フリーランス新法(正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が2023年4月に可決され、フリーランスの労働環境に革命をもたらす法案として注目されています。

2024年の施行に先がけて、この新法について一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の平田麻莉さんにお話を伺いました。

この記事では、新法の背景や対象範囲、具体的なポイントについて平田さんの解説を通じて掘り下げていきます。フリーランスだけでなく副業をする人も対象になっているので、安心と公平な取引をするためにも内容を把握しておきましょう。

フリーランス新法とは?

Image: 一般社団法人フリーランス協会
Image: 一般社団法人フリーランス協会

――2023年4月に法案がフリーランス新法が可決されました。

フリーランス新法は、一言で言えば自己防衛の盾や印籠になる法律です。発注者に対して義務や禁止行為を課している法律で、あくまでも従業員を雇うなど企業組織として力がある集団は、フリーランスに対して強い立場になりがちなので配慮しましょうという内容となっています。

――対象になる人はどんな人?

新法の対象となるフリーランスは、厳密には「特定受託事業者」という言葉で定義されています。雇っている従業員がいない個人事業者や法人。つまり一人で事業を営んでいる人が、ここでいう特定受託事業者にあたります。

ただし、短期や短時間のアルバイトやアシスタントに手伝ってもらうなど、雇っている従業員が社会保険の対象にならない場合は、フリーランス新法の対象になります。

加えて、事業者として従業員のいる企業組織(特定業務委託事業者)から業務委託を受けていることが条件になります。

たとえば、フリーランスでもベビーシッターさんやハンドメイド作家さんなどの個人を相手に商売している人は、この法律の対象になりません。副業であっても、業務委託で請けている人は、対象になります。

新法が生まれた経緯・これまでの問題点

――その背景について教えていただけますか?

フリーランスとは雇用ではなく、業務委託で働く人たちのことですが、残念なことに契約トラブルがよく起きています。

たとえば、報酬の未払いや支払い遅延、減額、消費税を払ってもらえないなどありまして、その多くが口約束なんです。契約条件がよくわからないまま仕事がはじまって、後から「言った言っていない」の話になったり、心づもりと全然違う金額が振り込まれていたりすることもあります。

――下請法という法律があると思いますが、違いはありますか?

下請法は、契約条件の書面交付や、60日以内の支払いなどのルールが定められています。ただし、発注者の資本金が1000万円を超える場合しか適応されません。

つまり、資本金が1000万円以下の企業がフリーランスと仕事をするとき、そこは無法地帯で、口約束や報酬未払いがまかり通っていたわけです。フリーランスには戦う手段がないから泣き寝入りするだろうって舐められている節があります。

フリーランスのお仕事の単価は数万円から数十万円のものが多く、弁護士を雇って戦うのも現実的ではないからです。だから、泣き寝入りせざるを得ない人が多いんですよ。

私自身も理不尽で全く正当性のない報酬未払いトラブルに巻き込まれたこともありますが、今後のフリーランスの道を切り拓きたいという一心で訴訟提起をしたところ、こちらに非がないことが認められ、結果的に払ってもらえました。

その経験に基づいて、フリーガルという弁護士費用保険を保険会社に作ってもらいました。フリーランス協会の一般会員(有料会員)さんは、年会費1万円に含まれる自動付帯の保険として、報酬トラブルがあった際に、70万円までの弁護士費用が自己負担ゼロでカバーされています。

また、政府のほうでも公的な相談窓口フリーランス・トラブル110番という無料の相談弁護士相談窓口も作っていただきました。

――トラブルになったとき大切なことは?

自分自身の経験も踏まえて痛感したことが、証拠がないとなんのお話にもならないということ。弁護士の力を借りて解決しようにも、口約束だと言った言わないの議論になってしまうので、契約条件だけはメールやチャットでも残しておく必要があります。

相手がチャットを一方的に消して証拠隠滅を図ることもありますが、私はスクショを取っておいたので助かりました。

何が変わる? どう対処すればいいか?

――フリーランス新法の具体的なポイントを教えてください

公正取引委員会管轄の「取引適正化」と厚生労働省管轄の「就業環境整備」という2つのパートがあります。

1つ目の「取引適正化」は口約束をなくすために、取引条件を証拠が残る形で明示してくださいという内容です。

たとえば業務内容や報酬の額ですね。具体的にどういう内容をどういう方法で明示すべきかといった細かい指針は、まさに今、政府の検討会で議論されている最中なんですけども。私の意見としては、必ずしも契約書の締結を求めるのではなく、メールやチャットでも証拠が残せればよいと考えています。

ちなみに、取引条件明示についてだけは、フリーランス同士の取引でも対象になります。フリーランスでもお互い受発注しているケースもあると思いますが、自身が発注者の立場になるときは取引条件の明示が必要になります。

トラブルをなくす上で、お互いのために、契約条件はしっかり確認合意しておこうという趣旨かと思います。

2つ目が支払い期限です。原則60日以内に支払いましょうというルールです。ただ、発注者が孫請けのフリーランスに発注している場合もあるので、再委託の場合は、親元からの入金日から30日以内の支払いでもいいとなっています。

3つ目は、禁止行為。フリーランスに責任がないのに報酬を減額する、何度もやり直しさせる、一方的に発注を取り消すなど。また、正当な理由がなく何かを売りつけたり。うちの仕事をするなら業務に関係なくてもうちの商品買わないとダメだというのはNGということですね。

法律が成立したときに、「そんな当たり前のことができていなかったの?」という声がSNSでありました。会社員の感覚ではあり得ないかもしれませんが、実際は残念ながらできていない業界もあります。

――就業環境整備について教えてください

一つ目は、「虚偽の表示をしてはいけない」です。不特定多数に公開されている求人などの募集情報が対象になります。たとえば、クラウドソーシングで募集時に、嘘や誤解を与える表現で業務内容や条件を示すのはダメですというような話です。ただ、当人同士のやりとりを経て業務内容やミッションに変更が生じる場合など、募集時と契約時で内容が変わることは問題ありません。

2つ目は、出産育児介護の両立配慮義務というのがあります。これはちょっとマニアックにいえば、フリーランスという「事業者」を、法律上の人格だけではなく、初めて生身の人間として捉えた、法律学の世界では画期的と言われる部分です。

たとえば、フリーランスで切迫早産で緊急入院したとして納期を守れないなら賠償請求すると言ったり、本の執筆で8割まで完成していたのに出産や介護で脱稿できなくなったから1円も払いませんとするのはやめましょうと。両立にあたって必要な配慮をしてくださいという義務が課されます

3つ目が、ハラスメントの相談対応の体制整備。ハラスメントの防止措置というのは従業員に対しては義務化されているのですが、フリーランスやインターン生は対象外だったんですね。相談対応の窓口を紹介することや事実確認、再発防止策などが企業に求められるようになるので、安心して働ける環境が整います。

4つ目は、中途解除の事前予告義務。1年間の契約をしていたのに、明日からいきなり来なくていいからとなっても困りますよね。少なくとも30日前には予告しましょうという内容です。

下請法の対象になっている大企業は、今更何を当たり前のことをと思うかもしれません。出産介護の両立配慮やハラスメント対応というのは今までありませんでしたが、基本的には多くの企業にとっては当たり前にできていることなのです。

フリーランスの活動を支えるフリーランス協会について

Image: 一般社団法人フリーランス協会
Image: 一般社団法人フリーランス協会

――なぜ一般社団法人フリーランス協会を立ち上げたのでしょうか?

私自身が広報を生業にしているフリーランスでして、独立して10年以上たちます。

子どもを産んだ後、ひょんなことからワーママ・オブ・ザ・イヤーというのを頂いて、子育て中のお母さんたちからフリーランスになりたいという相談を受けるようになったんですけども、自信を持って背中を押してあげられない自分がいました。その理由は、フリーランスのセーフティネットの薄さをわかっていたからです。

出産や子育て、健康面のセーフティネットが薄いと、一歩踏み出しにくいですよね。これだけ多様な働き方が求められる時代だからこそ、環境整備の必要性を痛感しました。そこで勝手な使命感と勢いで2017年に立ち上げたのがフリーランス協会です。

――フリーランス協会の主な活動について教えてください

フリーランスといっても、多種多様で、バッググラウンドや年収、職種、ライフスタイルも異なります。そんな多様なフリーランスの声を集めて可視化して社会に届けたり、政策提言をして制度設計に協力したり、フリーランスの活躍の場を広げる企業向け啓発活動をしたりしています。

また、民間企業に対して、フリーランス向けのサービスやプランを提供してくれるように働きかけたり、新規事業の開発に協力することもあります。そうしてできたのが、保険や福利厚生を含むフリーランス協会のベネフィットプランです。無料会員でも使えるプランがたくさんあります。

私たちのアンケート調査票が届いている会員やフォロワーの総数が、副業の方を含めて10万人ほど。そのうち、1万6千人くらいが有料の会員として、私たちの活動を支えてくださっています。

会員が増えれば増えるほど、実態調査で拾える声が多くなるとともに、会員の皆さんに対するサービスも充実させられます。フリーランス協会は非営利なので、預かった会費は事務局運営に必要な経費を除き、基本的に会員に還元する方針です。

――最後に、今からできる身を守る方法を教えてください

2020年2月3月の調査によると、国内のフリーランス人口は462万人と言われています。コロナ禍で副業をする人も増えていて、仲介事業者の登録者数も増えているので、おそらく現在はもっと増えているだろうと言われています。

トラブルについても、令和4年度で7000件ほどフリーランス・トラブル110番に相談が来ています。

フリーランスの人たちが自分の身を守るためには、フリーランス新法が施行される前であっても、契約条件を確認してから仕事をすることが大事です。もし報酬未払いや理不尽なトラブルがあったときは、電話でもオンラインでも良いので、フリーランス110番にぜひ相談してほしいですね。

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Source: 一般社団法人フリーランス協会, フリーランス・トラブル100当番, 厚生労働省, 公正取引委員会