プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下「フリーランス協会」)が、2023年10月1日のインボイス制度(適格請求書等保存方式)導入に備え、フリーランスの報酬適正化を推進する啓発キャンペーンの第一弾として「インボイス2%~アクション(読み方:インボイス ニパーアクション)」を展開。

先日、その取り組みのオンライン発表会に参加し、取り組み内容や、そこに至るまでの経緯などについてフリーランス協会の代表理事の平田麻莉さんに話を伺った。

  • フリーランスで働く人が直面する「インボイス」制度への理解

フリーランスが直面している本質的な課題とは?

2023年10月インボイス制度の導入まで、残り半年近くになってきた。しかし、どういう制度なのか、いまだその制度内容を把握できずに不安を抱いているフリーランスは多いようだ。

1年前の調査になるが、フリーランス協会が2022年3月に発行した「フリーランス白書2022」のインボイスへの対応検討状況の調査結果でも、43.2%の人が「わからない/答えたくない」と答えている。つまり、「制度がわかりにくい」「判断材料に乏しい」などと思っている人が約半数も占めているのだ。

  • 出典:「フリーランス白書2022」

そんな現状を踏まえ、平田さんは、フリーランスがいま直面している4つの本質的な課題について、次のように解説した。

(1)免税事業者と発注企業との間に値付けに関する大きな認識齟齬があること

「免税事業者にとって消費税相当分は「益税」になると認識されている人がいます。これは消費税法に詳しい税理士の間では一般的な認識だが、免税事業者のフリーランスの視点は全く異なります。というのもフリーランスがそもそも消費税納付のない前提で、その仕事を受けるか判断したり、もしくは、値付けをしたりしているからです。つまり、その消費税分(益税)のディスカウントの恩恵を受けているのは、受託しているフリーランスではなく発注者の方になります。ここに大きな認識の齟齬が生じています」

(2)免税事業者への消費税転換拒否

フリーランス協会が2021年10月に発表した実態調査の結果では、調査対象者の4分の1は消費税の請求支払いを拒否された、もしくは請求できていない経験があり、今でも拒否され続けているという方がまだ1割近くいる。

  • 出典:「フリーランスの消費税の転嫁の実態や請求業務に関する実態調査」

また、売上先からもらう支払書や明細書の中に、消費税が記載されている人が、免税事業者と課税事業者で23.8ポイントの開きがあると言う。

「免税事業者の約半数が、明示的な消費税支払いを受けておらず、『そもそも免税事業者は消費税を支払わなくてもいい』、もしくは受け手からすれば『消費税をもらえていない』という認識が蔓延しているように思われます。このままの状態でインボイス制度を導入すると、免税事業者には消費税が支払われずに『その分値下げするよ』という話になる可能性があります」

(3)法令違反行為の周知不足

財務省では、インボイス制度への対応過程において生じる可能性のある、3つの法令違反行為が整理され、注意喚起が行われている。しかし十分に認知されていない状況がある。

事例1 免税事業者であることが請求段階で判明した時に、その消費税相当分を支払わない。これは「下請代金の減額」で、下請法違反にあたる。
事例2 課税事業者になったにも関わらず、価格交渉には応じず、一方的に単価を据え置いて発注する。これは「買いたたき」として下請業違反のおそれがある。
事例3 消費税転換を求める際に、課税事業者にならなければ「消費税を支払いません」もしくは「取引を行いません」というような要請を行うこと。このように一方的に通告することは、独占禁止法問題に抵触するおそれがある。

「法令違反の恐れがあるにもかかわらず、このような事例が頻繁に起こっている状況です」

(4)生活ギリギリの低報酬

業界によっては、インボイス制度以前の問題として、著しく低い報酬で、ギリギリの生活を強いられているフリーランスの方が多数存在している。

これは発注者とフリーランスの間に、大きな力関係の差があることが要因である。その背景としては、限られているポジションに対して、その仕事をやりたい担い手が非常に多く、受給バランスがよくないこと。それから特定の発注企業への依存度が高いことが挙げられるようだ。

「こうした業界では、インボイス制度による負担増はフリーランスが被る、もしくは、被らなければならないということが発注企業側だけではなく、当事者であるフリーランス側の認識としても持っているように思います」(平田)

「インボイス2%~アクション」とはどんなキャンペーンなのか?

4つの本質的な課題を改善するために、フリーランス協会はインボイス制度導入に向けては、次の3つのことに備えていくと言う。

1.免税事業者か課税事業者かに関わらず、消費税がきちんと支払われること
2.消費税を納税しても、適正利益が得られる報酬設定がなされること
3.法令違反になり得る事例が発注者に広く周知徹底されること

また、これら3つの備えについては、発注者側だけでなく、フリーランスも含めて、みんなが意識しなければ本質的な課題解決ができないため、今回フリーランス協会では3回に分けて啓発キャンペーンを仕掛けていくと言う。

その第一弾が「インボイス2%アクション」である。これは、新たに課税事業者になることを選択するフリーランスが少なくとも2%以上の価格交渉に挑戦できるよう後押しする報酬適正化の啓発キャンペーンである。

  • 「インボイス2%アクション」のロゴ 提供:フリーランス協会

「課税対象者になるフリーランスの価格交渉の挑戦はもちろん、免税事業者のままでいるというフリーランスの方は、報酬維持の取引継続の交渉も後押しします。一方フリーランスとの取引を行っている企業や仲介事業者には、新たに課税事業者に転換するフリーランスの報酬を最低2%以上の値上げ、もしくは免税事業者のフリーランスには報酬据え置きで取引の継続を求めていきます。そして仲介事業者や、ステークホルダーや発注の上流側に対して、インボイス制度によるフリーランスへの影響についての配慮を促していきたいと考えています」

ちなみに、「2%の意味」とは、免税事業者がインボイス発行事業者になることを選択した場合に、売上に対して新たに納めることになる消費税額の割合のこと。2022年末に発表されたインボイス負担軽減装置の2割特例を適用した場合の納税率になっている。

なお、現時点(2023年2月17日現在)ではフリーランス協会が掲げる「インボイス2%~アクション」の賛同企業・団体は7社で、賛同企業各社に登録するフリーランスの合計数は6万2,700名以上となっている。これからもいろんな仲介事業者やフリーランスと取引がある企業に賛同表明していただけるように、このキャンペーンを呼び掛けていく方針だと、平田さんは話す。

フリーランスが不利益にならない活動を目指して

次に具体的な賛同企業の取り組みとして、「フリーランス協会」と、女性フリーランスと企業とのジョブマッチング事業を展開している「Waris」の事例が紹介された。

フリーランス協会では2022年の10月に、事務局メンバーとして活動するフリーランス全員の業務委託報酬を一律5%の値上げを実施し、協業するライターやイラストレーターとの取引価格規定も改訂し、10%以上の値上げを行った。

「Waris」については同社の代表取締役共同創業者の田中美和さんから、登録者への取引継続と、加えて新たに課税事業者となったご登録者の報酬を2%相当アップできるように、マッチング先の企業各社に呼びかけを行っていく旨の説明が行われた。

その他にフリーランス向けの支援として、インボイス制度対応に伴う契約トラブルの実態把握を目的とした「インボイストラブル通報ボックス」※の設置や、弁護士に無料で直接相談できる「フリーランストラブル110番」というサービスを紹介。※紛争解決についてはフリーランス・トラブル110番に相談ください。

またフリーランス協会では「フリーガル」という報酬トラブル弁護士費用保険を会員全員に自動付帯で提供しており、これを利用すれば自己負担なしで最大70万円まで補償されていると言う。

「インボイスが導入される影響などは報道メディアで、よく紹介されていると思いますが、本質的な課題がどこにあり、フリーランスはどのように対応すれば不利益を防げるのかということを伝えているメディアが少なく、そういったことをフリーランス協会はオウンドメディア等の記事を通じて、発信しています」

何年もかけて議論されて一度可決された法律が施行前に改正・廃止されたことは、極めて特殊な場合を除いて前例がなく、そうした現状を踏まえ、10月のインボイス制度の導入前に、フリーランスの不利益をなくすための活動(取り組み)として、キャンペーンに踏み切ったと言う平田さん。

「今回の『インボイス2%アクション』キャンペーンを通じて、フリーランス全体の報酬を適正化して、インボイス制度が導入されても、適正な利益が得られる環境を目指していきたい。そして、インボイス制度の不利益としっかり戦っていくというスタンスで、今後も環境整備に全力を注いでいきたいと思っています」


今回の話を聞いて、私もフリーランスでありながら、インボイス制度導入に対しての準備不足を改めて痛感した。新しい取引先を開拓したり、価格交渉をしたりして不利益を被らない「自分なりの準備の仕方」や「自己防衛」がいま必要かもしれない。

【お詫びと訂正のお知らせ】初出時、本文で「インボイス制度に関わるさまざまなトラブルを相談できる『インボイストラブル通報ボックス』」としていましたが、正しくは「インボイス制度対応に伴う契約トラブルの実態把握を目的とした『インボイストラブル通報ボックス』の設置※紛争解決についてはフリーランス・トラブル110番に相談ください」でした。該当箇所を修正しました。お詫びして訂正します。(2023年3月11日 8:45)