フリーランスは取引相手とトラブルになることもあります。仕事相手はどのように選べばよいのでしょうか。また、自分の仕事の価格はどのように付ければよいのでしょうか。さまざまな分野で活躍するフリーランス5人が集まり、実践的なノウハウを語り合いました。日経ムック『 フリーランス&副業で働く!実践ガイド 』(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会監修)の出版記念イベントの模様をお届けします。今回は後編。司会は、フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんです。

前編 「フリーランスの選択『好きな人としか仕事をしない』は正解か」

仕事相手を選ぶ基準は?

平田麻莉さん(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事)(以下、平田) 日経ムック『フリーランス&副業で働く!実践ガイド』ではフリーランス新法の解説もしていますが、この法律が成立した背景にはフリーランスの契約トラブルが多いことも関係しています。トラブルを未然に防ぐためにも「目利き」はフリーランスに必須のスキルです。みなさんはどのように取引先を選んだり、誰とチームを組むか決めたりしていますか。

清水久三子さん(AND CREATE代表取締役)(以下、清水) 私は幸いにして今までトラブルはないのですが、一緒にお仕事をする際に大事なのは「お互いにリスペクトできる関係」ですね。リスペクトできないなら、一緒に仕事をしないほうがお互いのためです。

 ただ、私の場合、「やり取りで面倒くささを感じた人の場合は受ける」んですよ。意外に思われるかもしれませんが、「この面倒くささの中に自分が知らない世界があるんだろうな」と。全然違う業界の人と仕事をすると、話が違う、何だかすれ違っている気はするけど、この先に何かあるかもしれないなと思っています。

清水久三子さん(AND CREATE代表取締役) 外資系コンサルティング会社で企業変革戦略チームや人材育成部門のリーダーを歴任し、2013年に独立。研修講師や人材育成のコンサルティング、プレゼン指導のほか、フリーランスの値付け交渉のアドバイスを行っている。主な著書に『知識とスキルを最速で稼ぎにつなげる 大人の学び直し』
清水久三子さん(AND CREATE代表取締役) 外資系コンサルティング会社で企業変革戦略チームや人材育成部門のリーダーを歴任し、2013年に独立。研修講師や人材育成のコンサルティング、プレゼン指導のほか、フリーランスの値付け交渉のアドバイスを行っている。主な著書に『知識とスキルを最速で稼ぎにつなげる 大人の学び直し』
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平田 なるほど。自分が心地良いコンフォートゾーンを抜け出すのも大事な視点ですね。

関口照輝さん(ハイライト代表/コルク人事企画/烏森珈琲店主)(以下、関口) 私の場合、身内でチームをつくるにしても、社外でも、「時間感覚の合う人」ですね。やっぱりレスポンスのリズム感が合う人は相性がいいというか。経営者の方は、いろんな人や本、映画などから刺激を受けて、すぐに気持ちが変わったり、思いもよらぬ方向に向かっていたりします。週末に打ち合わせした内容を週明けに資料に落とそうとすると、もうやりたいことが変わっていることが多いんですね。そんなときにちゃんとラリーが続く相手であれば、早い段階で軌道修正ができます。

関口照輝さん(ハイライト代表/コルク人事企画/烏森珈琲店主) 大学卒業後、ファーストリテイリングに入社。その後リクルート、力の源ホールディングスを経て、2020年にフリーランスの人事コンサルタントとして独立。現在は、ハイライトの代表として人事領域事業、コルクの人事、烏森珈琲の店主を兼務している
関口照輝さん(ハイライト代表/コルク人事企画/烏森珈琲店主) 大学卒業後、ファーストリテイリングに入社。その後リクルート、力の源ホールディングスを経て、2020年にフリーランスの人事コンサルタントとして独立。現在は、ハイライトの代表として人事領域事業、コルクの人事、烏森珈琲の店主を兼務している
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日比谷尚武さん(kipples代表)(以下、日比谷) 僕の場合は安請け合いしない、それからクライアントの期待値がアップダウンしないように、事前にしっかりとヒアリングの時間を取ります。クライアントの仕事現場にも行きますし、社長と社員で言っていることが違っていないか話も聞いてみます。場合によっては共通の知人でそのクライアントと仕事をした人を探してみるとか、ステークホルダー(利害関係者)に違う角度から当たるようにしています。ムダに思えるかもしれませんが、「自分がこの人のことをちゃんと応援できるのか」を確認したいからでもあります。

日比谷尚武さん(kipples代表) 学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築などに携わり、新卒でNTTグループへ。2003年、KBMJ(現・アピリッツ)に転職。09年よりSansanに参画し、16年に独立。セクターを横断する「コネクタ」として広報、マーケティング、新規事業の支援、コミュニティづくり、官民連携促進を中心に活動する
日比谷尚武さん(kipples代表) 学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築などに携わり、新卒でNTTグループへ。2003年、KBMJ(現・アピリッツ)に転職。09年よりSansanに参画し、16年に独立。セクターを横断する「コネクタ」として広報、マーケティング、新規事業の支援、コミュニティづくり、官民連携促進を中心に活動する
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平田 それは大事ですね。私も広報が専門ですが、広報って本当に自分が共感していないと結果が出ないんですよね。

宮本恵理子さん(ライター・インタビュアー・編集者)(以下、宮本) 私は違和感がある場合は、早めに伝えます。モヤモヤがたまる前に何でも率直に聞くのは結構大事で、クライアントには本当に悪気がなくてお互いのスタンダードが違うだけ、ということも。フリーランスは取引先が多様で、相手によって「当たり前」が全部違いますから。

 それから私がご一緒したいのは「本当にこれをやりたい」という強い思いを持っていて、そこに自分が共感できる人。お互いに限られた時間の中で仕事をするのであれば、言われたことをアウトプットするだけではなく、その前後で人間関係も良くなり、「お互いに良い時間を過ごせましたね」という思いを共有したいですね。それが結果として次につながるのだと思います。

宮本恵理子さん(ライター・インタビュアー・編集者) 働き方、生き方、夫婦・家族関係などをテーマに人物インタビューを中心に執筆。編集者として、書籍、雑誌なども制作する。2021年からは、ビジネス映像メディア「PIVOT」のエグゼクティブ・ライターとしても活動。主な著書に『行列のできるインタビュアーの聞く技術』
宮本恵理子さん(ライター・インタビュアー・編集者) 働き方、生き方、夫婦・家族関係などをテーマに人物インタビューを中心に執筆。編集者として、書籍、雑誌なども制作する。2021年からは、ビジネス映像メディア「PIVOT」のエグゼクティブ・ライターとしても活動。主な著書に『行列のできるインタビュアーの聞く技術』
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値付けはどうすればいいのか

平田 確かにフリーランスにとって限られた時間をどこに割くかという優先順位付けは、とっても大事ですね。それから、実際に仕事をする際には、「自分の価値をクライアントにどう納得してもらうか」、つまり値付けも難しい問題かと思います。私は見積もりを出すほうがラクなのですが、「提示してもらうほうがいい」という意見もありますね。

平田麻莉さん(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事) 大学在学中にビルコムの創業期に参画。広報の戦略・企画・実働を担い、戦略的PR手法の体系化に尽力。現在はフリーランスとして広報や出版プロデュース、ケースメソッド教材制作を行う傍ら、2017年にフリーランス協会を設立。政府検討会の委員・有識者経験多数。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞
平田麻莉さん(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事) 大学在学中にビルコムの創業期に参画。広報の戦略・企画・実働を担い、戦略的PR手法の体系化に尽力。現在はフリーランスとして広報や出版プロデュース、ケースメソッド教材制作を行う傍ら、2017年にフリーランス協会を設立。政府検討会の委員・有識者経験多数。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞
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宮本 いや、もう本当に難しいですよね。自分自身が無理なくできるのも大事だし、相手に無理させてもいけないし…そのせめぎ合いで、初回にポンッと出た数字が基準になってしまうと、後になって厳しい場合もあります。あえて「お任せします」と言って、自分のフリーとしての市場価値を計ってみるのもよいのかなと思いますが。

日比谷 僕は毎回考えるのが大変なので、「○○なら〇〇円」と価格表を作っています。価格表は、自分の時給としたら最低でいくらぐらいほしいか、それから市場価格、相手の懐事情の3つでバランスを取るようにしています。僕の場合、クライアントがスタートアップで資金が潤沢ではないことが多いので、「最低限これくらいあれば何とかできますよ」という話になることもしばしばですね。大企業から「この予算の中でやってください」と言われたら、「多いです」とは言わずに「ありがとう!」となりますが。予算に余裕があれば、メンバーを増やしたり、クオリティを上げたり、クライアントの満足度を上げられます。

関口 私の場合は、クライアントにサービス業が多く、中小企業だとコンサルティング的なことが初めての会社も多いんですね。先方が思っている値段は、もう未知数です。最初は自分でもどう交渉していいのか分からなかったのですが、1つ参考にしたのが「新卒の給与」です。10万円台~20万円台の基本給で、研修を受けながら、だいたい週に40時間ぐらい働くわけです。それを1つのベンチマークとして、私の仕事の稼働時間がどのぐらいで、どれぐらいのアウトプットがあるかを説明すると、初めてのクライアントともすり合わせがしやすくなりました。

清水 研修業界はだいたい相場が決まっているので、それに合わせてプライスリストを用意しています。ただ、「どうしてもその金額は出せない」というクライアントもいますし、業界によって相場がまったく違うことも。その場合は、どういう意図で私に依頼されているのかを考え、共感が持てたら調整します。私が積極的に関わりたい学校関係などは、最初から出せないと分かっていても「違う業界だから」と認識して受けます。

 ただ、私はもともと研修をお願いする立場だったのですが、依頼した人の料金があまりに安いと不安になるんですね。社員の貴重な時間を研修に使うわけですから、そこでクオリティの低いものを出されると時間のムダになってしまいます。高くても良いものを、と自分でも心がけています。

平田 その値付けを自由にできるのがフリーランスの醍醐味でもありますよね。業界相場や価格表など一定の値付けロジックを持ちながらも、自分の好奇心や共感に応じて柔軟に変えていけるのが、フリーランスならではの働き方だと思います。

 では、最後にみなさんからメッセージをお願いします。

1人の力では楽しめない

清水 私は10年前にフリーランスになったとき、かなり心細い思いをしたんですよね。あの頃、フリーランス協会があれば良かったのにと思います。今はフリーランス協会があり、平田さんをはじめ、心あるみなさんが運営されていますので、ぜひ同志となり、安心・安全なフリーランス生活を送ってほしいと思います。

関口 日経ムック『フリーランス&副業で働く!実践ガイド』にもさまざまなノウハウが書かれていますが、私もフリーランス協会がきっかけで独立しました。フリーランス協会には同志や有効なデータが集まっているので、本当に助けられました。フリーランスとしての働き方、働きがいは可能性だらけです。一緒に盛り上げていけたらうれしいです。

日比谷 私も今日の話を聞いて、やっぱり動画で自分のノウハウを解説するものを制作したほうがいいと思いましたし、先ほどの「あえて相手に値付けを任せてフリーとしての市場価値を計る」というのも、なるほどと思いました。もう、これだけでも今日の学びとなりました。フリーランスは経験や価値観によって一人ひとりのスタイルが違うので、この本やイベントのように、他のさまざまなフリーランスのケースを知る機会を大事にしたいですね。

宮本 フリーランスを始めるときは「自分1人で、自由を求めて」という動機の人が多いと思いますし、私もそうでした。でも、この働き方を続けて、楽しんでいくには、1人の力ではとうてい無理です。積極的にご縁やつながりに頼り、自分もどんどん周囲につながりをつくる仕事をしていくのが大事だと思っています。

イベントでは仕事の獲得方法や値付け、仕事相手の選び方などさまざまなテーマが話し合われた
イベントでは仕事の獲得方法や値付け、仕事相手の選び方などさまざまなテーマが話し合われた
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構成・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子

稼げるフリーランスになる!

フリーランスに必要な仕事の取り方、スキルの身に付け方、価格交渉、時間管理術、快適な環境の確保など、実践的なノウハウを解説。フリーランス新法やインボイスといった新しい法制度のほか、非会社員向けの保険や年金、自分を守るための法律の知識なども取り上げています。

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会監修/日本経済新聞出版/1430円(税込み)