
2021年3月には「日本版CNC(仮称)発足に向けて~映画界の共助システムの構築~」という提言書を提出し、現在まで活動を続けてきたという。CNCをモデルにして作られたKOFIC(韓国映画振興委員会)も参考に、制度作りを進めるとする。
画像:記者会見資料より
興行収入の一部を新たな映画製作へ
「日本版CNC」とはどのような機関を想定しているのか。発表資料によると、製作や流通から教育・労働環境の改善まで、映画界への長期的な投資をしていくことがうかがえる。
画像:記者会見資料より
財源については、映連(日本映画製作者連盟、東宝・松竹・東映・KADOKAWAを会員とする団体)から支援を受けようと1年ほど前から話し合いを進めている。ただ、調整は難航している状況だ。
また配信業者や放送業界からの資金援助については、これから交渉を始める段階であるとも明かされた。
諸外国には、包括的に映画を支援する機関が存在する。日本にはそれがなく、支援の総予算も比較的小さい。
画像:記者会見資料より
「まずは映画業界が一枚岩となり、そこで初めて公の機関と連携できると認識している。また、日本ではスポンサー側が表現行為について『お金は出すが口は出さない』という、アームス・レングスの原則(相互に適切な距離を保つ)が徹底していない。この点についての意識改革も必要だ」(是枝氏)
賛同者の一部の声として、俳優の役所広司氏からのビデオメッセージ、助監督の石井千晴氏、俳優の仲野大賀氏、水原希子氏からのメッセージが紹介された。
ビデオメッセージを寄せた俳優の役所広司氏。
画像:記者会見資料よりキャプチャ
是枝監督は、会見の中で海外の映画祭やマーケットの中で、日本映画の存在感が薄くなってきている点についても指摘した。黒澤明、溝口健二、今村昌平監督などの実写作品が世界の映画賞を受賞した歴史を持つ日本映画界は、かつての輝きを失いつつある。
日本版CNCの目指す姿について、是枝監督は
「映画には文化と産業の両面がある。それらを切り離して考えるのではなく、広い視野を持って一体として捉えて取り組んでいく。映画製作を次の世代へつないでいくために、映像産業に関わる全ての人たちが、安定した収入を得て、結婚して子どもができても離職せずに済むような環境づくりをしていきたい」
とコメントした。